商業施設新聞
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No.478

夕暮れの交差点


松山 悟

2014/10/21

【交差点での出来事・エピソード1】
見知らぬ人同士が集まる交差点では、意外な光景に出くわすこともある
見知らぬ人同士が集まる交差点では、
意外な光景に出くわすこともある
 夕暮れ時、家路を急ぐサラリーマンやOLが往来する通りに、荷物を前後に積み、よろよろ走っていた自転車がいた。交差点を渡ろうとしていたが、信号が赤に変わった。慌ててブレーキをかけた拍子に自転車が倒れ、乗っていた中年の婦人が四つんばいになって荷物が散乱した。

 自転車の倒れた音に周囲の人の視線が集まる。その瞬間、近くにいたOLがスッーと自転車に寄った、それも3人。3人はそれぞれ通りがかりでお互いを知らない。女性たちは連携して、自転車を起こし、婦人を立たせ、散らばった荷物を収集し、その中のひとりが小声で「大丈夫ですか」と声をかける。自転車の持ち主は恥ずかしそうな表情で黙って頷く。

 信号が青になり、自転車はまたよろよろ走り始め、手助けしたOLたちは何事もなかったように、往来の流れに消えた。

 僕も倒れた自転車を起こしてやるくらいの行為はできる。ただ、ほかに助けてやる人がいないのを確認して、自転車に近づくだろう。そして周囲の視線を意識しながら、「おばちゃん、こんなに荷物を積んだらいかんよ」と、自分でする行為の照れ隠しの言葉を吐くだろう。
 彼女たちの躊躇のない速やかな行動はなかなか見られない風景だと思った。

【交差点での出来事・エピソード2】
 大きな交差点の最前列で、信号待ちをしている20歳過ぎくらいの女性のグループがにぎやかな声でおしゃべりしている。同じく信号待ちをしている僕は、話の内容が周りに筒抜けだよ、と内心呆れて見ている。そこへ目の不自由な青年が白い杖で点字ブロックを叩きながら、女性グループの真後ろに来た。女性グループの一人が青年に気付き、お喋りを続けながら、仲間にアイコンタクトをする。

 信号が青に変わる。若い女性たちは青年のために、道を空けた。青年は点字ブロックのなくなった道路に一歩踏み出す。不安定な一歩だった。その時、女性のひとりが、「こっち」といって、青年の二の腕を軽くつかみ、若干の方向修正をした。そのあと、女性4人は青年の前後左右に位置取り、青年が交差点を渡り終えるまでサポートした。
 交差点のゴー、ストップが織りなす人間模様の一片だ。

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