セコム(株)取締役医療事業担当、セコム医療システム(株)代表取締役社長の布施達朗氏は5月15日、JPI(日本計画研究所)主催の特別セミナー「インド・バンガロール・総合病院の現状と課題を超えて、加速させる本格的グローバル展開と戦略」を行った。講演は、第1章 セコムの医療事業の概要((1)セコムが目指す「社会システム産業」、(2)セコムの医療事業戦略、(3)提携病院に対する取り組み)、第2章 成長戦略における医療の役割((1)社会保障制度改革の動向、(2)新たな成長戦略に向けて、(3)医療が果たすべき役割)、第3章 セコム医療事業のグローバル展開が目指すもの((1)世界の中の日本の役割、(2)インド市場分析、(3)SAKRA WORLD HOSPITAL)の概要、(4)病院運営の課題、(5)海外における今後の医療事業展開)の順で進められた。本リポートでは、第1章と第2章を今回、第3章を次回の2回に分けて伝える。
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◆91年に日本初の本格的在宅医療サービス開始
セコム(創業時:日本警備保障(株))は、飯田亮氏(現取締役最高顧問)と故戸田寿一氏が1962年に設立し、日本初の警備保障事業を開始した。創業のコンセプトとして(1)「社会のためになる」、(2)誰もやっていない、(3)将来性がある、を掲げた。63年の東京オリンピック選手村の警備の受注、81年のわが国初の家庭向け安全システム「マイアラーム」(現セコム・ホームセキュリティ)発売といった事業展開を経て、83年に社名をセコムに変更した。
89年に「社会システム」宣言、91年にわが国初の本格的な在宅医療サービス、94年にわが国初の遠隔画像診断支援サービス「ホスピネット」を開始、98年に保険事業、99年に地理情報事業へ参入、2001年にわが国初の位置情報提供サービス「ここセコム」発売、02年にセコム医療システム(株)設立、わが国初の食事支援ロボット「マイスプーン」発売、04年に「セコムAEDパッケージサービス」発売、11年にわが国初の写真や通帳などの個人情報を預かる「セコムホームセキュリティ G-カスタム」発売、12年に国内No.1規模のデータセンター(株)アット東京がセコムグループ入り、13年にわが国初の屋内外に対応する高齢者向け救急時対応サービス「セコム・マイドクタープラス」発売(ニチイ学館、ツクイと協業)、14年2月にインド初の日本企業と現地企業が共同運営する総合病院「SAKRA WORLD HOSPITAL」を開設した。
セコム(株)グループは、総企業数199社、総社員数5万3567人、連結子会社数174社で14年3月期連結売上高8222億8000万円、連結経常利益1266億7700万円を誇り、国内契約件数は事業所約90万8000件、家庭約97万9000件と、家庭が事業所を上回った。
「否定の精神」「現状打破の精神」「正しさの追求」「まともの精神」「利益は額に汗した努力から」を理念に、安心で快適なサービスを融合し、電力やガスといったインフラのように、新しい「社会システム産業」を構築することを目標に、地理情報サービス、セキュリティー、防災、メディカル保険、情報系企業、不動産事業、海外事業を展開する。
◆2000年代から提携病院、事業参画が急増
セコムの医療・介護・健康サービスの開始は、82年に家庭向けセキュリティシステム「マイアラーム」(現セコム・ホームセキュリティ)の付加サービスとして、救急通報システム「マイドクター」を提供したのがきっかけ。家庭での顧客の安心を追求すると、「お客様の生命を守る」ことにほかならず、医療・介護・健康は必要不可欠なセキュリティーとの認識に行き着いたからだ。
セコムの医療事業の歴史を見ると、88年に全米最大の病院経営会社HCA社の救急医療部門を買収(その後売却)、89年に全米3位の在宅医療サービス会社HMSS社を買収(その後売却)、91年にセコムファーマシー(調剤薬局)による薬剤提供サービスと、訪問看護サービスによる在宅医療事業を開始(自費サービス)、92年に24時間健康相談サービス「ホット健康ライン」を開始、(福)康和会 久我山病院と提携、94年に遠隔画像診断サービス(ホスピネット)を開始、セコムケアサービス(株)による介護事業を開始、96年に(株)プライムステージ「サクラビア成城」の経営に参画、98年にセコメディック病院と提携、電動式人工喉頭「マイボイス」発売、99年には保険対応の訪問看護サービス開始、「セコムの健康食品」の販売開始と、クリニック開業支援業務を開始した。
2000年からは高齢者住宅への経営参画や医療法人との提携が加速する。00年に、菱明ロイヤルライフ(株)「ロイヤルライフ多摩」「現コンフォートロイヤルライフ多摩」の経営に参画、(医)渓仁会(手稲渓仁会病院、札幌西円山病院、定山渓病院)、(医)晋真会 ベリタス病院、(医)横浜博萌会 西横浜国際総合病院と提携、医療用機器販売(株)マックがセコムとの提携を開始した。01年には在宅医療向け電子カルテシステムを発売、(医)社団誠馨会(千葉中央メディカルセンター(旧加曽利病院、総泉病院)、02年にセコム医療システム(株)設立(セコム医業事業部門と医療関連会社3社を統合)、(医)財団 神戸海星病院、(医)社団輝生会 初台リハビリテーション病院、(医)讃和会 友愛会病院と提携、セコム(株)が荒井商店へ出資((医)社団三喜会 鶴巻温泉病院、横浜新緑総合病院)と提携、04年にセコムシニア倶楽部たまプラーザオープン、05年に(医)社団三記東鳳 新東京病院および提携(現在は(医)社団誠馨会グループ)、(医)社団あんしん会 四谷メディカルキューブと提携、セコム健康くらぶKENKOオープン、06年にコンフォートガーデンあざみ野オープン、07年に(医)財団新誠会および(医)財団荻窪病院と提携、セコムシニア倶楽部見花山オープン、09年にコンフォートヒルズ六甲オープン、10年にセコムシニア倶楽部港北オープン、11年にセコムシニア倶楽部藤が丘とセコム在宅総合ケアセンター久我山がオープン、千葉メディカルセンターと提携、12年にセコム地域医療連携センター設立、13年にセコムカレアあざみ野オープン、14年にインド・バンガロールに病院「SAKRA WORLD HOSPITAL」を開設した。
◆IT活用地域医療連携モデルを国内から海外へ
セコム医療システム(株)は資本金65億4500万円、メディカル事業の売上高は538億円、経常利益45億円。
セコム医療システム(株)のミッションに、「『医療・介護・健康』分野において、患者様(お客様)本位の革新的かつ高品質なサービスを提供することで、『社会システム産業』構築の一翼を担う」を示し、セコムの医療の目的を「患者本位の、効率的で質の高い医療を提供する」としている。
セコム医療事業のビジョンは、「医療」とは地域社会に根差したもの、つまり、地域社会の中で、「治療」はもとより「予防」や「健康管理」を通して住民の健康をささえる存在であり、予防、急性期医療、回復期医療、慢性期医療、在宅医療、介護事業までITでつなぎ、シームレスな地域医療連携モデルを構築することである。布施氏は、「この地域医療連携モデルを増やして、ネットワークを構成していこうとしており、その場合、数十の病院と在宅拠点数百カ所が必要であるが、これを自前で整備するか、FCも組み合わせて進めるか、考えている」と展望する。そして、この地域医療連携モデルを日本から世界へ展開する。
セコム医療グループの行動指針は、(1)健康、医療、介護分野に携るプロフェッショナルとして、患者様、ご利用者に最高で最適なサービスを提供する。(2)常に患者様、ご利用者の気持ちに寄り添い、敬愛の心を持って真剣にサービスを提供する。(3)職種や、雇用形態、職責の上下に関わらず、常に対等な目線で仲間と接し、直接会話のコミュニケーションを心がける。(4)明るい笑顔、温かい気持ち、謙虚な姿勢を忘れずに患者様、ご利用者、仲間と接する。(5)よりよいサービスの提供が、適切な利潤を生み出し、永続的によりよいサービスを提供するサイクルを生み出すことを理解する。(6)永続的によりよいサービスを提供し続けるため、各部門別の目標管理の徹底とコスト管理を行い、結果として適切な利潤を生み出す。(7)常に最先端の技術のフォローを行い、技術革新を行う。(8)変化することを恐れずに、常に新しいことにチャレンジする。
セコム医療グループの商品・サービスは、健康・予防の会員制健康管理事業、健康食品事業、予防医療事業、医療では、訪問看護事業33カ所、在宅医療事業(調剤薬局3カ所)、電子カルテ事業(契約先330施設)、クリニック開業・運営支援事業、遠隔画像診断事業(報告先医療機関2400施設以上)、病院運営支援事業(提携医療機関18カ所)、セコムメディファーマ(株)、(株)マック、セコムメディカルリソース(株)、介護では、訪問介護事業(ケアステーション4カ所、在宅総合ケアセンター1カ所)、通所介護事業(デイサービス事業所5カ所)、有料老人ホーム事業(自立型2カ所、混合型2カ所、介護型9カ所、サ高住1カ所)を展開する。13年3月末現在で、提携医療機関は18病院、1有床診療所で構成し、許可病床数は5731床、常勤医師810人、常勤看護師3676人。
◆政府の「成長戦略」における医療の役割
布施氏は、続いて、政府の「成長戦略」における医療の役割について解説した。「戦略市場創造プラン」においては、「日本が国際的に強み」を持ち、「グローバル市場の成長が期待」でき、「一定の戦略分野が見込める」テーマに挙げられた「医療」「エネルギー」「インフラ」「農業・観光」のうち、「医療」においては、日本版NIH(医療分野の省庁横断機能)創設、MEJ(メディカルエクセレンスジャパン)活用による医療パッケージ輸出推進、ヘルスケアポイントの実証実験推進が提言されていることを紹介した。