JPI(日本計画研究所)主催の特別セミナーで、厚生労働省老健局高齢者支援課(併)振興課 高齢者居住福祉専門官の山口義敬氏による講演「『住まい』と『医療』と『介護』の連携が重要とされる『高齢者向け住まい』整備普及の為の施設の進捗と課題~有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅、医療と介護の連携、地域包括ケア等、課題への行政対応~」が行われた。
山口氏は、高齢者が住み慣れた地域で必要なサービスを受けながら暮らすことができる「地域包括ケア」の実現に向け、特に「住まい」の観点から、行政における現在の施策や今後の取り組みについて説明。家族によるサポートを受けることが困難な単身高齢者などについては、「住まい」が確保されるだけではなく、「医療」「介護」との連携が重要であることから、「高齢者向け住まい」の必要性は、今後ますます高まるものと考えられると講演要旨を述べたあと、講演に移った。
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◆有料老人ホームが高い伸び、サ高住が急増
山口氏は、「高齢者居住の現況と将来像」のなかで、日本の高齢者(65歳以上)1人に対する労働者人口(20~64歳)が1990年は5.1人であったが、2010年には2.6人とほぼ半減、25年に1.8人、60年には1.2人で支える「肩車型」に移行するとした。家族のサポートができないであろう高齢者世帯(単身や夫婦のみの高齢者世帯)では、世帯主が65歳以上の世帯数(うち単独世帯の比率、うち夫婦のみ世帯の比率)は、10年1620万世帯(30.7%、33.1%)、15年1889万世帯(31.8%、32.9%)、20年2006万世帯(33.3%、32.5%)、25年2015万世帯(34.8%、32.0%)、30年2011万世帯(36.3%、31.5%)と、65歳以上の夫婦のみ世帯は漸減するが、65歳以上の単独世帯が増加するとの予測を示した。
さらに、高齢者の住まいの現状では、高齢者世帯における持ち家率の低下により第1号被保険者3072万人のうち2980万人(97%)が在宅、第1号被保険者3072万人のうち要介護認定者539万人(18%)で、このうち447万人(83%)が在宅介護、施設等での被介護者92万人(17%)となっている。つまり、住宅、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などの在宅高齢者におけるケアのニーズが高まっていることを指摘した。
高齢者向け住まい・施設の定員数は、介護老人福祉施設が10年45万600床から12年49万8700床、介護老人保健施設が10年33万1400床から12年34万4300床、認知症高齢者グループホームが10年14万9700人から12年17万800人へと増加。軽費老人ホーム、養護老人ホームなどはほぼ横ばいで推移している。有料老人ホームは10年の23万5526戸から13年34万9975戸と伸びが高い。11年度に創設されたサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は12年に7万999戸であったのが、13年9月末時点で12万6803戸へと急増している。
◆2025年度に介護給付21兆円、保険料8200円
介護保険制度については、介護保険制度の仕組みや、00年4月と13年4月を比較した要介護度別認定者数の推移を説明した。要介護度別認定者数は、要支援・経過的要介護・要介護1は3.08倍、要介護2は2.52倍、要介護3は2.36倍、要介護4が2.05倍、要介護5が2.11倍と増加。これらに伴い、00年度の介護給付(総費用額)3.6兆円、保険料2911円から12年度の各8.9兆円、4972円へと増加、25年度には各21兆円程度(改革シナリオ)、8200円程度と予測している。
◆老人福祉法違反の事業者には厳しい指導を
有料老人ホームの概要においては、1998年の施設数288棟、入居定員3万792人から13年の8499棟、34万9975人へ一貫して高い伸びを示している。それに伴うトラブルと利用者保護規定の強化(短期間での契約解除の場合の返還ルール、権利金などの受領禁止)、さらに、老人福祉法の規定に違反している未届出の事業者や前払金の保全措置を講じていない有料老人ホームへの厳しい指導の必要性を述べた。
◆特定施設と住所地特例制度について
特定施設入居者生活介護についてでは、「特定施設入居者生活介護」は、特定施設に入居している要介護者を対象として行われる、日常生活上の世話、機能訓練、療養上の世話のことで、介護保険の対象となる介護サービスと制度を説明。特定施設の対象となる施設は有料老人ホーム、軽費老人ホーム(ケアハウス)、養護老人ホーム。
ここで明確にしておく必要があるのが住所地特例である。これは、介護保険制度においては、各人はその住所地の市町村の被保険者となり、それぞれの地域のサービス水準に見合った当該市町村の保険料を負担するのが原則であるものの、特定施設や介護保険施設については、施設の所在する市町村の財政への配慮等の観点から、特例として、入居者は入居前の市町村の被保険者となり、入居前に住所のあった(長年、介護保険料を支払った先の)市町村が保険給付を行う仕組みを設けている。
この住所地特例と特定施設との関係は、「特定施設(有料老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホーム)」については、「特定施設入居者生活介護」の提供の有無にかかわらず、住所地特例の対象となる。
入居している要介護者に「地域密着型特定施設入居者生活介護」という居宅サービスを提供する「地域密着型特定施設」(介護専用型で入居定員が29人以下の有料老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホーム)は、「特定施設」とは別の概念であり、特例の対象にならない。ただし、サービス付き高齢者向け住宅(有料老人ホーム該当)に限っては、(1)特定施設入居者生活介護の事業である場合か、(2)利用権方式による入居契約の場合のみ、特例の対象となる。
◆サービス付き高齢者向け住宅制度の創設
高齢者住まい法の改正、サービス付き高齢者向け住宅制度の創設は、高齢者単身・夫婦世帯の急増(10年1000万世帯19.9%から20年1245万世帯24.7%)、要介護度の低い高齢者も特養申込者となっている現況(待機者42万人、うち要介護1が5万2914人、要介護2が7万8657人)、高齢者住宅は諸外国と比較し不足(施設系は3.5%、住宅系0.9%で、施設系はデンマーク2.5%、英国3.7%、米国4.0%と遜色ないが、住宅系は各8.1%、8.0%、2.2%に対し少ない)が背景にある。住宅系0.9%を、20年までに3~5%へと引き上げる目標のもとで高齢者住まい法が改正された。
サ高住は、少なくとも安否確認と生活相談サービスを提供することが必要で、その他の「食事」、「介護」(入浴、排泄の介助など)、「生活支援」(買い物代行、病院への送り迎えなど)といったサービスが提供されるかどうかは、それぞれの住宅によって異なる。さらに、安否確認や生活相談が必須であることから、いざというときには適切な対応・サービスが受けられる環境(医療・介護へのつなぎ)が確保されていることが求められる。入居者は自身の心身の状況に照らし合わせて、必要な医療・介護サービスを受けることができるよう、個別にサービス事業者と契約を結ぶ必要がある。
サ高住の事業者自身が行う「介護サービス」は、介護保険適用外のサービスであり、その費用は、サービスを利用する者の全額負担となる。例外として、サ高住が「特定施設入居者生活介護」の事業所として指定を受けている場合は、住宅事業者自身が行う介護サービスにも介護保険が適用される。ただし、この場合はいわゆる外付けサービスではないことに注意が必要である。
◆サ高住=有料老人Hとなるための要件
介護付有料老人ホームでは、ホーム事業者が提供する介護保険サービスをホーム内で受けられる。一方、サ高住および住宅型有料老人ホームでは、必要に応じて、入居者自身が外部サービス事業者と契約して、介護保険サービスの提供を受ける体制となっており、サ高住と住宅型有料老人ホームのおおよそ8割がこのタイプとなっている。
サ高住が、有料老人ホームの要件「(1)食事の提供」「(2)介護の提供」「(3)家事の供与」「(4)健康管理の供与」のいずれかを「住宅事業の一部として」実施している場合、そのサ高住は「有料老人ホーム」に該当することとなり、老人福祉法の指導監督の対象となる。
サービス付き高齢者向け住宅(有効回答数3391件)においては、状況把握・生活相談サービス以外に、94.9%の物件において食事の提供サービスがなされており、このほか、入浴等の介護サービスを50.1%、調理等の家事サービスを52.5%、健康維持増進サービスを60.8%の住宅が提供している。
また、継続的なサービス提供の必要性として、入居契約においては、加齢に伴って高齢者の状態が変化(入院、要介護度認定の上昇、認知症への移行など)しても、事業者側が入居者に対して介護居室への住み替えや退去(解約)を迫ることはできない。事業者の留意点として、それぞれの住宅においてはサービス提供体制は異なり、それに応じた費用負担が入居者に求められるため、入居契約の前に、「どのような状態になった場合」には、「どのようなサービスが提供できるのか」をあらかじめ入居希望者に対して十分に説明することが必要となる。