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テルモ(株) 取締役 専務執行役員・テルモ(中国)投資有限公司 董事長兼総経理 三村孝仁氏


「中国はリスクあるが、投資しないリスクも」

2013/12/10

三村孝仁氏
三村孝仁氏
 JPI(日本計画研究所)主催の特別セミナー「巨大市場中国でテルモが取組む開発から生産、販売、保守一貫体制の全容と今後の戦略」が10月25日に行われた。講師は、中国市場開拓で実績を持つテルモ(株)取締役 専務執行役員・テルモ(中国)投資有限公司 董事長兼総経理の三村孝仁氏。
◆中国市場は倍倍ゲームで増収
 テルモはカテーテルなど心臓血管領域分野に強みを持ち、海外比率も50%以上と高い。中国事業については、三村氏が中国に赴任した2009年当時、全社売り上げ約3000億円のうちの2%程度にとどまっていたが、12年には全社売り上げが4000億円に拡大した中で比率が4%まで拡大し、倍倍ゲームで売り上げを伸ばしている。
 三村氏は1977年にテルモに入社し、02年に執行役員に就任。その後、07年に取締役常務執行役員、09年に中国・アジア統括、10年には中国総代表、取締役専務執行役員に就任した。
 講演では、中国と日本の価値観、考え方の違いを踏まえ、中国でビジネスをすることの要点として、これまでの経験、実績から成功例、失敗例を取り混ぜ中国企業への投資、提携の考え方などを説明した。
 項目として、「中国と日本の違いと医療市場の現状」、「テルモの中国ビジネス」、「中国における提携と投資について」の3点を挙げ、リスクは伴うものの、成長が続く中国市場への投資は意味があることを強調した。
◆中国と日本の違いと医療市場の現状把握が重要
 三村氏は中国へ投資進出する上で、まずは中国について知り、山ほどある文化のギャップを理解し、中国医療市場について理解を深める必要があることを強調した。中国は官が絶対的な権力を持ち、医療機器の基準や使用するものを決めるのは政府であり、共産主義国家であることを忘れてはならない。
 また、物事を実行する際に、日本では段取りが重要であるのに対し、中国では段取りは少なく、権限のある人が即決し、実行しながら修正するパターンが多い。また、品質、耐久性への考え方も、中国では高品質の製品を求めるが過剰品質は追求せず、新しい物が好きで、古い機能は長くは使いたがらないという気質がある。
 数多くある日中の文化のギャップを知ることも重要である。現地化については、会社の意思決定には中国人幹部が加わる経営が必要であり、管理職の権限も限定範囲で公私混同がなければ認める必要がある。
 中国において成功できない企業は、日本式のトップダウン、いわゆる意思決定は何でも日本が行っている。コンプライアンスについても職業倫理に対する考え方が根本的に異なり、日本では性善説に立って物事を考えるが、中国では性悪説が前提であり、時間をかけて信頼関係を築き上げることが重要であると語った。
◆中国医療市場は圧倒的な外国資本市場
 中国の医療市場は、圧倒的な外国市場で、売り上げベースでは全体の70%は外国の医療機器が占めている。国が重点強化産業の一つとして医薬品、医療機器育成に注力しており、技術的に不足している部分は外資系企業と手を結ぶ方向にある。国産品振興も新医療改革で加速化しており、入札条件に国内生産を明記される例も出てきている。
 一方、少子高齢化が加速しており、日本の介護や老人医療技術は、中国での大きなビジネスチャンスとなると指摘している。また、世界でもまれな健康志向の国民であるため、健康診断、人間ドック、老人ホームなどのビジネスも拡大する可能性がある。
 高度医療を提供する三級病院は、約1400病院だけしかないにもかかわらず、外来患者の約15%が殺到し、泊まりがけで来る患者も多く、ブランド志向が非常に強いのも大きな特徴である。従事する医師の待遇が低いため、モラルは低い。このため、医学部卒業の学生のうち医師になるのは10%程度であり、テルモの事業部門のトップは大半が医師で占められている。09年度にスタートした新医療制度改革ではこれらの問題も含め、改正しようとの試みが行われている。
◆地道な地域貢献が重要
 テルモは海外事業において力を持つが、中国市場においても同様である。1995年に体温計、血圧計など汎用医療器主体の杭州工場、96年に血液バッグの長春工場を立ち上げて以来、現在までに中国国内に10カ所の支店を持つ。本社機能を北京にしたのは中国では中央で物事を決めるため、即決できるとの判断である。地域貢献も重要であり、03年のSARSの時には援助を行い、浙江大学医学部には6年間奨学基金を継続し、10年の上海万博では日本産業館に出展している。日本の医師による継続的な技術指導など学術支援も継続しており、現地採用、育成も行っている。日本パビリオン出展の折には有力な政府機関も来館しており、地域貢献を地道に行う重要性を説いた。
◆テルモの中国売上比率、16年には8%規模に
 中国における売り上げは順調に推移している。三村氏が中国に赴任した09年から毎年30%以上の伸びを示しており、12年には初めて2億ドルを突破、13年も20%以上の伸びが見込めるという。中期計画では16年に4億ドルが可能とし、製品は日本における注射器、針などの基盤商品とは異なり、心臓血管の関連商品が多数を占めている。
 中国売上比率は、09年当時に全体の2%程度であったのに対し、12年は4%まで拡大し、16年には8%程度まで倍倍ゲームで成長する見通しである。
 中国の医療マーケットの成長は著しく、17年には米国に次ぐマーケット規模となる見通しで、中国市場を無視できないのは当然である。テルモの本社の専務である三村氏が中国に赴任しているのも、決定権がない人がいて簡単には成長できる国ではないのとの認識の下であり、官社会の中では肩書き(名刺)は重要な力となることも付け加えている。
 中期的な戦略商品としては、得意とする心臓血管関連商品のラインアップ拡大と現地生産によるコストダウンを挙げ、汎用品も特徴のある新商品の拡大、現地企業との提携強化を挙げている。また、競争力アップへ組織強化とインフラ整備が重要であり、現地人幹部による運営、大型販売代理店に頼らないメーカー主導による販売チャネルの合理化が必要であると話している。
 中国における提携は非常に重要なところである。同社が96年に合弁で設立した長春工場は世界市場向け血液バッグの工場であるが、世界市場で強みを持つため、ドアオープナーとしての役割もある。ただ、間もなく地場の産業が立ち上がったため価格競争に巻き込まれ、赤字のスパイラルが続いている。同様にテルモのブランドだけで売れると思ったが、当然それだけでは成功は難しいなど失敗例も語った。
◆腹膜透析や高血圧治療で中国企業と提携
 その後、山東省にある中国最大の医療機器メーカーと腹膜透析の提携を結んだ。中国の糖尿病患者は1億人を突破し、腎不全の在宅治療が可能な腹膜透析の需要が増える見通しとなっている。ただこの分野はB社の独占市場で国産待望論が出ており、重点分野ともなっている。行政当局の後押しもあり、今後が期待できる分野であり、様々な情報が入手できるメリットもある。
 同様に、中国の企業と高血圧治療の領域で提携した。高血圧患者は将来的に急増する見通しで、国民の健康貢献にもつながり、初めて提供する治療であるため魅力的な分野であり、三村氏は早期に国産先発で市場参入するのが成功するカギであると強調し、今後は手首から挿入するカテーテル手技を差別化のポイントにしたいと語った。
◆中国はやり方次第で良い市場になりうる
 三村氏はセミナーの最後に、これまでの経験を踏まえ、中国を知ることは出張ベースでは難しく、最低でも1年間中国に滞在しないとわからない。そして中国に大きな市場があることと自社の製品が売れるというのは全く関係がないとし、中国の市場を鑑み、小さくても大きく育つものを考える必要があり、加えて意思決定は中国の現場で行うべきであると強調した。
 中国市場はリスクがあるが、投資しないリスクもある。将来的に世界第2位のマーケットに成長する可能性もあることを念頭に入れるべきであり、難しい市場ではあるが、やり方によっては良い市場になり得ると締めくくり、セミナーを終了した。
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