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厚労省の宮永敬市氏が講演、再興戦略における介護ロボ実用化支援(上)


「高齢者の社会参加が転倒や認知症・うつのリスクを低減」

2013/11/5

宮永敬市氏
宮永敬市氏
 JPI(日本計画研究所)主催の特別セミナーで、厚生労働省老健局振興課 福祉用具・住宅改修指導官 介護支援専門官の宮永敬市氏による講演「日本再興戦略における新介護ロボット実用化支援の具体施策と重点活用~『ロボット介護機器開発5カ年計画』の実施 介護現場ニーズ 実証試験普及啓発等」が行われた。宮永氏の講演は、(1)介護保険をとりまく状況について、(2)介護ロボットに関する施設の現状について、(3)介護保険制度における福祉用具サービスについて、(4)介護ロボット実用化支援に関する取り組みについて、の順で進められた。今回は(1)の内容を伝える。

◇   ◇   ◇

◆地域特性反映した地域包括ケアシステム構築を
 宮永氏は、今後の高齢者数の中長期予測、都市部の急増と地方の緩やかな増加、高齢者の単独世帯や夫婦世帯の増加、要介護認定高齢者の約6割が認知症といった認知症高齢者の現状、介護保険の総費用の増加(2000年度制度創設10年余りで2倍以上の伸び)、2025年度に向けた介護サービスの改革シナリオ(12年度の介護費用8.9兆円→25年度21兆円、12年度の月額第1号保険料4972円→25年度約8200円)といった現状と予測を概説したうえで、持続可能な介護保険制度を確立し、安心して生活できる地域づくりのために必要な、介護の将来像(地域包括ケアシステム)を解説した。
 地域包括ケアシステムの実現に向けては、人口が横ばいで75歳以上が急増する大都市部、75歳以上人口の増加は緩やかだが人口が減少する町村部といった高齢化の進展状況には地域差があり、保険者である市町村が、地域の特性や実情に応じて作り上げていくことが必要と指摘した。そのプロセスは、日常生活圏域ニーズ調査や「地域ケア会議」の実施、医療・介護情報の「見える化」といった方法で量的・質的分析、課題の抽出と社会資源の発掘、事業化・施策化の協議、策定した介護保険事業計画に基づいた対応策の決定・実行となる。
◆多様な主体による生活支援サービスが必要
 介護保険対象外の生活支援サービスのニーズも高まっており、その充実のために、介護予防と軽度者に対する生活支援の一体的運営や、地域住民の主体的取り組みによる互助活動の推進、具体的にはボランティア、NPO、民間企業、社会福祉法人といった多様な主体が生活支援サービスを提供することが必要であり、さらには、高齢者の社会参加をより一層推進することを通じて、元気な高齢者が生活支援の担い手として活躍することも期待される。つまり、高齢者が社会的役割を持つことで、生きがいや介護予防にもつながるとしている。
 地域包括ケア体制の強化のため、この多様な主体による生活支援サービスの重層的な提供体制の構築と、介護予防の強化を推進する。介護予防強化に関しては、地域の実情に応じ、住民主体の取り組みを含めた多様な主体が柔軟な取り組みにより、効果的かつ効率的にサービスの提供ができるよう、介護予防給付の地域支援事業への移行が検討されている。
◆社会参加が転倒や認知症・うつのリスクを低減
 スポーツ関係、ボランティア、趣味関係のグループなどへの社会参加の割合が高い地域ほど、転倒や認知症やうつのリスクが低い傾向が見られる。12~13年度の「市町村介護予防強化推進事業」(予防モデル事業)では、要支援者などに必要な予防サービスおよび生活支援サービスを明らかにするために、一次予防事業対象者から要介護2までのものであって、ADLが自立または見守りレベルかつ日常生活行為の支援の必要可能性があるものに対するサービスニーズの把握、必要なサービス(予防サービスおよび生活支援サービス)の実施、効果の計測および課題の整理が行われている。
◆福祉機器は高齢者の「できる」を支援する手段
 11年度の介護給付費実態調査によれば、要支援度、要介護度が低い層ほど、重度化する傾向が見られた。宮永氏は、改めて高齢になることとは、生活を送る上で作業の作り直しが求められる時期(老化や病気による心身機能の低下により、これまでできていた家事や余暇活動が困難になる、退職や家族構成の変化により自由時間が増えるなど)であり、この作り直しがうまくいかないと、喪失体験の連続(したいことがあっても→あきらめ)、時間が多くあるけれど何をしてよいか分からない、話したいが話す相手がいないという状況に陥りやすくなると説明した。
 このような変化の中で、「自らの力で生活し続けることができる」という自信をつけるための生活目標の設定、本人のしたいこと、してみたいことを本人とともに見つけ、すぐに届きそうな目標(できそうなこと)から開始しながら、さらに本人の「できる」をサポートするとても有効な手段である福祉機器の活用を検討する必要があり、また本人のしたいこと、してみたいことを達成するために、有効性の高い介護ロボットの開発が求められている。こうした段階、判断を経て、必要とあれば人的な支援によるサポート、介護サービスの利用を検討する。
◆現状の「自立支援」のサポートは要再考
 宮永氏は、以上の判断基準に照らしながら、福祉用具の活用実態について次の具体例を挙げた。
 まず、一人で歩くのは難しいが、座ったり、ベッドから車いすに移ることができる人が、デイサービスの時、できるだけ車いすに座って食事をとったり、活動に参加できるように支援しているケースは、自立支援の観点から日中座る時間を長くしているように思われるが、「車いすは移動手段」であり、食事なら車いすからいすに移るべきである。
 また、同じ人の買い物の場合、ヘルパーが車いすを押し、できるだけ本人が品物を選びやすいように配慮してゆっくりと移動し、選んだものをヘルパーがショッピングかごに入れているケースで、自立支援の観点から利用者の自己選択を支援しているといえるであろうかと問いかけて、買い物では本人が車いすを操って移動し、商品を選び確認する作業を促すことこそ自立支援であると解説した。
 12年度から給付対象となった自動排泄処理装置は、全国で700件ほどが利用されており、介護者の夜間の十分な睡眠など負担が軽減され、生活を継続する自信を取り戻し、また、被介護者のQOLの向上につながっているが、ケアマネージャーはあまりその有用性を知らず、宮永氏は「人手によるケア」が主眼になっていると指摘した。
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