(福)仁生社 江戸川病院(東京都江戸川区東小岩2-2-4-18、Tel.03-3673-1221)と医療機器スタートアップの(株)ビードットメディカル(東京都江戸川区春江町5-10-10、Tel.03-6808-8731)は、4月3日、同社が開発する超小型陽子線がん治療装置の初号機導入に向け、基本契約締結の調印式を開催した。調印会場は装置導入を予定している(福)仁生社 江戸川メディケア病院(江戸川区東松本2-14-12)。両者は、2022年12月20日に同装置の導入に関する基本合意書を締結している。
江戸川病院の加藤正二郎院長は、「私ども江戸川病院グループは、『東京江戸川がんセンター構想』を掲げ、希望する誰もが先進的な高度がん治療を受けることができる環境の実現を目指しており、この一環として、陽子線治療を追加し、より低侵襲で治療効果の高い幅広い治療を提供したい。江戸川メディケア病院は、東京都内をはじめとした埼玉県や千葉県などの首都圏からアクセスは良好であり、首都圏のがん患者さまに先端医療の提供が実現する」と抱負を述べた。
左から江戸川病院グループ 加藤正弘理事長、
同加藤正二郎院長、
ビードットメディカル古川卓司社長
ビードットメディカルの古川卓司代表取締役社長は、「当社は江戸川区発のスタートアップ企業として、江戸川区地域医療の拠点施設である江戸川病院様と共に、都内最初の陽子線治療の実現を含む東京江戸川がんセンター構想のチャレンジに参画できることは大変光栄です。今後はこの構想の実現のため、さらなる開発のアクセルを踏み、私たちの技術を江戸川区から世界に届けることに引き続き邁進してまいりたい」と意気込む。
陽子線がん治療施設の普及の課題として、(1)巨大な治療装置・膨大な導入コスト、(2)治療室稼働率の悪さ・収益性の低さがあるが、同社は、(1)について、これまでの200tともいわれる巨大な機構の回転ガントリーを使用せず、特許を取得している電磁石技術により照射方向を変える方式を導入することで、従来装置より高さを3分の1、重さを約10分の1まで小型化可能である。
また、スキャニング電磁石と患者までの距離を3分の1ほどの1mに短縮化し、小型化に寄与している。また、課題の(2)については、放射線治療は、照射の時間自体はとても短く、ビームを正確に腫瘍に充てるための「位置決め」などの準備に長い時間を要する。これにより患者一人の治療室占有時間が長くなり、治療できる患者が少なくなるが、同社は、治療室とは別の位置決め室での準備作業を行い、自走式治療台で治療室に移動することで、より多くの患者に陽子線治療を提供することが可能となるとしている。
今後のスケジュールは、江戸川メディケア病院の敷地において、治療施設の建設を進め、2年ほどの工期を経て、その半年後の治療開始を目指す。施設は、テニスコート半分ほどの敷地に建設し、2台の治療装置を導入する。ビードットメディカルでは、薬機法の承認申請手続きを進めており、早期の承認を目指している。
なお、江戸川病院グループは、16年7月、江戸川病院敷地内で新設したBNCTセンターに、国立がん研究センターと同じ装置を設置した。その後、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の開始を目指し、準備を進め、この6月からの治療開始を目指している。同病院では、トモセラピー3台やダ・ヴィンチ、3テスラを含むMRIなど最新の医療機器の導入とがん治療に取り組む。18年夏には、MRI監視下強度変調放射線治療システムのメリディアン(ビューレイ社)を導入した。
陽子線がん治療施設が建設される
江戸川メディケア病院
加藤院長は、陽子線治療、BNCTについて、「BNCTは表面から深度が7cm以内のがんが対象となり、また、陽子線治療はがんの位置に合わせて照射エネルギーを最大とすることができる。また、体内を透過しないことから低侵襲であり、従来の最先端の放射線治療とともに、患者さんにとって治療の選択肢が増えることになる」と説明する。
一方、ビードットメディカルでは、今後の陽子線がん治療市場の展望として、MEDraysintell Proton Therapy Edition2021のデータを引用し、市場別の20年実績の施設数(治療室数)/25年見込みの施設数(治療室数)は、北米42施設(116室)/57施設(141室)、欧州29施設(64室)/44施設(91室)、アジア圏33施設(86室)/72施設(180室)、アジア圏のうち日本が24施設(57室)/27施設(61室)としている。世界市場合計は111施設(297室)/186施設(441室)。
なお、古川代表は、放射線医学総合研究所において、重粒子線がん治療システムの開発に携わり、世界で初めて「呼吸同期スキャニング照射」の臨床運用に成功した。
(編集長 倉知良次)