電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第539回

STマイクロエレクトロニクス(株) 日本担当 カントリーマネージャー 高桑浩一郎氏


自動車や産機向けは全方位展開
売上高200億ドル超へ積極投資

2023/8/25

STマイクロエレクトロニクス(株) 日本担当 カントリーマネージャー 高桑浩一郎氏
 パワー半導体からMEMS、MCU、アナログ半導体、不揮発性メモリーまであらゆる半導体製品群を全網羅でラインアップするSTマイクロエレクトロニクス(スイス)。2025~27年に売上高200億ドル超の達成を目指し、全社一丸で邁進している。22年7月から日本担当カントリーマネージャーとして日本での陣頭指揮を執るのは高桑浩一郎氏だ。テニス、ゴルフ、野球が趣味という高桑氏に、現況や今後の方向性などをお聞きした。

―― 業績や市況感から。
 高桑 直近の23年4~6月期売上高は前年同期比12.7%増の43.3億ドル、営業利益も同14.2%増の11.5億ドルと好調に推移した。また、23年も前年比8%増の174億ドルと増収予想だ。車載を筆頭に産業機器(産機)向けが堅調であり、それに付随した車載用製品群、産機向けMCUなどの伸びが続いている。
 半導体の供給不足は、現時点で一部の車載向け製品で課題が残っているが、全体感としてはほぼ解消に向かいつつある。一方、スマートフォンは以前に比べて買い替えサイクルが鈍化しており、需要の弱含みが続いている。

―― 日本でのビジネス戦略について。
 高桑 スマート・モビリティー、パワー&エネルギー、IoT&コネクティビティーの3領域に注力していく。なかでも日本が存在感を示す自動車向けや産機向けは全方位で展開していく。

―― スマート・モビリティーに向けては。
 高桑 電子化と電動化を二本柱として製品展開していく。電子化では車載用32ビットMCU「Stellarファミリ」が肝となる。トラクションインバーター、DC-DCコンバーター、オンボードチャージャー(OBC)などのアプリケーションをサポートするのは「Stellar-Eシリーズ」のMCUで、23年内に量産を開始する予定だ。その上位のゾーンコントロールを担うのはプロセスノード28nmのStellar MCUであり、サンプルを出荷中だ。
 そして最上位のハイエンドプロセッサー「Stellar MPU」の開発を現在進めている。自動運転レベル4、レベル5の自動運転車両においてコンピューティングプラットフォームをサポートする中核製品であり、プロセスノード7nmで製造予定だ。ちなみに、製造は自社のクロル工場(フランス)とファンドリーの両方で担う。

―― 電動化については。
 高桑 パワー半導体が成長ドライバーになる。トラクションインバーター、OBC、DC-DCコンバーター、PTC(Positive Thermal Coefficient)ヒーター、エアコン、2次電池制御システムに向けて、シリコンIGBT&MOSFET、SiC MOSFET、パワーGaN、モジュールではパワーモジュールとインテリジェントパワーモジュールを全網羅で取り揃えている。特に需要が旺盛なSiCパワー製品では23年に売上高10億ドル超を目指しており、増強投資も断行中だ。

―― 車室内向けは。
 高桑 欧州のEuro-NCAPなど規制の後押しを受けて、車室内検知システムを搭載する自動車は22年に1000万台、27年には5000万台になると予測されている。当社も、DMS(Driver Monitoring Systems)や乗員検知、車室内検知向けに画素数5.1Mピクセルのイメージセンサーを展開しており、24年には大手顧客案件で大規模量産を開始する予定だ。

―― 産機向けについて。
 高桑 産機向け汎用MCUで世界シェアトップを堅持しており、汎用MCU「STM32ファミリ」が成長軸だ。日本でもソフトウエアの無償提供など当社の開発エコシステムの充実による導入のしやすさなどが評価されている。そしてMEMS製品ではインテリジェント・センサー処理ユニットを搭載したインテリジェントセンサー、車載グレードのMEMS慣性モジュール「ASM330LHB」にMLC(機械学習コア)を内蔵し、エッジ側でAIアルゴリズムでの様々な処理・制御を可能にしている。また、GaN製品でも7月にパワーGaNの産業グレード650V耐圧品を上市した。今後、車載グレード対応品のリリースも予定している。

―― 増強の進捗は。
 高桑 前提として、当社には前工程7拠点、後工程7拠点の計14工場がある。そのなかで300mmでは仏クロル工場、伊アグラテ工場を増強中であり、25年にはこれまでの約2倍に能力が引き上がる。SiCでは伊カターニャで6インチ、8インチ(23年内量産開始、25年フル稼働予定)、シンガポールで6インチを増強しており、25年に20年比約5倍へと引き上げていく。
 さらに、中国の三安光電と合弁で中国・重慶市にSiC新工場(8インチウエハー使用)建設を計画しており、25年10~12月期に生産を開始し、28年のフル稼働を目指す。なお、SiCの後工程は中国・深センとモロッコのブスクラ工場が担う。また、24年までにSiC基板内製率40%超の体制を整備する。パワーGaNは仏トゥール工場で200mm品を23年から量産し、RF-GaNの150mm品を伊カターニャ工場で量産中である。

―― 座右の銘および日本としての展望をお聞かせ下さい。
 高桑 「まずはトライ!」、そして「実るほど頭を垂れる稲穂かな」を心がけ、チャレンジ精神と謙虚さを常に大切にしている。日本法人の舵取りでも何事にもこの姿勢で挑んでいる。日本法人としては、当社の多くのポートフォリオを活かしたシステム提案力・フルサポート力という強みをさらに強化すべく、当社の3製品グループの垣根を超えた社員交流などの取り組みを新たに始めている。同時に人材力強化へ社員トレーニングも徹底している。また、日本の顧客ニーズを本社へフィードバックすることで、日本のお客様に貢献できる新製品の創出にもつなげていきたい。

(聞き手・高澤里美記者)
本紙2023年8月24日号3面 掲載

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