商業施設新聞
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第393回

(株)SHIBUYA109エンタテイメント 代表取締役社長 石川あゆみ氏


体験価値の向上が重要
若者の“推し活”など応援

2023/8/15

(株)SHIBUYA109エンタテイメント 代表取締役社長 石川あゆみ氏
 (株)SHIBUYA109エンタテイメント(東京都渋谷区)は、東急グループの中で若者との接点を作ることを期待され、売り上げはコロナ前と同等水準まで回復してきた。コロナを経て、若者の消費行動の変化もみられるという。同社代表取締役社長の石川あゆみ氏に、現在の動向から今日の若者の特性、今後の方針などを聞いた。

―― 足元の動向は。
 石川 渋谷店はコロナ前の2019年度比で入館者数は9割に、売り上げはほぼ同等にまで回復した。売り上げが戻ったのは買い上げ点数が増加したことに起因している。外出時に着ていく洋服を一式揃えるお客様が増え、我々もセット販売を強化した。また、「MAGNET by SHIBUYA109」ではエンタメへの消費がより加速した。
 一方で、郊外型の阿倍野店はコロナ禍の落ち込みが少なかったこともあり、回復度合いが小さい。行動制限の緩和により、ゴールデンウィークなどの長期休暇の目的地になりづらくなっている。阿倍野店ほどではないが、鹿児島店でも同様の傾向が見られる。

―― コロナを経て消費行動に変化はありましたか。
 石川 「自分には何が似合うのか」を吟味し、必要と判断したら多少値段が張っても購入する傾向が強まり、それが今も継続していると感じる。また、「推し活」や「応援消費」など、好きな人やモノのために惜しみなくお金を使いたい人が増えた。若者においては、狭いコミュニティを複数ジャンルに持ち、その中で消費やコミュニケーションを活発化させる「界隈消費」も見られる。

―― コンテンツとのコラボにも積極的ですね。
 石川 渋谷店で2店、阿倍野店で1店展開する「DISP!!!」(ディスプ)がエンタテイメントコンテンツの発信拠点となっている。ジャンルはK-POPからVtuber、SNS発のキャラクターまで幅広い。集客力の高いコンテンツとコラボできるかどうかが売り上げに直結する。
 社内では、事業ごとの専属チームが常日頃から若者の動向やトレンドをリサーチし、その結果を館内に落とし込むようにしている。例えばK-POPとコラボする際はK-POPが好きな層がよく見ているインスタグラムのテイストなどを分析し、館内の装飾などに反映する。そうすることでお客様の体験価値を向上することができる。

―― 「体験価値の向上」について。
 石川 若者は、SNSなどで魅力的な商業施設の情報を得て、そこに足を運んだあとには感想をSNSで発信する。若者の行動サイクルにおいて商業施設はオンラインの体験の「中間地点」となっていると言え、中間地点に体験価値を持たせなければスルーされてしまう。館全体で「好きなもの」の世界観を体現するなど、館内に満足度を高める仕掛けを作っていくことが、若者の足を止めることにつながる。

―― SHIBUYA109としてのさらなる他都市への展開などは。
 石川 「SHIBYA109」としての他都市へのパッケージ展開は想定しておらず、今は渋谷店の価値をより高めて他事業に発展させることに注力する方針だ。ただ、ディスプなどコンテンツ単独でポップアップ展開を行う可能性はある。
 今は昔と違ってどこにでもSCがあり、洋服ならどこでも買える。そのような中で他の商業施設と差別化するには、SHIBUYA109として若者の体験価値をどこまで作っていくかが重要になってくる。例えば阿倍野では、地元の高校生と共同で商品開発を行った。このような若者を応援する取り組みを他店にも広げていきたい。

―― 渋谷という街への期待は。
 石川 少子化により若者の母数は少なくなるが、新たなトレンドを生む熱量が最も高いのが若者だというのは変わらないだろう。若者が集まり、若者起点で文化のトレンドが生まれる街であり続けてほしいと思う。さらに、若者と近年渋谷で増加しているオフィスワーカーが混ざり合うようなカオス感が維持されればより良い。
 東急グループは「エンタテイメントシティSHIBUYA」を掲げている。当社が若者と接点を持ち続けることで、グループ全体で渋谷を盛り上げていきたい。

―― 商業施設運営以外の事業について。
 石川 22年3月にメタバース・NFT事業に本格参入した。コロナで休館が続き、お客様に発信する術がなくなってしまうことへの危機感から始まった事業だ。渋谷のアイコンとしての世界的な知名度を強みに、リアル店舗に依存しないSHIBUYA109のあり方を模索していく。
 また、当社は21年度を始期とする経営方針において「若者ソリューションカンパニー」としての成長を掲げ、マーケティングを通じて蓄積した「若者インサイト」を外部に提供している。商業施設の運営だけでなく、ソリューション提供などでも事業を拡大することで、若者たちに寄り添い続けられる企業でありたい。

(聞き手・本紙編集部)
商業施設新聞2507号(2023年8月8日)(1面)
 デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.413

サイト内検索