電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第537回

国家戦略カンパニーのラピダスは千歳に空前絶後の巨大工場


北海道バレーの構想も浮上し、道内の工場立地は実に100件近くに及ぶ

2023/6/30

 「半導体を制する者は世界を制する!」

 これは半導体産業の国家的支援を呼びかけた自民党の議員連盟の会長を務める甘利明氏の言葉である。いまや世界の安全保障、サプライチェーン、軍事防衛、さらには経済・株価をも動かす重要産業となった半導体は、世界各国で開発・量産などに向けての強化策を打ち出し始めている。

 日本企業の半導体の世界シェアは90年当時に53%を占有し、一大王国を築いていたが、その後30年以上にわたり負けて負けて、負け続けた。その結果として、いまや国内の半導体生産という面で見れば、世界の6%しかない。企業別のシェアとしても8%しか持っていない。こうなれば何としてでも国家が先頭に立って立て直すしかない、というのは当然のことなのだ。

 ニッポン半導体再建のための国家戦略プロジェクトカンパニーとも言うべきラピダス(Rapidus)は、2022年8月10日に設立された。資本金は73億4600万円であり、これに出資する会社はトヨタ自動車、デンソー、ソニーグループ、NTT、NEC、ソフトバンク、キオクシア、三菱UFJ銀行の8社である。一見してわかることは、自動車向け半導体、画像センサー系の半導体、通信系の半導体、さらにはメモリー系の半導体に強く関心を持っている会社が参画しているのだと考えてよいのだろう。

 このカンパニーの目的は、世界最先端のロジック半導体(2nm以下)のプロセス開発、および国内に建設する大型量産工場ということにある。そしてまた、これに連動する組織は、技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)であり、いわば開発や学の世界とつながっていく連合体なのである。

 これまでの国家プロジェクトと大きく違うのは、ひたすらにオールジャパンを叫んでいないことだ。まず製造プロセスおよびデバイス構造については、半導体の開発・量産で大きな実績を持っている米国IBMと先端2nm半導体の共同開発で戦略提携を締結した。「GAA」と呼ぶ立体構造のトランジスタで、ナノシート構造を採用するのだ。7nmチップに比べて45%の性能向上を図ることができ、消費電力についても75%を低減するというとんでもない優れものなのである。一方、欧州においては、ベルギーの先端半導体技術研究機関「imec」と協力覚書も調印している。

 「ラピダスの新工場を建設することを決めた北海道千歳は、豊富な水に恵まれ、かつ豊富な自然に恵まれ、そして人材についても十分に手当てできるところだと思っている。北海道はこれまで半導体産業には大きなかかわりがなかったが、これを契機に、北海道バレーを構築するという一大計画もあるのだ。半導体工場に関連し、装置・材料の新工場立地やデータセンター進出なども呼び込んで、恐るべき巨大なスケールのサイエンスパークが誕生することになる」

JPCAショウで講演したラピダスの小池社長(左)/JPCAの山本副会長(右)
JPCAショウで講演したラピダスの小池社長(左)/JPCAの山本副会長(右)
 こう語るのは、ラピダスにあって、取締役会長の任にあり、かつLSTCの最高責任者である東哲郎氏である。東氏はよく知られているように、東京エレクトロンという半導体製造装置企業を世界トップレベルに押し上げた最大の功労者であり、日本の半導体を代表する人と言ってもよい。

 東氏が指摘するとおりに、北海道の企業立地は98件となっており、かなりの高水準を記録している。やはり道外企業による北海道進出がはっきりと増えてきているわけであり、実に51社が新立地したのだ。

 「ラピダスのミッションは、半導体イノベーションの求心力を強めることである。このためには、①AI(時代のニーズ)、②スピード(競争軸)、③グリーン(社会的責任)、これをしっかりとやることにある。ChatGPTをはじめとする人工知能の活用はうなぎ登りとなっており、2019年段階では41ゼタバイトであったものが、2025年には181ゼタバイトになると言われている。なんとこの間の年平均成長率は23%なのである。これに対応するための半導体の量産出荷を何としてもやらなければならず、ラピダスはその責任の一端を担っていく」

 こう語るのは、ラピダスにあって代表取締役社長の任にある小池淳義氏である。小池氏はよく知られているように、日立製作所の半導体出身であり、トレセンティテクノロジーズの社長、ウェスタンデジタルの日本法人社長を歴任し、今回の重責を担う立場になった。こうした過去の経験を活かして、画期的な半導体新工場を立ち上げていくという決意は固い。小池氏によれば、生産ラインはAIなどを駆使してほぼ全自動化する。また、設計、前工程、後工程を一貫して行う計画を明らかにしている。後工程に関しては、3次元実装、チップレット技術などの活用も検討し、パイロットラインの段階で後工程まで踏み込んだ取り組みになるというのだ。


 第1期だけで5兆円は投入されるというラピダスの千歳新工場は、我が国の半導体産業始まって以来の空前絶後の巨大な規模になる。2023年9月に着工し、25年には試作ラインが稼働する。そしてまた、その隣接に第2期棟の建設も想定しているのであるからして、ただ事ではない。敷地面積は100万m²と広いために、こうした計画が可能になるのだ。

 「圧倒的な低消費電力を追求して、最先端の専用チップで勝負する。くれぐれも申し上げたいことは、量産型の半導体で勝負するのではない。自動車産業や人工知能といった分野で必要になる最先端のカスタマイズデバイスをいち早く出荷すれば、収益の高いビジネスになるのだ。もちろん、日本企業が得意とする半導体製造装置企業や半導体材料企業の協力も徹底的に仰ぎたいと思う」(小池社長)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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