電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第533回

ついに東北シリコンロードの時代が始まった!


半導体関連の投資ラッシュは北に向かい、北海道にラピダス誕生

2023/6/2

 相も変わらず旅から旅の旅烏である。先ごろには、京都から大阪・兵庫の近畿エリアを勢いをつけて回っていた。その合間に、インテックス大阪で講演もしたのである。その次の週には、福島県に出かけて、なんと二つの講演をこなして帰ってきた。まったく間をおかず、熊本など九州エリアの取材サーキットをこなしてきた。

 福島に出かけた折に、ふっと松尾芭蕉のことを考えた。芭蕉もまたひたすら旅を続け、俳句を詠み、多くの文章を残してその生涯を終えた。辞世の句というのが「旅に病んで 夢は枯野を かけ巡る」というものであった。生涯妻をめとらなかったことから、男好きといううわさもあった。また、全国を行脚したのは芭蕉が江戸幕府にやとわれた忍者であったという風説もある。

 それはともかく、松尾芭蕉の一大傑作は東北を旅した紀行文である『奥の細道』である。書き出しは「月日は百代の過客にして、行きかふ年も又旅人也」という冒頭の文章は出色のものでありよく知られている。この作品のことを思い出していたら、急に頭の中をある概念が走り抜けた。それは、奥の細道から連想して東北エリアから北海道に延びていく半導体関連産業の一大集積が見えてきたということである。

 福島エリアにはかつて富士通の半導体拠点である会津若松工場があった。山形にはソニーの画像センサーの拠点の一つである鶴岡工場がある。酒田にはセイコーエプソンの半導体工場が存在している。光デバイスで有名なスタンレー電気の拠点もある。

東北大学の遠藤哲郎教授はMRAM開発で大活躍
東北大学の遠藤哲郎教授はMRAM開発で大活躍
 少し先の秋田県下は今や売り上げ2兆円を超えてきたTDKの工場が多く集積している。宮城エリアにはトヨタ自動車の東日本における一大量産工場があり、一方で日本最大の半導体製造装置メーカーである東京エレクトロンの大型工場が稼働している。そしてまた、ニッポン半導体の学におけるメッカである東北大学があり、最近では圧倒的な低消費電力を売り物にするMRAMという半導体メモリーを研究する遠藤哲郎教授の研究成果が世界を驚かせている。メタバース時代の端末の主役の1つとなるスマートウォッチのメーンメモリーはDRAMからMRAMに置き換わるといわれており、正にゲームチェンジの時代に東北大学は大暴れするのである。

 岩手県に行けば、世界的なNANDフラッシュメモリーメーカーであるキオクシアの北上工場がある。ここでは第2期棟が建設中であり、1兆円という巨額が投入されている。巷では、台湾ファンドリー大手のTSMC熊本新工場が1兆円を投資することで大きな話題となっているが、キオクシア北上の設備投資のことももっと大きく報道してもらいたいものだ。そしてつい最近のことであるが、WBCのスーパーヒーローである大谷サンの出身地である奥州市に、なんと東京エレクトロンが大型工場を新設することが決まったのだ。

 そして青森県津軽まで行けば、パワー半導体の有力企業である富士電機の津軽工場が一大増設を進めている。さらに海峡を渡れば、北海道千歳に空前絶後の5兆円を投じるラピダスの北海道千歳工場が建設されることになり、これはかなりの大騒ぎとなっている。北海道はこの巨大な国家プロジェクトともなるラピダスの半導体工場進出をコアにして、苫小牧から石狩エリアにデータセンターを多く設け、さらに100社以上の企業誘致を進めることを検討しているようだ。

 九州シリコンアイランドの復活が叫ばれる今日にあって、実は東北シリコンロードという新たな展開が始まっている時代なのだということを、一般国民の方々も強く認識していただきたいと切に思うのである。ただ一方で、松尾芭蕉の詠んだ有名な俳句である「夏草や 兵どもが 夢のあと」となってもらいたくはない、と心に念ずる次第である。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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