東武鉄道(株)(東京都墨田区)は、2020年から埼玉・草加松原地区で推し進めてきた商業施設「TOBU icourt/トーブ イコート」を3月30日に開業する。東武グループの商業施設はこれまで駅ナカや駅周辺を中心に展開してきたが、今回初めて駅から1kmほど離れた“駅ソト”の住宅地での開発となる。デイリー需要に応え、地域のコミュニティになる施設を目指すという。同社生活サービス創造本部 沿線価値創造統括部 商業開発部 課長の杉浦淳一氏に話を聞いた。
―― トーブ イコートのコンセプトは。
杉浦 デイリー需要に応える「Foodie」「Design」「Culture」「Wellness」といった4つのライフスタイルをテーマに、心地良い暮らしを提案する地域密着型(NSC)の商業施設である。施設名には、「i(私の)」と「court(中庭)」で「私の中庭」と、読み方になぞらえて「今日も行こう(icourt)」の2つの意味を込めた。
―― テナントやゾーニングは。
杉浦 ゾーニングはスーパーなど食物販が並ぶ「クオリティマルシェゾーン」、クリニックなど生活に関する「ウェルネスリビングゾーン」、飲食店が軒を連ねる「ピクニックテラスゾーン」の3エリアに分かれている。
テナントは約24店で、デイリー需要に力を入れるべく食関連や生活をサポートするものが中心だ。そのためアパレルは導入せず、生活に振り切ったNSCとした。最寄り駅前にもスーパー、クリニックはあるが、住宅地にスーパーや遅い時間・土日祝日も診察できるクリニックなどを揃えたNSCを開発することで、周辺住民や共働き家庭にとって便利で使いやすい施設を目指した。
―― そのほか特徴は。
杉浦 隣接する松原団地記念公園との連動性も大切にした店づくりも意識している。施設周辺にカフェが少ないので、ピクニックテラスゾーンにはテラス席でゆったりと過ごせるようなカフェや飲食店を配置している。デイリーに集う場所としてはもちろん、2階には焼肉店などハレの日でも利用してもらえるテナントも誘致した。昼夜問わず人が集まる場所になれば嬉しい。また、公園と施設の間に歩行者専用道路をつくることでシームレスに生活や施設滞在を楽しんでもらえる工夫を施した。
―― 草加松原はどんなエリアでしょうか。
杉浦 松原団地という大きな団地を含め沿道型ゾーンの戸建てが完成すると、周囲には約6000戸の住宅があり、住宅としてのインフラが整う街づくりがしやすい地域である。また、隣接した公園に集うファミリーの存在や沿線には珍しい大学があることで文化的な側面を持ち、新陳代謝が生まれやすい街であるなど様々な条件が揃っているエリアだ。
駅周辺には、東武グループのアセットもいくつかあり、沿線の街づくりのモデルケースとしても取り組みやすい場所なので注力していきたい。
―― エリアとしてのポテンシャルは。
杉浦 中期的な事業計画で掲げている「3世代が暮らしやすいまちづくり」にふさわしい場所である。トーブイコートの周辺では796戸のマンション「ソライエテラス」(住友不動産との共同事業)の入居が始まるほか、約350戸の戸建てが販売できる環境など住宅インフラが整っており、ポテンシャルは高い。
コロナの影響もありここ数年、草加松原だけでなく郊外エリアの価値が見直されている。例えば、都心にはない手付かずの自然環境や子育て環境などの魅力が評価されている。仕事もリモートでできるようになったことで郊外エリアの人気自体が高まっており、今後の人口増加も期待できる。当社としては、エリア自体の良さを引き出せるよう施設運営などを行っていきたいと考えている。
―― トーブ イコートに期待することは。
杉浦 草加松原エリア全体の価値向上に貢献してくれることを期待する。そのために、トーブイコートをエリア周辺のコミュニティの中心にしていきたい。新旧の住民や学生なども含めた多世代が集い、交流できる施設として機能できるよう、運営を行っていきたい。テナント誘致の際には、こうしたコミュニティづくりに賛同してくれるかも相談している。例えば、歯科医院による歯磨き教室や自転車販売店による自転車教室など、施設全体ではなく、テナント単体でもコミュニティ形成に寄与してもらえないかを相談している。
―― 初の“駅ソト”での開発です。課題や懸念点は。
杉浦 駅から離れた場所での物件は初めてであり、当社としても新しい取り組みになるので未知数な部分もあるが、地域貢献できるよう運営に取り組んでいきたい。そのために、自社グループのツールを利用し近隣住民への周知を行っていく。
―― 今後の展開は。
杉浦 今回生まれた新ブランドのトーブイコートが、東武グループの沿線開発につながるモデルケースのひとつにしたい。そのためには、東京ソラマチRのようにエリアの専用ブランドとして地域に根付かせていくことが重要なポイントになる。
施設は完成し、走り出すが、トーブ イコート単体だけでなく草加松原の街全体を盛り上げていきたい。トーブ イコート内でのコミュニティづくりやイベントの開催などを通じ、地域にとってなくてはならない施設となり、街づくりに貢献していきたい。
(聞き手・副編集長 若山智令/鈴木さやか記者)
商業施設新聞2488号(2023年3月21日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.401