野村不動産(株)(東京都新宿区)は、東京・芝浦での大規模複合開発「BLUE FRONT SHIBAURA」のTOWER Sを2月28日に竣工した。商業施設は芝浦運河を望む立地を最大限に活かした設えとし、高層階にはオーシャンビューに感銘を受けた仏アコーが「フェアモント」の日本1号施設を出店する。その立地から台場、有明、豊洲などの「東京ベイエリア」と都心をつなぐ拠点としての役割も期待される。野村不動産 芝浦プロジェクト 企画部長の四居淳氏に聞いた。
―― 街づくりのコンセプトからお聞かせください。
四居 「この場所だからこそ提供できる価値とは何だろうか」ということを考えた。浜松町は羽田空港まで1本でアクセスでき、かつ山手線の主要駅の1つでもあるという、都市機能が集積した利便性の高い街だ。それだけではなく、東京湾を一望できる「自然豊かなロケーション」を有する街でもある。この2つが交わる場所だということが芝浦エリアの特性だ。海や川などの自然に触れることで都市生活者のストレスが軽減し、本来の自分を取り戻せる場所としての価値を最大限に発揮できる開発を目指した。
―― TOWER Sの商業機能について。
四居 商業エリアにおいても「このロケーションだからこその価値」を意識し、自分と自然がつながっているという感覚が持てるような設えを意識した。約40店が出店する予定だ。1階では眼前の緑道から引き込まれる雰囲気を創出し、2階には運河に面した場所にフードホールを設ける。運河側にせり出した場所に設置するオープンエアのテラスでは、海風を感じながら食事ができる。
利用者はこのビルで働くワーカーや近隣住民が中心となるだろう。ただ、コロナ禍以降はオフィス以外の場所で働くことが一般的となった。例えば平日5日間のうち、在宅勤務の1日にも食事に立ち寄る、というような新しい選択肢を示したい。ランチとディナーの間のアイドルタイムには仕事やミーティングができるような仕立てとしている。食事の場としてだけでなく、都心にいながら自然とつながれる環境で仕事ができる場としても機能したい。
―― 高層階には外資系のラグジュアリーホテル「フェアモント」が日本に初進出します。
四居 このロケーションの価値を認めていただける相手をパートナーに迎えたいと思っていた。目の前に空と海が広がる眺望が決め手となり、アコーがフェアモントを展開することを決めてくれた。フェアモントはラグジュアリーな体験があらゆる人に開かれた「インクルーシブラグジュアリー」なホテルとして展開していく。
浜松町周辺には「ホテルインターコンチネンタル 東京ベイ」や「メズム東京、オートグラフ コレクション」があり、28年には世界貿易センタービル内に「ラッフルズ」が開業する。フェアモントを含めすべて開業すると客室数は約1000室にもなり、「外資系ホテルの一大集積エリア」へと変貌を遂げる。複数路線がありどこへでもアクセスが良い足回りの良い拠点として、今後はインバウンドを含めた観光客の滞在が増えていくのではないかと思う。
―― 芝浦は都心と東京ベイエリアの結節点ですが、ベイエリア側の発展性をどう見ますか。
四居 台場、有明、晴海、豊洲など、それぞれの場所では開発が進んでいるが、エリアとしての一体感は生まれていないように感じる。TOWER Sの開業をきっかけにエリア全体を発展させたい。様々な事業者の皆様と連携できればより大きなうねりが起こるのではないか。我々はこの地域の足回りを強化することを目的に、2024年より舟運サービスを提供している。
―― 舟運サービスとは。
四居 BLUE FRONT SHIBAURAのすぐ東側に位置する日の出桟橋と晴海を結ぶ路線を「BLUE FERRY」の名称で運航している。現状は定員20名の船を通勤時間帯に4往復運航しており、輸送力の強化はこれからだ。ただ、晴海地区にお住まいで浜松町や品川方面に通われる方など、リピーターはいる。船移動の価値は単にショートカットして目的地に行けることだけではないと感じる。街を歩く人がこちらに向かって手を振ってくれて気持ちが和らいだり、自然に吸い込まれていく自分を感じられたり、そういった気持ち良さは船だからこそのものだ。今回の再開発では日の出桟橋までの動線も整備するため、これを機に便数の増加や航路の拡張などを検討したい。
―― 30年度にはTOWER Nが竣工します。
四居 先行開業するTOWER Sがどのように利用されているのかを見ながらTOWER Nのビジョンを具体化できるところが、今回の開発の面白いところだ。8月には当社グループも本社をTOWER Sへ移転するので、社員がこの街で生活する者としてフィードバックしていける。TOWER Nは低層に商業、中層にオフィス、高層に住宅を導入する予定だ。商業はTOWER Sよりもボリュームが多くなる想定で、どういった店舗をどういう形で表現するかを、TOWER Sの実際の様子を見ながら具体化していきたい。
(聞き手・安田遥香記者)
商業施設新聞2587号(2025年3月11日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.460