新横浜の横浜アリーナには
Z世代がいっぱい集まってくる。
Z世代、つまりは今どきの若者たちに多くの関心が集まっている。彼らの特徴は「多様性に優れる」「国際感覚があり英語力も強い」「かなり真面目で一杯勉強する」「意外と礼儀マナーはしっかりしている」「子供のころからITに親しみコンピューティングに強い」などである。こうしたZ世代が世界を変える力を持っていると思わなければならないだろう。
しかして九州エリアのある半導体材料の工場長にZ世代をどう思うかと聞いてみたら、次のようなことを答えてきた。
「確かに彼らは自分たち中高年と違って実のところよく勉強してきている。正義感にあふれ真面目である。男女平等感が強い。差別を徹底的に嫌う。そして何よりも上司の言うことに対しては素直に従う。何をとっても自分達より上だと思っている。ただたった1つだけ足りないものがあると思う。それはいうところの根性だ。ファイティングスピリッツだ。これだけは中高年オヤジは負けないと思う」
しかしてよく考えてみれば世の中を変革する力というものは、やはり若者にあるのだ。中高年が革命を起こしたことなどは一度もない。フランス革命しかり、ロシア革命しかり、産業革命しかり、そしてまた我が国においては明治維新が血気あふれる若者たちによって推進された事実は消しようがない。
薩摩の西郷隆盛、大久保利通、土佐の坂本龍馬、長州の高杉晋作、桂小五郎など、いずれも20代の若者たちが300年近く続いた徳川幕府を打倒してしまった。そして近代ニッポンの夜明けが始まるのである。ただ見逃せないことは、彼らを強烈に指導したのは江戸幕府の最後の総裁になった中年の男であった。勝海舟こそその人である。
彼は欧米諸国の強さをよく知りぬいており、尊王攘夷運動を続ければ、日本は海外の列強に支配され、植民地にされてしまうとひたすらに説いた。そして「こんな幕府なんかぶっ倒してしまえ」とけしかけた。実はありえないことなのである。江戸幕府の最高責任者が幕府そのものを倒してしまい、新しい世の中をつくれとひたすら言い続けたのである。
ここに中高年の重要性がある。人材育成とよく言われるが、若い人たちの能力を見抜き、適性を見抜き、はたまた性格も見抜き、その上で天下国家の大局観を説き、世界の潮流をしっかりと教えていく。これが中高年の役割であり、それを果たしていないにも関わらず、「今どきの若者はどうしようもない」などとほざいているヤツは、お前こそ極悪人だと思えてならない。
それはともかく半導体産業の分野にあっても、やはり若者たちが大活躍した時代があった。トランジスタを発明したウイリアム・ショックレーのもとに集まった若者たちがそれである。1955年のことである。
ショックレーはカリフォルニアに移り、「ショクレー・トランジスタ」という世界初の半導体カンパニーを設立した。ショックレーは若い人材を見抜く天賦の才に恵まれており、彼の下には有能な研究者、技術者がたくさん集まった。ロバート・ノイス、ゴードン・ムーアなど多くの若者たちがこのショックレー・トランジスタに集結し、後にこの会社から去っていく。フェアチャイルドという会社が新設されたのが1957年である。ここから半導体の史上最強のチャンピオンと言われるインテル社が生まれる。AMD社が生まれる。シリコンバレーの名だたるカンパニーはみな若者たちの凄まじいパワーによって立ち上がっていったのであるが、このことを知る人は少なくなった。
今日にあって我が国は「ラピダス」という戦略的なカンパニーを発足させ、ニッポン半導体再生の旗を大きく掲げた。これ自体は大きく評価できることではあるが、いかんせん予算の裏付けがない。どんなに少なくても5兆~10兆円の手厚い政府の支援金がなければ、ラピダスの先端ナノプロセスの立ち上げ、そして量産工場建設、さらには海外からの企業誘致、国内の半導体工場の新増設に対する補助ができないのだ。一刻も早く高々と我が国はもう一度半導体で勝負する、というアピールを政府から早くだしてもらいたいものである。
ただ一方で、予算をつけるだけではどうしようもない。半導体の最強技術者を育成しなければならない。Z世代を大きく育てなければならない。そこには中高年のベテラン技術者がどうしても必要だ。ラピダスに多くの人材が結集することをひたすら念じてやまない。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。