今回はマイコン・パチンコ台になる前からの話もある。パチンコ台が電子化されてきて、制御にロジックICが使われるようになった頃から、不正改造は行われてきた。
筆者が知る最初の手口は、多層基板を用いたものであった。電子基板の部品面、はんだ面の配線パターンは見えるし確認できる。これで許可を得て、基板の証拠写真を撮影したら、電子基板を内層があるものに換えて内装で追加の配線を行って、許可を得た動作とは違う動作をさせるものであった。これが露見して、多層板の使用は禁止された。多層版はノイズ対策として有効なので、マイコンを採用する際に使いたかったが、すでに禁止されており、できなかった。
マイコン・パチンコ台も当初は、またこれ以前にも、電子基板は金属のケースに入れてシールドし、静電気の放電の対策としていた。ところが、電子基板が直に見えないことから、電子基板を堂々と改造する、別の基板と置き換えたりする輩がいる。
そこで警察庁は、マイコン電子基板、加えて周囲の基板も、裏面から容易に各基板の部品面が見えるように、ケースは透明プラスチックでなければならない、と規制した。静電気対策に金属シールドが使えなくなったため、耐ノイズのレベルが大幅に下がったが、止むを得ない。ますます、マイコンでのノイズ対策が重要となった。これは大分、後の話となるが、裏にある機構部品のプラスチックを導電性のあるものとしてから、静電気の火花が飛ばなくなり、静電気対策は大分、楽になった。
次は、マイコンを使う際、6802以外であればCPU以外にRAMが必要となる。警察の許可を取る際に、日立のRAMを使って許可を取り、量産時には、富士通のRAMを使うと、ソフトは同じでも動作が換わる。これは電源投入時に、日立のRAMは、内容がほぼ全体がL(0)であるが、富士通のRAMは、内容がほぼ全体がH(1)であった。互換のIC(RAM)であっても規格となっていない電源投入時のクセとでもいう僅かな違いを利用して、どちらのメーカーのRAMが使われているか?を取得して、ソフトの動きが変わる。普通台が、フィーバー機に化ける。これが露見して、ICの互換品の使用が禁止された。
次に、ロジックICをDIPから小型の表面実装(SMD)にして、SMDのICの下に別のICのダイ(チップ)を仕込んだケースが露見した。また、SMDの抵抗器は、値が記号で書かれていて見て分からない。容易に別の値のものに変更できる。これらの理由により、SMDの部品の使用が禁止された。
セキュリティ・マイコンへの攻撃が難しくなると、実際には、それ以前からあった、「ぶら下がり基板」という手口も良く使われた。「ぶら下がり」という言葉から分かるように、パチンコ、パチスロのメーカーが作った基板には手を付けず、配線のハーネス(束)の中に入るように小さい基板を作り、仕込む。この基板の仕掛け場所、機能は多々あるが、一例を示せば、リモコンでスタート・チャッカ―への入賞信号を発生させ、抽選の回数を確実に上げる、といったものである。
ぶら下がり基板を仕込むには、ホールのアルバイトや社員を買収して台の中に仕込む必要があるが、メインの基板やセキュリティ・マイコンに手を付けないので発覚し難い。パチンコ・ホール用の専用会計システムで異常値が出て、当該の台を詳細に調べないと分からない。褒める訳ではないが賢いゴトである。
さて、セキュリティ・マイコンへの攻撃としては、マイコンのソケットの中に別のマイコンを仕込む手口が普通であった。これは当初は、電子基板の裏側に別のマイコンを仕込み、入力は並列とし、出力は元々のマイコンのものは用いず、追加したマイコンのものを使うように基板を改造した。しかし、これは基板の裏を見るとすぐに分かる。
そこで、エルイーテック社の遊技機専用セキュリティ・マイコンがV4までは、JEDECの規格の大きいICパッケージであったので、これを利用してセキュリティ・マイコン用のICソケットに別のマイコンを仕込む手口があった。これはセキュリティ・マイコンを外さないと見えないので、結構、使われた。
同時期に、トランスファーモールドという一種のハイブリッドICを作って、セキュリティ・マイコンと外観そっくりICもどきを作って、セキュリティ・マイコンと入れ替える手口が出てきた。この手法の極めつきが、カスタムICで、セキュリティ・マイコンとそっくりのカスタム・マイコンを海外で作ることとなる。実際に作ってきた例が、一例だけあった。
これらの、外観そっくりICに対しては、簡易X線装置でパチンコ台をチェックするという検査方法で摘発ができた。トランスファーモールドなら内蔵の基板の回路が見えるし、そっくりICなら、リードフレームの形が違う、といったことが見えるので摘発できた。
これらへの対策として、エルイーテックは、V5からICパッケージもカスタムとした。セキュリティ・マイコンのパッケージの幅を狭め、ICソケットもV5専用のものを透明な樹脂で作らせ、量産用のセキュリティ・マイコンのパッケージの色を見分けやすい灰色として偽セキュリティ・マイコンを作り難くした。さすがに、ここまでやると、偽マイコンを作るには、偽パッケージを作らなくてはならない。費用がかかりすぎて合わないのか、偽マイコンは出てきていない。
さて、この10年ほどのこととなるが、セキュリティ・マイコンの耐攻撃レベルが上がったので、表示基板という、表示以外の機能があってはならない液晶モジュール側に、本来、セキュリティ・マイコンでしか行ってはならない抽選機能の一部を液晶モジュールに移すことが行われた。そして液晶表示器で2次抽選を行うといった違法が行われた。通常、表示基板は、保通協の検査の対象外なので、一時、はやっていた。
これらを羅列するとホールが被害者に見えるが、ホールも、カバン屋から不正基板を買って出玉を競ったり、24VACの電源の周波数を変えたり、釘の調整で出なくしたりと同じ穴の狢である。
これだけ書いても、未だ、全てではない。また、状況に応じて、新たな手口が出てくるであろう。こういう工夫は別の業界でやって欲しい。