電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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マイコンとゲーム機、遊技機 5


遊技機の不正改造との闘いでは、関係者は全て敵!
~各県警での検査から保通協の検査で審査レベルを統一

2022/11/4

 前回紹介したブラボースペシャルが、パチンコ台の中でメジャーな存在となると、パチンコ・ホール、平和の営業、パチンコ・ホールで不正に稼ごうとするゴト師、パチプロ、パチンコ台の動きを改変して利益を得ようとする人達が暗躍するようになった。そして、いわゆる不正改造の好対象となってしまった。1980年代の半ばの頃の話である。パチンコ台のメーカー側にしてみると、せっかく試射して決めたバランスを壊されるので、メーカー側とすれば、まさに噴飯ものであった。

 理工系の大学生かシステム・ハウスにいるプログラマーを雇って、裏仕事で、パチンコ台から外した2716にあるバイナリ・コードのプログラムを逆アセンブラにてソース・コードに戻し、調べて、大当たりの確率を書き換えたり、当たりが継続する回数を変更したり、それこそ種々雑多な改変をしてくれた。いわゆる、裏ROM、裏基板、カバン屋の始まりである。ここから、警察庁が専用マイコンを作る必要性を認識したと思われる。

 この時、EPROMは、2716であった。2716はプログラムを書き込む必要があったので、ICソケットに差し込むようになっていた。組立に不慣れなアルバイトが、このEPROMを逆挿ししてしまう。そうすると2716は壊れてしまう。ただし、富士通の2716だけは逆に挿しても壊れなかったので評判が良かった。

 パチンコ台の電子基板の設計を担当している技術部長が見せてくれたが、プログラムの鑑定依頼が全ての県警から来た、と数百個以上のEPROMがあった。どこが、どういう風に改造されていたかを示し、鑑定報告書を作るのも大変であった。

 ここで2716をはんだ付けできなかった、当時ならではの理由がある。これは、パチンコ台の認定、許可は、各県の県警、東京なら警視庁がおこなっていた。保安電子通信協会(保通協)が、本業である、警察無線の秘話装置から、パチンコ、パチスロ台の試験、認定を行うようになるのは、まだまだ、後のことである。

 つまり、パチンコ台を販売するには、各県警の公安(現、生活安全課)の許可が必要であった。逆に言えば、県警の数だけマイナー修正版が必要だった。東京版、岐阜版が有名であった。これは、実際には、県警の検査能力に差があったので、ある県の県警は、隣の県の県警が許可を出せばOKとしたところも多かった。これゆえ、種類は10種類程度と思う。

 それでも、ブラボースペシャル1機種に、各県警対応版で十数種類の地域版があった。これに対応する以上、EPROM、2716にはICソケットが必要であった。もっとも、2716の挿し間違えも多く、設置時に警察からクレームを受けるのも見慣れたことであった。

 ICソケットに入っているのであるから、取り外して、EPROMの中身をみれば内容は分かる。システム・ハウスであれば、ICE(インサーキット・シミュレータ)もあるだろう。県警対応と同じく改造も容易であった。

 しかし、このようにソフトが改変できることは望ましくない、と警察庁は考え(当然だが)、三井物産が子会社を作って対応することとなった。1981年、レジャーエレクトロニクステクノロジー社、後のエルイーテック社の始まりである。

 だが、この前にすでに、(株)平和の技術陣は、ソフトの改変できないマイコンを日本モトローラと打合せていた。開発契約も済み、技術詳細を詰めている時に、御上から中止せよ、とのお達しである。これに反発した(株)平和の技術員数名が逮捕される事件になり、(株)平和と日本モトローラで企画していたセキュリティ・マイコンは中止を余儀なくされた。(公権力の暴走と思う)

 もし、(株)平和のセキュリティ・マイコンができていれば、今とは少しは違った業界になっていたと思う。先に紹介したMC6805Sを参考として、窓付のEPROMのパッケージでEPROMをパッケージ内に入れることで改変させないようにしたものであった。

 さて、エルイーテック社から、セキュリティ・マイコン第1版、V1が出てきた。製造は、上記の中止の関係もあり、モトローラが受けもった。このマイコンを設計するために、NTT社より博士号を持つ半導体の専門家のチームが来ての設計である。起動時に、外付ROMの内容をチェックして、ハッシュかCRCを使いソフトが変更できないようにした、とのことである。

 早速、サンキョーがこれを使ってパチンコ台を作った。1カ月もしないうちに、ソフトが改変されたパチンコ台が出てきた。手口は簡単で、V1マイコンには、ソフトのチェックが完了した、という信号ピンがあった。このピンを、2716の容量が2倍のEPROM、2732か2532の最上位アドレスに接続すれば、検査時は下半分をチェックすることになり、動作時は上半分にあるソフトを使うことになる。基板の修正もジャンパー線1本だけ、という簡単な手法で好きなように変更ができた。

 エルイーテック社内で、須賀川氏(故人)が、業界には素人のNTTの人達を追い返し、EPROMを内蔵するとして、V2マイコンを作るまで、この状態は続いた。V2マイコンは、内蔵のEPROMの技術が古かったので、V2-Liteと言われるセキュリティ・マイコンが出てきて、やっとまともなセキュリティ・マイコンとなった。

 こうなると裏業界は、改変のターゲットをマイコンから、別のところに換えた。幾つもの手口が開発された。一番早かったのは、V2-Liteを差し込むICソケットのところを改造して、別のマイコンを仕込むやり方である。電源、入力ピンはそのまま使い、出力は、この仕込みマイコンからの信号と入れ替える。ICソケットからV2-Liteを抜かないと見えない、という手法である。同様のことを、電子基板の裏側に施す手法で裏基板としたものもあった。

 また、V2-Liteと外観が見分けのつかないマイコンを作ってきたものもあった。これはエルイーテックの専門技術者が見ても見分けがつかなかった。このケースでは警察庁が怒り、執拗に追跡したので、現物は鹿児島と台湾の間のどこかの海底にある。

 今は、表示基板という液晶モジュールでの手口が多くなっているようであるが、縮小中の業界であっても、それゆえ、新たな手口をだしてくるのではないか。
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