一般的に異なる接地レベルの間に信号を伝達する手段としては、フォトカプラがある。これは絶縁対象(1次側)の接地電位は、交流100Vや電力線の中点電位であったり、モータを駆動する動力系の電源であったり、高温を作るヒータの電源であったりする。こういった異なる電源系にある信号、温度、圧力、他の信号をマイコンで処理する電子系の接地電位(2次側)に伝達するための素子である。
フォトカプラには、この1次―2次の間の最大耐電圧により、1KV、2KV、5KVと種々のものがある。このフォトカプラの派生品で交流電源制御用としてフォト・サイリスタやフォト・トライアックがある。いずれも入力側はLEDで、入力の1/0信号を光信号として出力側に伝え、出力としてトランジスタをON/OFFしたり、サイリスタやトライアックでは、交流電源をON/OFFするためのものとなっている。
フォトカプラ(サイリスタ、トライアックを含む)の使い方は、デジタルとしてONとするときはLEDに定められた規格の電流を流す、OFFとするには電流をゼロにするかで制御する。LEDに中途半端な電流を流すと、出力側のトランジスタやサイリスタが不安定な動作領域になり、ON/OFFをバタついたり、誤動作を起こしたり、最悪の場合、破損したりする。
フォトトランジスタに話を限定する。入力側のLED電流をゼロに留めておけば出力側のトランジスタはOFFとなっている。この時、出力側と入力側の間、つまり絶縁されている1次側と2次側の間になるが、この間に、2KVといった高電圧パルスをかけるとする。この電圧により、2次側のOFF状態のトランジスタが中途半端に、しかも、短時間、ONとなることがある。
この本来、OFFであるべきフォトカプラのトランジスタが、完全にONになる訳ではないにしろ、2次側の電圧変化で一瞬とは言え、ONとなることがあることを御存じであろうか?
これは、1次側と2次側にかけたパルス電圧のエッジ部分が、2次側と1次側で構成されるキャパシタにより、2次側のトランジスタに流れて変なON状態を短時間作りだす。この漏れてくる電圧を圧縮している比率を表す記号は、同相除去比(CMR)であるが、こういう場合にも適用されると知らない人が多い。
通常はフォトカプラの出力を受ける電子回路で、この短時間で不完全なONを無視するようにする。具体的にはシュミットトリガ入力のインバータで受けてちゃんとしたパルスでない場合は変な出力波形は通過させないようにする。それでもフォトカプラ内の1次と2次の間の容量が大きい場合や、1次―2次の間の電圧が高い場合には、そしてパルスのエッジ、立ち上がり、立ち下りが急峻な場合、この電圧変動でパルスが2次側、フォトカプラの出力に現れることがある。高速の通信用だと、これが通信を阻害することもある厄介な問題である。
これとは別の要因で、フォトカプラの出力に信号が出てくることがある。発生状況はフォトカプラの場合と類似しているが、この別の原因は、沿面距離である。フォトカプラで絶縁してあるから、1次側の接地電位が変動しても2次側に1次側の変動は出てくるはずがない、という常識は、1次―2次の間の電圧が500V程度、高めにみても1KV程度までの話と思った方がよい。これ以上の電圧になると、1次―2次の間に放電が起きて、特に1次側のパルス・エッジが2次側に飛び込んでくる。飛び込んできた信号が大きい場合には次のIC、シュミットトリガICを焼損させる。
この現象は「沿面距離」として言われている空間の絶縁耐圧によるものである。一般に、1mmの間隔があれば、1KV程度までは放電は起きない、と言われている。2KVなら2mm、5KVなら5mmの空間上の距離が必要となる。1万Vとなると1cm以上が必要となる。電子基板のトレース同士の間で、1つのトレースと別のトレースが並んでいて、その間の間隔が0.25mmであれば、そしてレジスト塗装がなければ300V程度で火花放電が始まる。
幸いレジスト塗装により、この耐電圧は強化されるので、基板を塗装なしで使ってはいけない。レジスト塗装により、放電が始まる電圧は1.5~2倍程度に高くできるが、安全を考えれば上記の常識の範囲とすることが望ましい。さらに、火花放電は一度、始まると空気をイオン化して放電が継続しやすくなるので、放電を停止させるには電圧を開始電圧の半分以下にしなければならない。そして、これができないと、電子基板に原因不明の黒焦げが生じることとなる。対策も含めて、有効にフォトカプラを使うなら、フォトカプラの1次側のピンと2次側のピンを同じ電子基板に載せてはいけない。別基板にして、1次側基板、2次側基板として、この基板の間をフォトカプラでつなぐ、といった構造が必要となる。
上記は普通のフォトカプラの場合、つまり、1/0のロジックの場合であるが、これがロジック回路でなければどうなるであろうか?絶縁アンプという製品がある。これはマイコンといったデジタル変換を用いずにアナログ信号のまま処理したいという要求に対応する製品である。
絶縁アンプ、アナログ式の場合、1次側のアナログ信号を、そのアナログ信号のままLEDにより光の強弱にして、2次側のフォトトランジスタへ伝達してアナログ信号として出力する。この絶縁アンプの場合、精度を保つためにアナログ変調された光は、2次側(出力側)と1次側(入力側)に分けて入力され、入力側では元の入力信号と比較し差分をLED電流へフィードバックしてLEDの非直線性を補正し1次側に同じ規格のフォトトランジスタを用いて、フォトトランジスタのドリフトといった誤差をキャンセルするように作られている。
これで1次側に入力されたアナログ電圧は、2次側にアナログ電圧として高精度で出力される。しかし、ここにもCMRが存在する。そして原因も別である。この場合の原因は、使われている樹脂が1次―2次の間の電圧を受けて、微妙に変形することから起きる。この変形は樹脂の光工学では常識であった。
現在では、1次側でアナログ信号をパルス列、PWNやPWMに変換して、ロジック・レベルとして2次側に伝える手法がほとんどとなっている。しかし同じ電子回路であっても高電圧の絶縁が必要となると機械的な構造により十分な沿面距離を維持する必要がある。電子回路設計者、基板設計者の落とし穴となるのでご注意をしていただきたい。