コロナ禍によって多くのカプセルホテル・簡易宿所は大きな打撃を受けた。そうした中、「ファーストキャビン」は2020年4月に旧事業会社が破産し、直営施設はすべて閉店。いくつかのFCが残るのみとなった。しかし(株)新日本建物が営業権などを譲り受け、子会社の(株)ファーストキャビンHDが事業を展開することとなった。同社代表取締役社長の米良浩幸氏に、ファーストキャビン事業の現状や今後の展開について聞いた。
―― ファーストキャビン事業譲受の経緯から。
米良 旧運営事業者が破産してから、親会社であった新日本建物が入札で営業権と特許を譲り受けた。もともと旧運営親会社のプランテックと新日本建物は不動産業界でつながりもあり、ホテル事業への関心も深かった。
―― 現在の施設の状況は。
米良 現在営業している施設は8施設。我々が直営で運営しているのは市ヶ谷の施設で、羽田の施設は運営を受託している。それ以外の6施設はすべてFCとして展開している。直営の市ヶ谷の店舗はスタッフを新規採用して臨んでいるが、旧運営事業者のころのスタッフも参加してくれている。現在の稼働率は5~7割といったところで、半分くらいはリピーターに来ていただいている。
―― 事業を再始動するにあたって、新しく変わった点などは。
米良 これまでファーストキャビンは、飛行機のファーストクラスをイメージした「コンパクト&ラグジュアリー」をコンセプトにしてきたが、21年11月のリブランドに伴い、「ステイスマート」をコンセプトに加えた。
これまでこうした施設をあまり使ってこなかった20~30代の女性を新たにターゲットに加え、安心して泊まれる施設や「美と健康」などで訴求する。こうした層はSNSなどでの情報発信力が高く、情報発信面でも期待している。
―― 今後の事業展開、出店予定は。
米良 新規出店を大阪で1店計画している。まずは以前FCで営業しており、現在は休業している店舗を直営で復活させることを優先事項としている。これまで出店していなかった地方からも話はあり、空き物件活用の手段として手応えを感じている。
今後しばらくの出店エリアについては、基本的に大都市圏を考えているほか、空港およびその周辺地域への出店が有望だ。ハブ空港での乗り換え需要のほか、ホテルの滞在時間が短い夜便の顧客などに、短時間の宿泊やデイユースで訴求できると考えている。
また新しいタイプの施設やキャビンも検討している。例えば屋外にも設置できるキャビンの開発や、廃校となった地方の学校施設への設置などで災害時における避難所兼用施設の運用も有望だと考えている。商業施設への出店や、医療モールなどとの提携の可能性もある。少し前はコロナ対応をする医療スタッフの宿泊施設の話もあった。
新規事業として、キャビンの販売やリース、そして無人ホテル開発といったものも柱にしていきたい。無人ホテルのスキームは、ホテルと住宅両方に使えるような建物をつくり、それをホテルとして活用していく。運営は我々が行うが、既存の事業者とも協力し、タブレットなどを活用しできるだけ省人化する。
―― 現在のホテル市場や簡易宿所業界をどう見ているか。
米良 簡易宿所業界にとっては、インバウンド需要が激減したのはやはり厳しい。ホテルの需要は基本的に上のクラスから埋まっていくので、簡易宿所まで需要が波及するには、ホテル業界全体の活気が不可欠だ。ただ一方で、リモートワークなどの日常的な潜在需要は感じており、現状はそうした需要を捉え、できることからやっていきたい。
―― 目標と抱負などを。
米良 近いうちに10施設まで増やしたい。また海外のハブ空港などへの出店も考えている。将来的には国内でも47都道府県すべてに出店し、ファーストキャビンに泊まればどこへでも行けるというような体制を作りたい。
(聞き手・山田高裕記者)
商業施設新聞2459号(2022年8月23日)(7面)
ホテル最前線 キーパーソンに聞くNo.58