電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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ICの登場と発展 13


単なる英語屋に大切な仕事を任せるな!
~コスパが良くて優秀な日本の技術者を売り込めば絶対大丈夫!

2022/8/26

 日本人が英語を代表として、外国語を苦手としている。これは日本人の思い込みでしかない。米国に有名なジョークがある。3か国語が使えればトライリンガル、2か国語が使えればバイリンガルという。では、1か国語しか話せない人をなんと言うか?論理的にはモノリンガルだが正解はアメリカン、というものである。世界各地へ出かけて行き、その出かけた先の国の人達が米国英語を話さないとして怒りだすのは、米国人しかいない。これが、1か国語しか話さない人をアメリカンという根拠とのことである。

 以上のジョークは、1980年代の半ばにモトローラが世界代理店会議をアリゾナ州、フェニックスで開催した際に、英語とフランス語、ドイツ語を話されるモトローラの重役の奥様から、筆者が実際に聞いた話である。この時に、外国語を使える、とする基準は何か?と尋ねた。彼女は、数字を1から10まで数えられれば、その言語を使えるとしてよい、とされた。そして筆者に、この基準で何か国語を使えるか?とお尋ねになった。筆者の回答は、その基準なら3か国語、とした。日本語、英語(彼女とは英語で話していた)そして、大学の第2外国語であった、なんとロシア語であった。大学を卒業後、使う機会がないので、もう忘れかかっているが、最近のウクライナのニュースで出てくる文字をいくらかは読める(キリル文字)。

 どうも日本人には外国語に忌避感があるのではないか?筆者の体験上、この忌避感は克服できる。克服のコツは、度胸である。ある時、京セラの稲盛氏やアルプス電気の片岡勝太郎氏も相談されていた経営コンサルタント事務所を訪ねると、西洋人がいた。思い切って英語で話しかけると流暢な日本語で、「私はイタリア人なので英語は分かりません。」といった失敗もあったが、度胸で話しかけてみないと、永遠に話せない。

 30代半ばにTOEIC(Test of English for International Communication、国際コミュニケーション英語能力テスト)の点数680が、50代半ばでは860となった経験からのアドバイスであるが、筆者は、TOEIC990点で、通訳を職業している人が同席したある顧客の会議にて、当時TOEIC700点台の筆者が半分以上を通訳した。筆者は中学生の時から真空管をいじっていたので、電子関係、半導体関係、コンピューター関係の英語は熟知しているが、一般の通訳では専門用語が多く飛び交う会話を訳せないからである。

 閑話休題、日本に支社を置いている海外法人は多い。しかし、日本でまともな経営者、営業実行者とは思えない能力の不足している人が、英語力だけで高給優遇されているケースは多いと思う。全部が全部そうだとは言わないが、筆者が交渉をもった海外の半導体の日本支社にいた日本人の支社長、営業部長には、「半導体の何か分かっている?」と聞きたくなるような方々がいた。もちろん例外もあった。英語より営業力の方が優秀だった方々も例外的にいたが、英語屋と言いたい人達は支社活動にとり、マイナスの効果しかない。

 実例を挙げよう。これは大分昔の話、1970年代となるが、米国の大手半導体商社であったAVNET社が日本アブネットを作ったが、数年で倒産するはめになった。以後、AVNETは、既存の実績のある商社を買収する方向に転換している。日本語の壁を利用して、米国本社へは、本社が望むような報告を上げてごまかし、米国基準の高給を取っていた社員が海外企業の日本法人には多かった。結果、支社は十分には機能せず、倒産に陥ったり、低い成績しか上げられないこととなる。結果、海外の半導体の日本でのシェアが低くなり、日米半導体摩擦の一因となったと思うとやりきれない。

 この例は、日本モトローラ、日本TI、STジャパンといった大手では課長クラスでも多く見受けられた。英語で話が通じるだけで採用していた人事部が一番の悪者、と筆者が勤めていた半導体商社の社長は言っていた。この社長は、一家言ある方であって、英語屋を専門技術者にするのは困難だが、優秀な専門技術者に英語のスキルを得させるのは難しくない、として筆者の英語修行を後押ししてくれた。この社長によれば、実際、日本IBMはよくわかっていて、日本独自の会計基準をサポートするソフト、システムの開発用に、日本の公認会計士を雇い、プログラム言語を教育した。これと同じだ!とされていた。

 同様の話は他にもある。筆者は、1985年から、米国のELECTRONICSという雑誌の英語版(元版)を購読していた。このELECTRONICSは、日経エレクトロニクスの元と言われていた雑誌である。英語版を読んでいて、米国モトローラが新製品を宣伝しているが、日本モトローラからは何もない。そこで、知り合いになっていた米国モトローラの人に、メールで聞いてみたところ、米国のモトローラから日本モトローラへお叱りが来た。以後、筆者は、危険人物とマークされてしまった。その時の言い訳としては、多くのテレックスが本社から来るので、読み切れず、見落としがある、との言い訳にならないものであった。

 別の件も紹介しよう。日本モトローラで長く役員秘書をしていた女性がいた。日本モトローラが解散になって、この女性は再就職を試みる。彼女の要求は、せめて前職の年収の半額程度はと希望したが、どこへ行っても無理です、と断られた。これは、その半額が2000万円を超えるのであるから、いくら英語が堪能であっても(実際、彼女の英語は素晴らしかった)30代後半の専門知識のない人を役員クラスの給与で採用することはないのは当然と思う。

 今また、日米の賃金の差が言われているが、半導体業界では1990年代には上記のように、すでに倍以上差がついていた。筆者は、1996年から2008年まで香港支社の立ち上げ、他のアジア支社のサポートをしていた。2000年ごろ、モトローラが分解した中、モトローラにいた非常に優秀なソフトウエアの作成者がいた。転職を打診したが、モトローラ香港が提供していた給与は、支社長であった筆者よりはるかに高額の約1800万円であった。これで諦めた。当時の香港事務所の香港人の会計責任者の給与は600万円程度であったが高給としていたことと比較しても、米国系企業は高給であったと知れる。

 最近、日米の賃金の差が2倍、と言われている。米国の平均賃金は950万円である。ちなみにドイツは700万円、韓国ですら500万円という現状をどう見たらよいのであろう。失われた30年、ゆえに日本での労賃は安い。TSMCだけでなく、日本に事業所を設けて優秀な日本人を雇う方がコスト・パフォーマンスは良いと思うが、日本は相変わらずのコミュニケーションと宣伝下手があり、なかなかこうならない。日本再生には、有効な一手のはずと思う。産業タイムズ社、泉谷渉会長の活躍に期待しよう。
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