電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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ICの登場と発展 11


論理記述とFPGA登場、ロジック設計の世界を一新!
~必要性から論理記述とシミュレータが同時に普及

2022/8/12

 1984年ごろのある日、筆者が所属していた商社の社長に呼ばれた。社長の友人のTC社の会長が来ているが、技術的なことで聞きたいことがある、とのことであった。TC社の会長は珍しく女性であっても大きな国際的なTC社を経営している女傑として有名な方である。そのTC会長が英文の数枚の説明書のようなものを示されて、これに出資を求められているが内容が分からないので教えて欲しい、とのことであった。説明書を見ると、再構成可能な論理IC、となっている。1つのシリコンの上に論理素子を構成できる回路を作り、これらをアナログ・スイッチでつないで論理機能単位とするというアイデアであった。

 速度の問題はあるが、とても有用なアイデアであると推薦させていただいた。投資の方がどうなったかは分からないが、数年して、形になって出てきた。XILINX社のField Programmable Gate Array(FPGA)である。この時、ゲートアレイ、としているのが、今では印象的である。今なら、Universal Programmable Logic Device(UPLD)としたいところである。

 当初出てきたFPGAは、ゲート数も少なく、構成データは別のメモリに置き、自動配置、配線のソフトも機能が十分ではなかった。随分、手配置、手配線を行ったものであった。しかし論理シミュレータで動作を確認して、直後に実際に動作させられるのは、とても魅力的であった。

 FPGAが普及するに伴い、もっと小規模のPAL(Programmable Array Logic)が出てきて、マイコンを使ったシステムの周辺回路を設計する際に、とても便利に使った。PALはヒューズを切るのでワンタイムであったが、EEPROMのメモリ・セルを使いGALが出てきた。マイコンを使った基板では複雑な処理であっても高速でなければ、マイコンでソフトウエアが機能を作るので、複雑な機能の論理デバイスは不要となる。しかしアナログが絡む周辺回路、ADC、DAC、USB、RS232Cといった機能デバイスとの接続だけなら、GALレベルで十分だった。

 これらの小規模の論理回路を設計する際には、専用の言語設計が用いられた。DATA-I/O社のABELが主であったと思う。ABELは、出力ピンの条件を記述するだけなので、簡単で、よく使った。後は、PAL-ASMも簡単な場合にはよく使った。

 GALに関するエピソードがある。これもやはり、東大生研の機能ディスクの開発の際の話である。68020を使った3枚のCPUボードで、要求されたデータの処理をするのであるが、処理依頼の割り込みを共通のバスに流すと、各CPUボードのバス・アクセスをコントロールするアービターに近い2枚のCPUが交互に仕事をし、3枚目に要求が行くことが稀になると発見した。この問題の解決が、ラウンドロビン・アービターで、GALを用いて作ることができた。結果、3枚のCPUボードが均一に仕事をするようになり、大成功だった。

 これの別の話となるが、筆者が所属しているのが半導体商社であったので、EPROM、FlashROM等の書き込み(Programming)のできるICを販売すると、書き込み不良、消去不良というクレームが発生する。メーカーに不良解析の依頼をしても、プログラムを行った装置が、国産の書き込み機だと、書き込み条件が保証されていない、としてクレームも不良解析も受け付けてくれない。それならと、DATA-I/O社のユニバーサル・プログラマを購入した。価格は、国産のプログラマーの10倍以上、技術部内では走らないスカイラインと称していた。これで、不良解析の依頼の際に、DATA-I/O社のプログラマーで検査したと依頼書に記載すると、しぶしぶ、不良解析を受け付けてもらえるようになった。

 なぜ、DATA-I/O社のプログラマーが尊重される?と当初が思っていたが、ある時、米国へ出張した際に、理由が分かった。DATA-I/O社は、INTEL、AMDをはじめ、書き込みが必要なICを作っている各半導体メーカーがプログラム可能なICを開発する際、プログラマーの技術者と装置を持ち込んで、プログラマブルICの開発段階、試験段階で協力し、最適な書き込み条件をDATA-I/O社のプログラマーで開発している、しかも無料で、とのことであった。試作、開発段階では、書き込み条件を様々に変更して試験する必要があることは容易に理解できる。この段階から共同で書き込み条件を設定するのであるから、半導体メーカーからすれば、書き込み条件は、DATA-I/O社との共同開発となる。米国の半導体メーカーがDATA-I/O社のプログラマーしか信用しない理由がここにあった。なぜ、日本ではこういう業界横断的な協力をしての仕事がみられないのであろうか?

 PAL、GALは、だんだん集積度が上がり、CPLD(Complex Programmable Logic Device)と呼ばれる製品になる。そしてメーカーにより、CPLDをFPGAと称するようになってきている。この理由は、開発言語、VERILOG-HDL、VHDLが使われるようになってきたことからと思う。

 さらに、今の論理記述言語では、ABELのような単純な式の形式の記述も受け入れ、大規模になるとソフトコアCPUとして、ARM-M3といったCPUも組み込みが可能となり、システム全体をFPGAに載せられるようになってきている。加えて、構成データを暗号化しているので、設計の秘密が高度に守られる。これは、今、非常に重要なポイントと思う。

 これは未確認のニュースだが、中国の半導体業界が、北京の指示であろうがFPGAの開発に邁進している、とあった。これは、今やFPGAは軍事でも必須のものとなっているが、当然、米国は輸出をしない方向となっている。では自前で作ろう、となるのは理解できる。現在、FPGAが極端に入手困難となっているが、私見では、中国がコピーすることを遅らせるためと、ロシアに渡らないようにするためであろう。

 では、わが日本はどうなっているのか?最初のFPGAの登場は、1985年あたりである。今から37年前となる。日本の特許法でも、登録されてから20年が有効期間であるから、基本特許や周辺特許の大半はすでに切れているはず。中国や他に負けないために、国産FPGAが欲しいと思うのは筆者だけではないと思う。また、FPGAと半導体の問題は、様々な工夫の余地がある半導体というだけでなく、今や、安全保障の問題とも言えると思う。防衛費を増やすそうであるから、膨大な開発費のかかる国産FPGAにチャレンジしてくれるところはないのであろうか。
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