電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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トランジスタの登場 5


エピタキシャル登場し、MOS-FETの時代
~トライアック、GTOサイリスタ等のパワー系が出てきた

2022/5/20

 小型のトランジスタは数年で普及したが、一般的になってくると種類が増えてくる。1960年代の後半に、エピタキシャル・トランジスタが作られて、トランジスタの高周波性能が大幅に向上するとともに、今のICと同じような作り方となり、価格も急速に下がった。

 このように一つの技術進化ができると、性能の向上と価格の低下が同時に起きるところが半導体産業の面白い点であろう。これはICの登場と同時に始まっているが、初期段階のトランジスタはバイポーラ型、つまり電気のプラス、マイナスと関係する極性があった。これが高周波用にジャンクション・フィールド・エフェクト・トランジスタ(JFET)に進化し、さらにメタル・オキサイド・セミコンダクタ(MOS-FET)トランジスタへと変化してくる。

 これが良く分かるのは、今後、紹介予定であるが、ロジックICである。初期のTTLとECLはバイポーラ型で、代表はSN74シリーズ、MOSロジックは、CD4000番シリーズ、さらにHCMOSへと変化している。

 トランジスタの成長は、二方面に向けて行われた。ひとつは速度の向上であり、もうひとつは大きな電力を扱えるようにすることである。速度の向上へは、金(Au)のドープにより結晶内の電子の移動速度を漏れ電流が大きくなるという欠点に目を瞑って、ロジック回路で必要な速度を得た。今でもバイポーラトランジスタの変わらない性質として、いったん結晶内に電子なりホールが入ると、この移動速度が遅いが故に、ベース(B)への入力信号がなくなっても出力が出続けるという、いわゆるストレージ・ディレイが生じる。この遅延時間を短縮すると同時に材料、加工方法も改善して速度と耐圧が増加してきている。もうひとつの電力は、結晶(ダイ)の大きさを大きくして流れる電流を分散させる方法で大電流を扱えるようにしてきた。

 筆者が1970年代に依頼されてプリンタ用に試作したスイッチング電源は、定格は60V10Aであるが、瞬間(10mS)以内なら300Aを流せる、というものを作った。この電源で使用したのは、新電元工業の大型のトランジスタであった。この大きなトランジスタの金属の蓋にあたるところを外してみたら、ベース(B)とエミッタ(E)が金属の板でシリコンと面接合されていた。大電流を流すために種々の工夫がなされていると感心した。

 この電源の負荷試験は専用の負荷装置も作って行ったが、2スクエアの単芯の銅線で電源と負荷をつないで試験すると、300Aの電流が流れる。すると、繋いでいる電線が引かれたり押されたりして振動する。まるで電線が踊っている感であった。ファラデーの法則が目視できた稀有な例と思う。

 こうしてトランジスタが進化しても、交流を扱うのは難しかった。プラスにもマイナスにもなる電源を扱うのは極性が邪魔をする。MOSトランジスタは未だ、高電圧に耐えるものが作れなかった。しかし工夫はされるものである、電源がマイナスの直流なら、PNPトランジスタを使い、電源がプラスならNPNトランジスタを使う。では、PNPをP-NPとしてみて、NPNをNP-Nとしてみる。この2つには共通のNP部分がある。PNPNという接合を持つ半導体ならプラスもマイナスも扱えるのではないか?として、まずサイリスタ(Silicon Controlled Rectifier、SCR)が作られた。SCRは極性はあるが、半導体スイッチとして、しかもバイポーラの半導体として優秀なスイッチができた、これをさらにもう一層加えて、文字では表現が難しいが、完全にプラスでもマイナスで働くスイッチとしたのが、トライアック(TRIAC)である。バイメタルによる温度調整がサーミスタとトライアックに置き換わり、性能が向上し、温度の設定も容易に変えることができるようになった。有名な応用は電気毛布や電気こたつ、と言えばお分かりになるのでは?

 このプリンタ用電源を試作している時に1次電源の安定用に変わった半導体を試したことがあった。今ではトップクラスの半導体メーカーとなったSONY製のバイポーラ、パワー半導体を使ったのである。

 このとき、試行したのは、GTO(はい!いじわるでカタカナを後にしました)。ゲート・ターン・オフ・サイリスタである。サイリスタは電子スイッチなので、流れる電流を小さくすると自分で維持しているON状態の維持ができなくなってOFF、つまり電流を流さなくなる。

 このGTOサイリスタは、ゲートに信号を与えることで、流れている電流を止める、OFFにすることができた。ONもゲートに信号を与えることで制御できるスイッチなので、面白い回路ができそうとチャレンジした。残念ながら商売に使えるレベルにはならなかったが、これは周辺回路の特性が追いつかなかったためもある。真空管には真空管用の部品が、トランジスタには、小型で低い電圧用の部品が、というように基本部材が変化すると、その変化に対応した部材が必要となる。

 ではMOSトランジスタなら、多くの問題を解消できるのか?電力と言えば、IGBTがハイブリッド車や電気自動車のモーター制御で使われ、TOYOTAが自作したことでも有名である。実はIBGTでは、入力はMOSで電流の通る部分はバイポーラという構造になっている。IGBTは先に紹介したGTOの一種?変形と言えそうな電子スイッチである。

 MOS-FETが何でも良い訳ではない。バイポーラの欠点は入力がなくなっても即、OFFにならないことで、MOSの欠点は、接合容量の大きいことである。MOSトランジスタはバイポーラトランジスタと比較すると、入力のベース(B)がゲート(G)に、出力のコレクタ(C)がドレイン(D)に、基準側はエミッタ(E)がソース(S)と対応する。

 バイポーラでは、結晶内部のキャリアと呼ばれる電子かホールの移動速度が問題であった。MOSトランジスタでは、ゲートからエミッタへの容量、ドレインからエミッタへの容量が問題になる。つまり大きなキャパシタが並列に入っているイメージだ。このキャパシタはMOSトランジスタの扱える電流が大きければ大きいほど比例的に大きくなる。

 これの何が問題なのか?マイコンや他のロジックICでドライブできる許容容量の何十倍も大きいから問題になる。通常のロジックICでは50pF程度は問題なくドライブできる。しかし、MOS-FETのゲート、ソース間の容量は500pF~3000pFもある。専用のドライブIC、と言っても高容量負荷用のアンプだが、通常のアンプ、OPAMPの負荷に大きなキャパシタを接続すると発振することはアナログ屋の常識だが、この常識外のことを要求されるのであった。
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