電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第482回

半導体は成長の踊り場の様相、ロシア、中国が懸念要因


軍事向けチップは上昇、メタバースも期待かかる!

2022/5/20

 「半導体産業は順調に伸びてきた。しかしてここに来て、大きな懸念材料が出てきた。それは中国経済の大失速と、ロシアとNATOの対決である。かなりの負のインパクトがあるのは間違いないだろう」

著名アナリストの南川明氏はロシアと中国を懸念
著名アナリストの南川明氏はロシアと中国を懸念
 少しく眉をくもらせて、こう語るのは半導体産業アナリストとして超著名な南川明氏である。南川氏によれば、世界のGDPの1~2%くらいは軍事防衛が占めているが、ロシアによるウクライナ侵攻に身構えたNATO諸国はアメリカ、ドイツ、イギリス、フランスを筆頭に日本、韓国も含め戦争能力の拡張、つまりは軍事防衛予算の一気拡大に走るのは必至であると言うのだ。

 そうなれば本来は新型コロナからの経済復興、企業の設備投資促進、都市再開発などにあてられる各国政府の予算が削られ、軍事予算が増えるという図式になる。ここ数年で各国の軍事予算は最大3倍になることも予想されるのである。これは一般景気のトーンダウンに即結びつくのだ。

 もっとも半導体産業には意外に追い風が吹く。世界半導体生産のうち軍事防衛向けは全体の1%程度であるが、一時的にはこの比率が上昇する。もちろん一般電子部品も増えてくる。戦争特需(この言葉は使いたくないです!)による半導体市場の拡大を呼びこむのである。

 「ロシア・ウクライナ問題よりももっと深刻なのは中国経済の大失速だ。今や本格的なバブル崩壊と言ってもいいだろう。成長鈍化ではない。GDPが減ることも考えられる展開。世界経済の牽引役が後退することは、大きなワールドワイドのリセッションにもなりうる」(南川氏)

 中国のGDPは3分の1以上が不動産と言われており、この価格急落がすごい勢いで進んでいる。歯止めをかける方法、つまり特効薬は見つからない。まさに90年代の日本がのたうち回って苦しんだバブル崩壊が中国を襲いつつある。中国は日本にとって最大の輸出先であり、我が国にも大きな影響があるのだ、もちろん韓国、台湾にもあるだろう。こうなればもう1つの人口大国のインドに期待をかけるしかしかない、と知り合いの大手企業幹部はうめくように言っていた。

 さて暗い話ばかりをして来たが、明るい兆しもある。それは何と言ってもメタバースであり、いよいよ開花の時が近づいて来た。

 「メタバースの中核を担う端末はやはりスマートグラスだろう。米国ではこの数年のうちに、現在のスマホ保有者の30%がスマートグラスに切り替える、という見方が強まっている。これが半導体、ディスプレー、電子部品、プリント基板に与えるインパクトはすごいだろう」(南川氏)

 世界最大の半導体企業であるインテル社の幹部も、メタバースにより世界のコンピューター能力は1000倍になる、とも指摘しているのである。そうなればデータセンター、エッジサーバー、大容量通信などに膨大な半導体が必要になる。スマートグラス、スマートウォッチにも微細微小の電子デバイスが驚くほど必要になる。そしてまた、スマートグラスにはナノインプリント技術が必要になる。

 この技術に磨きをかけて来たキヤノン、そして本格参入を考えている岡山のタツモにも熱い視線を送る必要があるだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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