電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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懐かしの真空管 3


ソニーの一世風靡のテープレコーダーに驚いた!
~オーディオ・マニアには今も真空管が重要

2022/3/25

 1960年代の前半、すでにラジオはトランジスタ・ラジオが当たり前の時代に、ソニーの小型のテープレコーダーを母から何かの御祝いで買ってもらった。もちろん、未だカセット・テープは登場していない。オープン・リールのテープレコーダーである。これがソニーの一世風靡の大ヒット製品となった。

 オープン・リールの規格は、3インチ、5インチ、7インチとあったが、これは5インチのものであった。色々と録音して楽しんだが、一番の成果は、母方の祖父、祖母の声を遊びに行った際に録音して、聞かせると、大変に驚かれたことであった。これはテープレコーダーができるまで、自分の声を聴く機会がなかったからと思う。何しろ、祖父が「これは誰の声だ?」と言うと、祖母が「何を言っているの?あなたの声じゃない。」、「これ、俺の声か?」という、今思えば間抜けな会話であった。この祖父、祖母の声の録音は祖父が没してから母方の親類に聞かせると、驚かれ、懐かしがられ、コピーを依頼されたものであった。

 さて、このテープレコーダーの中をのぞいてみると、真空管でできていた。1960年代であるから、ラジオはトランジスタになっていた。しかし、小型であっても、テープレコーダーは電池駆動ではなかった。これはモーター、ソレノイドといった機構部品が電気の消費が大きかったことが主因で、電池駆動にできないなら、音声回路、録音回路を高価なトランジスタにする意味がなく、真空管で作ったのか、と納得したものであった。

 ステレオではないが、似たような大きさのラジオが家にあった。未だテレビはなかった。筆者が幼稚園の頃、小学校の低学年の頃の話である。このラジオでは、NHKの番組「お話出てこい」や、民放の「赤胴鈴之助」といった放送を妹と一緒に聞いていた。声だけの小百合ちゃんが後に、吉永小百合、と言われてもイメージは違っていて納得できなかった。

 ラジオだから画面はないので、話される言葉から頭の中で場面を想像していた。「百聞は一見に如かず」というが、見てしまうと、イメージは固定されてしまう。声での読み上げからは、読本と同じで、頭をつかう。未だ、文字が十分に読めなかった低学年時代には、これが難しかったが、他に面白いものが少なかったので、一番の楽しみであった。

 この時代には、オーディオも電子機器の花形であった。ステレオ・セットを応接間に置くことは、庶民の夢で手の届くものであった。円盤レコード、LP30cm、EP17cm用のレコード・プレイヤー、AM/FMラジオ、ステレオ・アンプ、スピーカーセットが組み合わされて、箪笥の様な形をしたデンと座った姿であった。これは主に、スピーカー・ボックスが大きかったからである。なお、テープレコーダーは付いていない。カラオケも一般ではなかったので、マイク入力もない。カセット・テープ装置も、もちろん、ない。

 電源を入れて、数分待つ。これは真空管が温まる、つまり真空管のヒーターが十分に熱くなって、熱電子を放出できるようになるのを待つのであり、コンピュータがブートを待つのではない。真空管が温まると、スピーカーから、ブーンという雑音が聞こえてくる。これで演奏の用意ができた。LPレコードをセットして、慎重に針を降ろす。音楽が聴こえてくる。

 音楽の演奏が始まると、飛び跳ねるといった行為は厳禁である。これは振動がレコード・プレイヤーに入ると、針が飛び上がって演奏がおかしくなるからである。

 問題は、当時流行していたエレキバンド、モンキーズの「恋の終列車」といった曲のレコードで、設置場所が悪いと、レコードから再生中の曲、ドラムとエレキ・ギターの激しい演奏の音、つまり振動で針が飛ぶこともあった。針は飛ばなくても振動が伝わると、ハウリングを起こす。ピーギャー、といった音が大音量で出るので、慌てて止めるしかなかった。

 マニアは今でも、良い音、好みの音を求める。昔も今も、オーディオ・マニアに好まれている真空管がある。オーディオ出力用3極管、2A3である。柔らかい音がする、として、この真空管のファンは多かった。しかし、扱い難い真空管でもあった。カソードは一般の真空管では、酸化物をコーティングした金属の筒をヒーターに被せて酸化物により熱電子の供給を行っているが、2A3では、ヒーターがそのままカソードとなる、直熱管というタイプであった。

 ヒーター電圧も、2.5Vという変な電圧で、専用の電源が必要であった。趣味に凝るオーディオ・ファンは、この2.5Vをトランスから直接作る交流の2.5Vではなく、整流して直流にしたDC2.5Vを用いて、ヒーターからのノイズを減らそうとした。これには別の意味もあった。直熱管である2A3は、ヒーターの電源変動に弱く、振動にも弱かった。ヒーターに過電圧を与えるとすぐに壊れた。壊れないように大事に使うのが大事であった。しかし、2A3は出力管であっても、音響出力は6W程度、大きくはないが、三菱のダイヤトーン、NHKの試聴用スピーカーと組み合わせて楽しんだものであった。

 この2A3には、専用の電源トランスがあり、専用の出力トランスもあった。2A3の真空管の価格より、電源トランスと出力トランス、ステレオで2個の値段の方が高かった。ちなみに、2A3シングル専用の出力トランスは、山水電機の独壇場であった。

 今でも、中国製、ロシア製であるが人気があるためか、2本組で2万円程度で売られている。趣味の方、オーディオ・マニア向けで売れているようである。ちなみに、真空管は200V程度の電圧を使うので、ダイナミック・レンジの広さから専用のICでは得られない音のまろやかさが得られる。

 完成したセットでは問題にならないが、今、2A3のアンプを作るなり、購入したりすると、スピーカー・システムやチューナー、CDプレイヤーは別々に用意して接続する必要がある。このように、アンプ、レコード・プレイヤー、チューナーといった装置をバラで購入してくると、LチャネルとRチャネルがどちらだ?と問題になる。

 解決方法は、試験用レコードである。筆者は、試験用のEPレコードを持っていたので(放送部の経験から)友人たちはよく借りに来た。今でも、周波数範囲、LRのチェックのできるCDを持っている。残念なことに、このCDで周波数による再生音量の変化を調べても、年齢のため、もう8KHzの音は聞こえない。当然、それより高い周波数も聞こえない。若い頃からヘッドフォンで、大音量のノイズを聞いていたからか?と思う。

 しかし、こういうCDが売られているということは、今でも、アンプ、チューナー、CDプレイヤー、スピーカー(ドライバ)といったものを個々に購入するオーディオ・マニアがいるということとなる。実際、秋葉原に真空管アンプを作る会があると聞いている。

 何時の時代でも、凝り性の人はいるものと知れる。時代を超えて、価値のあるものを作りたいと思う。
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