商業施設新聞
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第322回

(株)アクアイグニス 代表取締役 立花哲也氏


「VISON」の成果を全国へ
静岡など4地域で開発計画

2022/3/15

(株)アクアイグニス 代表取締役 立花哲也氏
 日帰り温泉宿から露天風呂付きのヴィラ、商業リゾートまで様々な施設を展開している(株)アクアイグニスが、不動産業を本格化しつつある。直近、開業する「アクアイグニス仙台」を含め、4つの地域で開発計画が進行中であり、商業施設の役割については「地域の課題を解決するパッケージを作りたい」と語る。同社代表取締役の立花哲也氏に話を聞いた。

―― これまでの開発実績について。
 立花 当社は2012年に三重県三重郡菰野町にリゾート施設「アクアイグニス」を開業した。アクアイグニスは片岡温泉や宿泊施設に加え、辻口博啓氏、奥田政行氏、笠原将弘氏ら有名シェフがプロデュースする飲食店が建ち並び、いちご農園なども設け、ランドスケープと食が楽しめる施設として年間100万人が訪れる。このアクアイグニスの成功を受けて、8年の歳月を費やして開発したのが商業リゾート施設「VISON」である。

―― VISONの開発で注力した点は何でしょうか。
 立花 立地する多気町は人口が2万人以内の地域であったが、伊勢神宮に近いことから、地域だけでなく観光需要も見込んで、食のすべてを集めることを考えた。具体的には、味噌・醤油・酢・出汁メーカーの店舗を導入し、酒蔵を設けるなど、店舗のリーシングにこだわり、食の一大商業施設を作った。
 日本には、商業施設はアパレルを中心とする施設は多かったが、食をテーマにした大型施設はなかった。その一方で、食のインスタント化は年々加速し、食文化を体験する場がなくなりつつあることから、食に触れ、学べて、体験できる施設としてVISONを作り上げた。VISONではこうした食に加え、自動運転や遠隔医療などによるスーパーシティ構想の実現や、サステナブルを意識した木造建築にも取り組んでいる。

―― 店舗のリーシングについて詳しく。
 立花 VISONではナショナルチェーンゼロを目指し、メーカーに出店依頼を行った。例えば、VISONに出店している「林商店」は伊勢たくあんの老舗であるが、保存料や着色料を使わないので商品は日持ちしない。それは必ずしも便利ではないが、商品にはこだわりがあり、古さや懐かしさも感じられる。こうした残さないといけないモノと、その場所にないモノを組み合わせたのがVISONである。
 ナショナルチェーンゼロを目指した理由としては、こうした地域のメーカーとタイアップし、メーカーと一緒に食の伝統や文化を残していきたいと考えたからだ。メーカーの誘致にあたっては1店あたり10~20回ほど企業訪問しており、トータルで1000回以上通った。
 全体リーシングをブレずにコンセプトも曲げずにやり抜いたことで、メーカーのほか、百貨店に出店しないブランドや飲食店も、VISONにご出店いただいた。このVISONで得られた成果は全国でも十分通用すると考え、現在、東北、関西、関東などで新たな開発計画を進めている。

―― 開発計画の詳細を。
 立花 東北では、津波の被害を受けた住民が引っ越した後の、仙台市役所が所有する土地に「アクアイグニス仙台」を4月20日に開業する。アクアイグニス仙台は温浴施設、ベーカリー、スイーツショップ、イタリアン、和食、カフェ、土産店で構成される。関西では淡路島の淡路地区において、Park-PFIを活用した新施設を開発中だ。同施設は温浴施設、和・洋食レストラン、サイクリングショップ、リラクゼーション店に、温泉プールも設ける計画で、今夏の開業を目指している。
 関東では、静岡県駿東郡小山町の足柄サービスエリア周辺の桑木地区内に、東日本版の巨大VISONを整備する。今後、設計作業を進め、造成工事や建設工事を経て、26年の開業を目指す。そのほか、新幹線が開通する予定の福井県では、宿泊施設が少ないため、当社が展開する露天風呂付きのヴィラ「素粋居」を出店する予定だ。これらの開発は地場企業が主役で、当社はノウハウやアイデアを提供していく。

―― 貴社が整備する商業施設の考え方について。
 立花 長く続く施設を作りたい。従来の商業施設は定期借地契約に縛られ、営業できるのは20~30年、伸びても40年だ。近年はテナントとの契約も短くなっていると聞く。当社が出店依頼を行う企業の中には100年企業も存在するため、出店者が営業し続けることが前提のリーシング活動を行っている。だからこそ、VISONのような素晴らしい施設が誕生した。
 近い将来、自動運転の時代を迎えるので、当社は駅前よりも、高速道路のインターチェンジ付近に新施設を開発する。また、足元人口よりも、観光人口を重視し、地場企業との協業を積極的に図る。ブランドは「アクアイグニス」「VISON」「素粋居」の3つが揃ったので、今後は地域の自治体や企業とタイアップしながら、地域の課題を解決するパッケージを作っていきたい。

(聞き手・副編集長 岡田光)
商業施設新聞2436号(2022年3月8日)(1面)
 デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.371

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