韓国のソウル特別市は、市の真ん中を流れる漢江辺開発の妨げとなっていた「35層ルール」規制について、8年ぶりの見直しを始めた。従来の「画一的な都心空間」のイメージから脱皮し、多彩な都心スカイライン(建物などが空を区切って作る輪郭)への大々的な再開発に取り組む。また、近代化以降、継続的に運用してきた「用途地域制度」について、住居・業務・商業施設という区分をなくす「ソウル型の新用途地域体系」として長期的な視点で見直す。さらに、ソウル都市鉄道の地上区間の地下化も段階的に進める。
呉世勲(オ・セフン)市長はこのほど記者会見を開き、こうした内容を盛り込んだ「2040ソウル都市基本計画(ソウルプラン)」を打ち出した。同プランは、20年後のソウルの発展方針を提示する法定都市計画である。1990年に初めて法定都市基本計画が樹立されてから5番目のものになる。故朴前市長が14年に樹立した「2030ソウルプラン」を代替する中長期計画となる。
同プランの特徴は、これまでソウル市全域で一律かつ定量的に適用していたマンションの「高さ35層の基準」を削除し、柔軟かつ弾力的な「スカイライン・ガイドライン」に変更することだ。ただ、35層の基準はなくなるものの、建物の容積率が高くなるわけではない。つまり、同一の密度(延べ面積、容積率)の下、高低のある建物をバランス良く配置することを意味する。そうなると、漢川の河辺で対岸を眺める時に見られるような、現状の一律的なスカイラインではない、多彩なスカイラインの創出につながる。呉市長は、35層規制の廃止に伴う不動産の価格上昇の懸念について「容積率は変わらないため、不動産の価格が値上がりすることはないはずだ」としている。
また、都市空間を住居や工業、産業と緑地に区分けした「用途地域制度」は、新しい都市計画のパラダイムである「ビヨンド・ゾーニング(Beyond Zoning)」として全面的に見直される。ソウル市は、ソウル型の用途地域体系であるビヨンド・ゾーニングを通して、用途の導入に自主性を与え、複合的な機能配置を可能にする計画を立てている。このため、国土計画法の改正などを推し進めて、2025年からソウル市全域での段階的な適用に取り組む。また、都市鉄道の地上区間の段階的な地下化、徒歩30分圏内を自立生活圏にする「歩行の日常圏」の導入、光化門・汝矣島・江南など3都心機能の高度化なども進める。2040ソウルプランは今後、公聴会や関係機関の協議、都市計画委員会の審議などを経て、22年末までに最終案を確定する。
また、未来の交通インフラも大幅に拡大する。ソウル市は、空飛ぶタクシー(UAM、都心航空交通)基盤を整備するため、25年に機体の実用化に合わせて金浦国際空港~龍山国際ビジネスセンターなどのテスト路線を運営する。また、龍山とCOEX(三成洞)、蚕室地区などの開発エリアにUAMターミナルを建設する。加えて民間の開発にてこれらのインフラを確保する場合、容積率を高める方策も進める。
近未来のソウル市は、単調な高さと色合いの市街が高低のある多彩なマンションやビルに替わり、空飛ぶタクシーによる都心交通システムによって、空想科学映画を彷彿させるような雰囲気に変貌していくかもしれない。