電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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懐かしの真空管 1


今も真空管の時代は終わっていない!
~電子レンジ等に搭載・しかして感電にご注意

2022/3/11

 筆者が学生の頃(1970年以前)は、真空管全盛の時代であった。年で言えば1950年代となる。1960年代になるとトランジスタが登場し、徐々に真空管に取って代ってきた。しかし、フレミングが真空管を発明したのは1904年とのことであるので、50年以上も使われてきた歴史は重い。今は、ICで実現されている種々の電子機器も、元々は真空管により開発されたものがほとんどである。

 現在でも、皆様の御家庭にもいまだ1個くらいは真空管が残っている。液晶テレビが一般化する前は、テレビに使われていたブラウン管が真空管であった。だから当時は、2個の真空管が有った。

 今でも残っている真空管は、電子レンジの2.4GHzで分子共振により水を加熱するマグネトロンである。マグネトロンは極超短波を作る共振回路を内蔵した真空管の一種で、遠くの物体を検知するレーダーのための物であったが、水の共振周波数2.4GHzにより水の加熱ができる装置となり、マイクロウェーブ・オーブン、電子レンジとなった。

 マグネトロンの発明は、1920年に米国のGE(ゼネラル・エレクトリック)社によるとWikipediaにある。1927年には、国内の学会で八木アンテナと共に論文の発表が行われている。戦前のことであり、日本では頭の固い、欧米崇拝の軍部と政府は国内の発明や高度技術を信用しなかった。結果、戦争に負けたのであるが、科学技術に取り組む考えの差で負けたとも言えるのではないか?新型コロナウイルスへの対応も海外頼みの点では似たり寄ったりだな、と思っている。

 さて、真空管を御存じない方々も居られると思うので簡単に紹介しておこう。真空管、後には電子管とも言われたが、ガラスのチューブ内を真空にして、そこに電極を仕込んで空気に邪魔されない状態で、電子の移動を制御して様々な電子回路の機能を実現したのが真空管である。真空にする代わりに、特定のガスを仕込んだ真空管もあるので電子管という名称が適当として、この名称を使う場合もある。

 形態が似ているのは白熱電球である。白熱電球では、フィラメントが高熱で発光すると同時に昇華してガラス球の内側を曇らせる。そこでガスを入れて昇華を防いでいる。しかし、構造、形態は似ているが、空間に電子流がない。ガラス管の中の電極と電極の間に電子流がある物を真空管、電子管と呼称している。

 真空管に仕込まれる電極は、ざっくり言えば3つに分類できる。電流を供給するプレート、トランジスタのコレクタかドレインに対応する部分、グリッドは流れる電流の量を調整する部分で、トランジスタのベース、FETのゲートに相当する部分、カソードは熱電子を供給する、トランジスタのエミッタ、FETのソースに供給する部分の3つである。そしてソケットに挿す電極の近くに銀色の部分がある。これはマグネシウムをスパッタしたものであり、真空度が低下すると、金属から遊離してきた分子はマグネシウムと反応して固定され、真空度を保つようになっている。

 学生の頃、アマチュア無線機を真空管で作り、といってもラジオと送信機だが、多くの真空管を使った。真空管は、使用中は熱くなる。熱くなっている真空管を外す際に、手で持ってしまい、熱い、と取り落とすとガラスにひびが入り、スパッタされたマグネシウムが一瞬で白くなる。壊してしまったことになる。トホホと泣きの涙である。この点、今のICは、落とすといった物理的衝撃に強く、少々の静電気では壊れないので優れている。

 真空管の中には、グリッドがない、プレートとカソードだけの物がある。プレートの電圧がプラス(+)の時だけプレートからカソードへと電流が流れる真空管である。一般には、ダイオードと呼ばれていた。この真空管は、電源の整流に使われたので、正しい名称としてはレクティファイアと呼ばれていた。これらの呼び名は、半導体にそのまま引き継がれていることで、元は真空管と分かると思う。

 真空管のプレートとカソードの間にカソードから出た熱電子がプレートのプラスの高電圧に引かれて電流として流れるが、この電子の流れ、電子流の途中に金網を仕込み、電子と反発するマイナスの電圧をかけると、電子の流れ=電子流を遮断する、減衰させることができる。

 真空管を使って何かを作ったことがある方なら経験があると思うが、感電である。日本の一般的な商用電源は、AC100Vであり、ピークの電圧でも141Vであり、変動しているので感電しても連続ではない。ところが真空管は直流で100V以上、普通に200Vから300Vを使っている。こういう所に触れば感電するし、連続である。筆者は何度も感電していて、感電には強くなった。AC100Vを触っても、ピリピリするぐらいで済んでいる。まあ、感電で害になるのは電流なので一寸、100Vを触ったぐらいでは大きな電流は流れないから少々、痛いで済む。

 とは言え、死ぬかと思った感電をした経験がない訳ではない。アマチュア無線の送信機を調整していた時のことである。出力段807という型番の真空管は、プレートが真空管の上部にあり、500Vの電圧がかかっており、そこから送信用のタンク回路に接続しているのであるが、送信中にこのプレートの配線に触ってしまったことがある。

 視線は電流計、出力計に行っていて、出力タンク回路のバリコンを廻そうと延ばした手が、ずれて触ってしまい、指先に高電圧がかかり、50MHzの高出力が重畳している所で感電してしまった。手は痺れて離せず、体が動かず、冷汗を感じ、これはもう駄目、と感じたが、何とか足で送信機を蹴ってどかし、やっと感電している手を放すことが出来た。高電圧回路を触っていた指には、径は1mm程度ではあるが穴が開き、その周囲は焦げていた。触った方の腕には感覚が無く、動かすこともできなかった。

 これは身体障害者になったか?と思ったが、そのうちに動かせない腕にも痛みがあったので希望を持ち、散歩に出て落ち着くために、近所であった本門寺という御寺の境内でしばらく過ごしていると、徐々に腕に感覚が戻ってきた。それでも4~5時間は動かせなかった。感覚が戻ってくると火傷になった指先が痛い。傷薬を付けて絆創膏を巻いて済ませたが、この指の内部への火傷は1カ月以上治らなかった。まあ、こういう感電事故を生き抜いたので、100Vに感電したぐらいでは死なないと思っている。

 コンピュータの前に座って、C言語やVerilog言語を作成するだけが設計作業ではない。電子装置は、電気で動いている。各種のセンサーや出力のLEDランプ、スピーカー、モーターはアナログの信号、まさに電子流の変化により動いている。何かの機会に、真空中を流れる電子を見て、電流を実感されることをお勧めする。
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