商業施設新聞
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No.844

王者・三越の挑戦


岡田光

2022/2/15

 先日、セブン&アイ・ホールディングスがそごう・西武の株式を売却すると報じられた。これを聞いて、百貨店業界の苦境を改めて思い知らされた。ただ、報じられたからには、次に向けて気持ちを切り替え、そごう・西武をどの会社が買収するのか、売却先に注目していきたい。一方で、今の私はそごう・西武よりも、同じ百貨店業界に属するある企業に興味が湧いている。それが、百貨店業界の王者として君臨する三越伊勢丹ホールディングスだ。

大規模改装を実施した「松山三越」
大規模改装を実施した「松山三越」
 なぜ、興味が湧いているのか。その理由は大手4社(三越伊勢丹ホールディングス、J.フロントリテイリング、高島屋、そごう・西武)の中でも、三越伊勢丹ホールディングスが“地方”に力を注いでいるからだ。東京に本社を構えていることもあり、旗艦店となる「三越日本橋本店」「伊勢丹新宿本店」「三越銀座店」の話題ばかりに目が行きがちだが、最近は地方でも様々なチャレンジを行っている。そのひとつが、2021年末に全館グランドオープンした松山三越である。

 大街道アーケード沿いに立地する松山三越は、アクセスは決して良くないものの、近隣の「いよてつ高島屋」とともに、松山市民、ひいては愛媛県民の高級志向をうまく捉えてきた。しかしながら、郊外のショッピングセンター開発などで売り上げは低迷し、20年度(21年3月期)まで11期連続の赤字が続いていた。コロナ禍でますます苦しい状況に陥る中、松山三越は30年ぶりの大規模改装を実施することを決断。20年9月から改装工事を段階的に行い、21年12月に全館グランドオープンした。

 大規模改装後は地上1階にフードホールを設け、最上階の8階にホテルが整備されるなど、三越伊勢丹グループ初のハイブリッド型百貨店として注目を集めている。松山三越の浅田社長も「予想以上の完成度になった」とコメント。私も21年10月の第1弾オープン時と、同年12月の全館グランドオープン時に取材したが、新型コロナウイルスの感染が落ち着いていた時期とは言え、同店に足を運ぶ顧客が多く見られた。逆に言えば、地方の百貨店でよく見られる“お年寄りの休憩場所”のような光景はなく、売り場全体、フロア全体が活気に満ち溢れていた。先ごろ開かれた三越伊勢丹ホールディングスの22年3月期第3四半期決算において、この松山三越は、第3四半期単独で黒字に転換したという報告があり、私が感じた活気は間違いないものだったと確信した。

 地方でのチャレンジでもう一つ注目したいのが、三越ブランドの展開だ。すでに周知の事実であるが、三越伊勢丹ホールディングスは今春に2店をグランドオープンする。ひとつは21年10月に先行開業し、今春にグランドオープンする「三越徳島」で、もうひとつが4月に愛知県豊田市の豊田市駅西口市街地再開発ビルに開業する「三越豊田」だ。この2店に共通するのは、百貨店の跡地に出店することと、店名に「三越」が入ることだ。前者は三越徳島がそごう徳島店の跡地、三越豊田は松坂屋豊田店の跡地となる。百貨店の跡地に出店して本当に大丈夫かと心配の声が上がっているが、私はその点はあまり心配していない。むしろ、私は店名に三越を入れたことに注目している。

 過去を振り返ると、三越伊勢丹ホールディングスはイセタンミラーやイセタンハウスなど、「伊勢丹」の店名でサテライト店を展開したことは記憶にあるが、「三越」の店名でサテライト店を見る機会はほとんどない。しかし、今春にグランドオープンする2店には「三越」の名が刻まれる。これは三越伊勢丹ホールディングスの新たな戦略となるのか。百貨店業界の王者・三越の挑戦が始まろうとしている。
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