商業施設新聞
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第315回

西日本旅客鉄道(株) 創造本部 不動産統括部 カンパニー企画グループ 部長 高山耕治氏


利便性と体験軸に駅施設を開発
3大拠点駅開発で都市の魅力向上

2022/1/25

西日本旅客鉄道(株) 創造本部 不動産統括部カンパニー企画グループ 部長 高山耕治氏
 西日本旅客鉄道(株)(JR西日本)は、利便性と豊かな体験をキーワードに目的性の強い駅と拠点づくりを通じて、商業施設に訪れる意味を創出しようとしている。現在進めている大阪駅、三ノ宮駅、広島駅の3大拠点の再開発や今後の展開も含め、同社創造本部不動産統括部カンパニー企画グループ部長の高山耕治氏に話を聞いた。

―― 新型コロナの影響について教えていただけますか。
 高山 感染が拡大した約2年間は、鉄道をはじめ、駅に近接する当社の商業施設やホテル、不動産事業も非常に大きな影響を受けた。鉄道の利用者数は6割(以下2019年度比)の水準で推移している。また、当社グループが所有する都心の商業施設も鉄道と同様に、売上高が6~7割の水準だ。
 ただ、21年9月の緊急事態宣言解除後は都心への人出が増加し、売り上げが戻りつつあり、11月には売上高が9割まで回復した。一方で、今後もコロナ禍の行動様式の変容により、感染リスクを恐れて来館しないという判断をするお客様も一定程度存在するだろう。そのうえで、運営する立場としては、ターミナル駅や商業施設にわざわざ足を運んでもらえるような価値の提供や意味を持たせなければならない。

―― 具体的にはどのような取り組みを進めますか。
 高山 利便性の向上と豊かな体験の提供が重要である。当社グループの情報を発信する移動生活ナビアプリ「WESTER」を活用し、商業施設の情報提供や施設内で利用できるポイントを付与し、足を運んでもらうきっかけをつくることが重要だろう。
 一方で豊かな体験は、例えば、子会社の運営する「ジェイアール京都伊勢丹」では、当社グループの鉄道網を生かし、山陰地方で朝水揚げされた蟹をその日の夕方に販売したり、「美術館『えき』KYOTO」で展示している作品や作家に関連する商品を販売したりするなど、お客様の自宅でも体験を継続できることや、実際に都心の商業施設へ行ったからこそ味わえるサービスを提供していくことも必要だ。

―― 3大拠点駅で開発を進めていますが、こちらの狙いについて教えてください。
 高山 当社では、大阪駅、三ノ宮駅、広島駅の再開発を創造事業の三大プロジェクトと位置づけ、京阪神・中国エリアを代表するターミナル駅としての機能や価値向上を目指しており、ショッピングセンター、ホテル、オフィスの開発を通じた各エリアでの交流人口や定住人口の増加を目標としている。
 このうち大阪駅は11年に南北エリアの開発は完了したが、駅の西側にある施設は老朽化が進んでいた。加えて、31年春になにわ筋線が開通する予定で、新駅などの開発のタイミングとも重なり、新たな開発を進めている。鉄道ネットワーク整備と沿線開発を通じて、国際都市としての魅力も高めていきたい。
 三ノ宮駅は、大阪駅、京都駅に並ぶ京阪神の拠点駅であると同時に、阪神や阪急、神戸市営地下鉄や神戸新交通などが乗り入れており、高い機能性がコンパクトに集約された街である。当社では、29年度中の開業を目指して、新たな駅ビルの開発を進めている。三ノ宮駅と各私鉄への利便性を改善するとともに、神戸市などとも連携し駅前に広場を整備し、イベントなどを開催して神戸市の魅力を発信していける場所にしたい。
 広島駅は、中国エリアの拠点駅という側面に加え、広島市内を走る路面電車があるという個性を生かし、新駅ビルの2階に路面電車を乗り入れられるように整備して、市民の利便性の向上を図るとともに、観光で訪れるお客様にも広島市を感じてもらえるような街づくりを進めていく。

―― 郊外の沿線開発は。
 高山 大阪府吹田市にある「吹田グリーンプレイス」や兵庫県西宮市にある「夙川グリーンプレイス」といった駅ソト立地のショッピングセンターのほか、神戸市のJR住吉駅直結の「Liv」など、ライフサポート型の施設がコロナ禍にもかかわらず、堅調に売り上げを伸ばしている。都心と同様に関係する子会社と連携しながら、定住人口や交流人口の増加を図れるように施設の集客力向上に努めていく。

―― 沿線外の開発も控えています。
 高山 沿線外においても、当社の沿線内で培ってきた不動産開発のノウハウを生かして展開したい。関東エリアでは分譲マンションの開発が軌道に乗っているほか、入札で開発に参画した商業施設「横浜市旧南区総合庁舎跡地開発」などのような再開発案件も手がけていく。九州エリアでは子会社のひとつが長崎市を開発エリアとし、21年10月に商業施設をオープンしており、機会があれば進めていきたい。

―― 今後の展開について。
 高山 まずは、三大プロジェクトを完成させ、お客様の嗜好の変化に対応した拠点駅の開発を行う。ECサイトなどが潜在的なライバルとなる中で、コロナ禍をきっかけに、駅にわざわさ目的をもって来てもらう要素の必要性が増した。運営する側として、目的性の強い駅づくりは永遠の課題であるが、ITなども活用しながら駅の開発を進めていきたい。


(聞き手・副編集長 岡田光/北田啓貴記者)
商業施設新聞2428号(2022年1月11日)(1面)
 デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.365

サイト内検索