1981年12月、岩手県和賀郡江釣子村(現・北上市北鬼柳)に、村内外の零細小売業者が協同組合を立ち上げ、地元主導型SC「PAL」を開業した。地域の仲間と共生して地域に根差しながら単館SCを運営し、今年40周年を迎える。だが、近年はテナントの後継者問題がくすぶり続け、そこに新型コロナウイルスが追い打ちをかける。こうした中、50年周年に向けて施策を打つ。協同組合江釣子ショッピングセンター理事長の高橋祥元氏に聞いた。
―― コロナ禍でのSC運営は。
高橋 新型コロナの感染拡大で買い物行動が変わった。岩手県内は最初、感染者はゼロが続いたが、北上市内に感染者が出たとなると、途端に客数が落ちた。PALは生活必需品の店が中心なため来店いただけるが、滞在時間は短い。館は入り口が10カ所あり換気は十分行き届くし、様々な対策が奏功し、おかげさまで、これまで当館から感染者は一人も出なかった。それは我々の努力もあるが、お客様が気を付けた結果。だが、客数、売り上げも減った。
―― 消費の変化は。
高橋 ハレがない。最たるものは冠婚葬祭がない。高齢者比率が高いので、葬儀も多いが、最近は親近者のみの形式が増え、礼装品は苦戦している。祝い事や結婚式もほとんどないため、振袖や着物、引出物、お酒が売れない。また、ラーメン店や定食屋、仕出し弁当店など、自営業者が材料を仕入れるための来店も減った。つまり飲食店が厳しい。
―― 客数は。
高橋 21年度(20年10月~21年9月)は減っており、前年度比が97.7%、19年度比で92.2%だった。
―― テナントの退店は。
高橋 40年前に我々の仲間とつくったSCだが、退店原因の多くは事業継承者の問題である。後継ぎの子どもがいない問題である。
―― リニューアルなどの計画は。
高橋 3年前に核店舗のイオンの隣に2階建て1万m²超の増床・改装リニューアルを計画し、今ごろ開業準備で忙しいはずだったが、コロナなどで計画が止まっている。この計画はコロナ前のものであり、ある意味で成長戦略だった。これからは単に規模を大きくするのではなく、いかにおもてなしの空間をつくるか。昔遊んだ空間は今はどこにもない。それをSCの空間で再現できないかと考えている。
―― 具体的には。
高橋 お客様、従業員にとって「店は毎日生きた学校であり、店は市民の教室である」をコンセプトに、学びや遊び、交流して時間消費する空間を設けたい。使い方はお客様自身が決める。将棋・囲碁や麻雀クラブ、ピアノや生け花教室など、50~60くらいの教室ができそうで、時間単位で貸すことを考えている。ついで買いも期待できる。また、着物の着付けが終わってすぐに帰宅するのではなく、ここでお友だちとお茶をしたり、いわゆる公民館的な使われ方。地域生活者のプラットフォームを目指す。
―― 高齢者増加で、来店できなくなる懸念は。
高橋 無料送迎バスを3コース運行している。公共バスは乗客がゼロなのに当館の送迎バスは20~30人乗っている。他のルートの運行要望も多い。またお客様から免許証を返納するので、配達する仕組みをつくって欲しいという要望は受けているが、配達はコスト面から難しいと思う。
―― 単館SCとして40年を迎えます。
高橋 運営できたのは地域・お客様のご支援があってこそだが、組合員の協業思想の徹底もある。立地が良く、広い駐車場があり人が集まりやすいから、老人施設を含めた病院、劇場や温泉、公園が周辺に増えた。実はここは日本一がたくさんある。まずは「山のない村日本一」、高速道路ICまで1分、新幹線北上駅まで5~6分、空港まで25分と「高速交通で最も便利な場所日本一」。また、立地が日本海側と太平洋側、北海道から線を結ぶとここで交わる、交通の要衝とも言われる。人が通る、車が通るということは金が通るということ。人と車を止めてお金を使っていただく。最高に便利で、有利で、お得なSCなのだ。
―― 今後の抱負を。
高橋 従業員や商品に関わるメーカーや問屋も含めて幸せになる経済環境づくりに役立ちたい。いくら売っても幸せにならない商売はやるべきではない。価格決定権も必要であり、そのためには高い商品企画力と信用力をつけなければいけない。それができる仕組みをつくりたい。出店している地域の中小企業の皆さんが商人として生き、企業を残すことが最大の目標。お客様のニーズに合わせて我々も変わらなくてはならない。PALはみんなのもの。共生するために協働する。それを忘れてはいけない。40年周年は50年に向けての準備。皆さんに喜んでもらう施設を目指す。
10月1日から新年度に入った。今年度の活動テーマは「協業力」。協業思想は共同店舗の基本的な哲学だ。大きい店もあれば小さい店もあるが、それぞれに特徴や役割がある。この役割を果たすことで、小さい力が数倍になって、大きな力を生む。40周年を迎え、いま一度協業思想を再構築していくことが、今年度の基本テーマである。
(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
※商業施設新聞2420号(2021年11月9日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.358