（株）紀ノ國屋は1910年、東京・青山に創業以来、日本初のセルフサービススーパーを開業、ショッピングカートやインストアベーカリーの導入など、常に時代を先駆けてきた。JR東日本グループ入りして昨年で10年が経ったが、次の成長戦略をどう描くのか。代表取締役社長の富田勝己氏に聞いた。

―― 2020年度の状況から。
　富田　20年度は増収減益だった。特に路面店は好調だったが、駅ナカ店は乗車率に比例して売り上げが落ち、東京、上野、新宿といったオフィスに近い立地や、新幹線需要の大きかった駅は影響が大きかった。

―― 足元は。
　富田　路面店は比較的堅調で、山手線の駅に立地している店舗は厳しいが、昨年ほど悪くない。第1四半期は増収となった。

―― 今年度の見通しは。
　富田　乗車率が上がっており、それに比例して業績も上がっている。年度末ごろにはコロナ前の水準に近づくと期待する。

―― 他の高級スーパー勢との差別化は。
　富田　当社は高級スーパーとの認識はない。紀ノ国屋は何をしたいのか、どういうものをお客様に提供したいのかを追求している。当社の社是は「食を豊かに、人生を豊かに」。食にこだわり、PBに注力している。ご褒美的なもの、ちょっといいものなど紀ノ国屋らしさを表現し、それを愚直にやっていく。結果、それが差別化につながると思う。

―― 現在の店舗数は。
　富田　立地を大別すると、路面、駅ナカ、SC、百貨店。現在38店で、路面店が5店、主に駅ナカやSCを立地とする「アントレ」が12店、「デイリーテーブル」が11店となっている。

―― 今期はシャポー船橋店とソコラ用賀店、広島三越店を開店しました。
　富田　まだ1～2店は予定している。

―― 首都圏以外の出店が目立っています。
　富田　ジェイアール京都伊勢丹店の開店以降、「うちもどうですか」という声が増えたし、また、店舗のないエリアでも、紀ノ国屋の商品をECなどで求められる方が多い。今まで首都圏に限っていたが、出店する体力がついてきた。現在38店だが、中期的には50店を目標としている。その際には出店対象は全国になる。

―― 全国出店でカギとなる点は。
　富田　バイヤーの強化が挙げられる。全国出店をにらんだ時に、各地に眠っている良い素材をいかに掘り起こし、紹介できるかが重要だが、当社のバイヤーは目利きが多く、期待している。当社は大手ではないので、取扱量はさほど多くはない。そういう意味では今の規模は地方のこだわりのある良品を扱うにはちょうどよいのかもしれない。

―― ECの展開については。
　富田　当社独自でやっているし、JRグルーブがJREモールを持っている。店舗がない所ではECへの誘導を図る。まだネット売り上げは全社売り上げに対して微々たるものだが、伸ばしていく分野。戦略的に展開していく。

―― DXの考えは。
　富田　「KINOKUNIYAスット」では、無人決済システムを実現している。さらにDXによる可能性を探っている。裏の作業をデジタル化により、人手を割かなくても済むようにしたい。店員はお客様に直接、商品の魅力を語ったり、接客に注力したい。一方で、このお客様はどういうものを買われるかが常に頭に入っているようなベテランが高齢化で減っている。それをDXでデータ化し、ONE to ONEマーケティングを可能にしたい。

―― JR東日本グループ入りして10年が経過しました。
　富田　紀ノ国屋らしい商品開発、業態開発や首都圏以外の出店などを実現してきた。システマティックにするところはシステマティックに、人手をかけるところはしっかり人手をかける、というようにメリハリをつけていく。次のステップへの土台をつくっていく年にしたい。

―― 人材確保はどうですか。
　富田　今年も23人が入社した。時代に合わない古い気質ややり方が残っていたりするので、そこは教育をしっかりして体系化する。ただ、金太郎飴をつくるのではなく、土台となる基礎をしっかり、その上の部分の個性を尊重したい。

―― 最後に。
　富田　食にこだわるといった本質的な部分を見失わないように極めていく。高位安定的にやっていけば、商品開発も安定するし、50店に拡大、さらには全国展開となって取扱量が増えても回していける。そして、様々な価値を届けるには接客が重要であり、質の高い接客実現には教育が必要になる。そこをしっかりやっていくことが、次への飛躍になる。