「横浜を変える!チャレンジする!」
を掲げる坪倉良和氏
「横浜の魚市場は1931年、つまり昭和6年に開設されている。京都、高知に次いで日本で3番目に古い魚市場なのだ。ちなみに、東京の築地の魚市場は10番目に開設されている。この横浜魚市場の伝統を引き継ぎつつ、斬新な考えで活性化を図りたい」
こう語るのは、横浜中央卸売市場の水産棟に拠点を構える坪倉商店の会長である坪倉良和氏である。坪倉氏は、2代目の社長を長く続けてきた。現在は、横浜魚市場卸協同組合理事の仕事もしている。ちなみに、坪倉氏の子息は坪倉由幸氏であり、お笑いトリオ「我が家」を率いていることで世に知られている。
「8月8日付で横浜市長選挙に立候補した。その最大の理由は、横浜という街のチャレンジ力が失われており、これを再興したいことにある。横浜を変えることは、日本を変えることにつながると信じている。377万人もいる巨大都市になったことはいいが、横浜力とも言うべきパワーは全くと言っていいほど、なくなりつつある」(坪倉氏)
ちなみに筆者は、この坪倉良和氏とは、中高時代の同級生なのである。ともに学んだ学校は聖光学院という。クリスチャンスクールであったが、筆者も坪倉氏も、その校風には全く似合わない生き方をしてきたと思う。
確かに坪倉氏が指摘するとおり、かつて東洋一の港であった横浜は、その活力を失っている。人口は増大するばかりで、税収も毎年のように増えているというのに、なんと3兆円の借金を抱えているという有り様なのだ。坪倉氏は企業経営の考え方を横浜市の行政に取り入れたいとしており、それは全く筆者も賛成なのである。
「現在神奈川区にある魚市場の活性化を狙いに、コンサート、イベント、さらには会食などを含めたフェスティバルを思いつき、開催した。残念ながら、イベントその他を魚市場で行うことについては法規制があり、これは続けることができなかった。ただ、自分の中には、もっと日本人に魚を食べてもらう方法論はいくらでもある、という考えがあり、これを推進することが残された人生のミッションであると考えている」(坪倉氏)
少し前のことであるが、新横浜を日本の半導体産業の拠点とする企画があり、筆者はもちろんこれに賛同した。確かに新横浜には、ローム、富士通をはじめとして半導体デバイスや装置メーカーのブランチがかなり集積していた時期があった。そして、横浜市もこれに協賛するかたちで様々な運動を展開したが、正直言って、この継続性はあまりなかったように思う。
つまりは、思いつきというか、場当たり的というか、市政そのものが起きてきた事項に対応するということに終始している。坪倉良和氏のように、大胆な提案で食のパークづくりをするというようなことを自ら仕掛けていくケースが少ない。
「具体的な自分の提案は、現在の魚市場を山下ふ頭に移して、食のパークを作る、というものである。この山下ふ頭には、統合型リゾート(IR)を誘致するプランが兼ねてより進められているが、自分はこれには反対だ。カジノを誘致するよりも、新たなかたちで街の活性化を図るべきだと思っているからだ。米国におけるフィッシャーマンズ・ワーフ、ファーマーズマーケットをぜひとも実現したい」(坪倉氏)
坪倉氏の構想によれば、この新たにできる食のパークには、中央卸売市場の周辺にマルシェ、食の学校を設けるほかに、他の商業施設も巻き込んで、横浜を世界一の食の発信基地とすることを目指そうというのである。さらに言えば、かつてのゴールデンカップスに代表される横浜の音楽文化を取り入れた街づくりも面白いとしている。
「魚はこんなに美味しいものだということを体験してもらいたい。新鮮な鯵をその場でさばいてフライで揚げる。カツオやマグロをさばくところもすべてお見せして、超新鮮な刺身やお寿司を提供する。湘南しらすの調理方法なども披露する。要するに、魚をはじめとする生鮮三品に関する知識と体験は、この新たなパークに来ればすべてわかるという街づくりをしたいのだ」(坪倉氏)
筆者の実家も蕎麦屋であり、創業100年を超える老舗であるが、横浜という街は実のところ大好きなのである。いつもいつも主張することであるが、この街はそこで生まれ育った人が、まるで観光客気分で街を歩くことができる稀有な空間なのである。それだけに、もっときっちりとした街づくりをしてもらいたい、と切に思っている。坪倉氏の提案する食のパークに隣接して半導体/IT関連のR&Dを集積するという斬新なアイデアだって、十分に検討されてもよいとさえ思っている。
史上最多の8人立候補という市長選に、唯一の無党派で一市民の代表として出た坪倉良和氏は、とても勇気のある人だと思えてならない。ただ、横浜市長選は前回が投票率37.2%という不評ぶりであり、横浜市民がきっちりと政治の方に向き合っていないことを示している。横浜生まれの横浜育ちが、横浜という街の再チャレンジを掲げて戦う姿は、しっかりとこの目に焼き付けておこうと思っている。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。