商業施設新聞
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第285回

(株)グラスプ 代表取締役 笹原大輔氏


60棟の医療ビル、モール運営
「医と食のコラボ」を推進

2021/6/22

(株)グラスプ 代表取締役 笹原大輔氏
 緻密なマーケティングを駆使し、医療ビルや医療モールを開発・運営している(株)グラスプ。これまで主にスーパーマーケット(SM)の隣接地や、商業が集積する郊外ロードサイドなどに開設してきたが、近年は商業施設内に開設する事例も増えている。同社の代表取締役の笹原大輔氏は、「中期的には単独開設ではなく、医療・福祉・介護を軸としたデベロッパー事業に注力したい」と語り、今後3年で30施設を開設する予定だという。同氏に話を聞いた。

―― 会社概要を。
 笹原 2010年2月に会社を設立し、医療ビルや医療モールの開発・運営などを行っている。創業当時は駅前に図らずして医療機関が集積するといった事例はあったものの、戦略的な医療ビルや医療モールの立案は少なく、あまり知られていなかったが、数年前から開業案件が増加し、認知度が高まった。あと数年もすれば、医療ビルや医療モールが健康を支える地域医療の拠点として、エリアごとに検索され、街づくりに必要不可欠なインフラとなる時代を確信しており、当社は文化としてより一般化させるべく、患者ファーストの利便性の高い先進的な施設の開発を継続している。

―― 施設の特徴や開発実績について。
 笹原 当社の施設は、複数の専門医(クリニック)および調剤薬局、共同待合スペース併設カフェレストラン、介護施設などで構成され、専門性の高い医療を患者が受診できるのが特徴だ。また、「医」と「食」の融合をコンセプトに掲げており、SM併設の場合、一例として「免疫力向上をテーマに料理研究家、栄養士、ドクターのコラボレーションによる“料理教室”の開催」など、健康な生活を支える有益な情報を感動体験として施設で提供している。
 加えて、SM顧客と医療モールの患者の層が重なるため、患者が待ち時間にSMで買い物を済ませるなど利便性も高い。現在、IOTを活用したサービス変革を進めており、来院予約やオンライン診療、健康に関する情報発信など、従来のクリニックが個別で行ってきた活動を有機的につなぎ、情報を一元化するプラットフォームを近日リリースする予定だ。
 当社ではこれまで不動産業者やゼネコンなどからの有効活用依頼で開発した事例はなく、医療ビルは自社で競合状況や視認性、地域住民の生活動線、病診連携、その他独自のマーケティングにより立地を選定したうえで、土地所有者を調査し、ダイレクトにアプローチを行う。当社最大の強みである医療ビルのスキーム構築に関する提案・交渉・調整を経て、最終的に1施設あたり2億~3億円を投資して新施設を開発している。マーケットありきで、対象地であればドクターを招聘できるという確信の下、今や関西エリアではトップクラスの実績を誇り、これまでの開発・運営実績は60施設を数える。

―― 各施設の標準仕様は。
 笹原 医療ビルは土地オーナーから建物1棟をマスターリース方式で賃借し、ドクターや調剤薬局などに賃貸するのが基本だ。敷地は駅前立地なら150坪、郊外立地であれば300坪が目安となる。テナント区画数は6区画が標準で、建物の設計・施工・監理・運営管理も自社で行う。
 例えば、20年11月に開業した「池田みどり丘クリニックビル」は1階にプラザ薬局と総合内科、2階に皮膚科と耳鼻咽喉科(21年に開院予定)、3階に整形外科を招聘した。リハビリスペースを要する整形外科や手術室を要する眼科は、1フロア(70~80坪程度)に1テナントとして開院する事例が多い。ちなみに、プラザ薬局は理念を共有する当社の医療ビルの大半に入居いただいているパートナー企業だ。

―― 医療モールは。
 笹原 商業施設では1フロアで医療モールを組成する。出店するSM、家電、アパレル、その他商業店舗と、商・医複合一体型を形成し、医療を通じ、目に見えない利便性や安心感を、地域住民に届ける。規模は最低でも延べ250坪で、過去には「オアシスタウンキセラ川西」(延べ650坪/10区画)の最大規模の事例もあるが、延べ350坪を基準とする。
 当社の医療モールでは、リースライン内の10%程度に共用廊下兼共用待合を設けている。レンタブル比を考えると非効率ではあるが、患者は待ち時間を高い居住性の空間で過ごせ、ドクターはクリニック内の専用待合スペースを小さくし、自由度の高いレイアウトが可能となる。テナント区画数は調剤薬局を含めて6区画が標準だ。商業施設はSMと同様に集客力を有し、認知向上につながるので、今後も積極的に開設していきたい。

―― 今後の開発は。
 笹原 向こう3年間で30施設の開発を計画しており、ここ1~2年で20施設が開設する予定だ。エリアは大阪府を中心に、京都府、兵庫県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県を対象とする。
 阪急沿線の某駅では、SMとコラボレーションを図り、1階にSM、2階に当社の医療モール、3階に駐車場を配置する新施設を計画中で、22年6月の開設を目指す。同地は駅前であるが、4方向接道で抜群の視認性を有する。こうした地域一番立地は今後の競合参入リスクが低く、施設自体がランドマークと成り得るため、積極的に押さえていきたい。
 また、大阪府東大阪市瓜生堂では、モノレールの敷設で既存医療ビルの明け渡しを求められたため、近隣で約1000坪の土地を取得した。この土地に2棟で構成する、日本を代表する医療ビルを建設する予定だ。1棟の規模は3階建て延べ1000m²を想定し、9月に着工し、22年9月の開設を目指す。同ビルには移転する6テナントを含め、新たに5区画を設け、全11テナントを導入する計画で、市立東大阪医療センターと綿密な病診連携も図っていきたい。
 さらに、JR片町線の某駅前では、NSC内に医療モールを開設する予定だ。1階に延べ300坪、2階に同400坪を確保し、全10区画を想定。クリニックの7区画、調剤薬局、メディカルフィットネスに加えて、2階には、ミシュランビブグルマンを獲得している当社の飲食事業子会社が、待ち合い機能を有するヘルスコンシャスなテラスレストランを出店する。同モールは23年4月に開設する予定だ。

―― 将来の抱負を。
 笹原 医療提供は検査や処置など、リアルでしかできないことも多く、コト消費では重要な役割を果たす。今後は20~40代のデジタル世代に対して、医療ビルや医療モールの訴求を進め、これから長いお付き合いができる見込み患者の掘り起こしおよび育成につき、デジタルマーケティング活用によりさらなる認知度向上ならびに優位性の確立を図る方針だ。今後もメディカルデベロッパーとして、街づくりにおける地域医療のランドマーク創造を担っていく。


(聞き手・副編集長 岡田光)
※商業施設新聞2399号(2021年6月15日)(7面)
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