AWL(株)(東京本社=東京都千代田区丸の内3-3-1、Tel.03-6671-7392)は、東京と札幌に本社を構える、北海道大学発のベンチャー企業。施設や店舗の課題解決、価値向上を実現するための、AIカメラソリューションを提供している。エッジAIカメラの開発が激化するなか、商用化・スケール化において先行する同社の技術の強みについて、代表取締役兼CEOを務める北出宗治氏に話を聞いた。
―― 会社設立の経緯を教えてください。
北出 2015年に北海道大学の川村秀憲教授と出会い、AIの産業活用の可能性について衝撃を受け、AWLの前身となるエーアイ・トーキョウ・ラボ(株)を設立した。その中でも、リアルな空間をデータ化したり自動化したりできるAIカメラにポテンシャルを感じ、AWLとして、AIカメラに特化した事業を開始した。
―― どのような戦略で事業を展開しましたか。
北出 ベンチャー企業ならではの強みは、AIカメラを、リアルな店舗や施設と紐づけて提供できることだと考えた。GAFAのような大企業が参入しづらい、地べたをはってカメラを設置・調整するといったローカルなビジネスにこそ、競争力を発揮できると感じている。そこで、北海道のドラッグストアチェーンであるサツドラホールディングスと資本提携し、リアルな店舗で生じる課題のAIによる解決に取り組んだ。
―― 事業内容を詳しく教えてください。
北出 1つは、既設の防犯カメラをAI化するソリューションだ。エッジデバイスである「AWL BOX」を既設のカメラに接続することで、従来録画のみの機能であった防犯カメラをAI化し、人間の目の代わりとして活用することができる。性別・年齢などの来店者の分析や、滞在時間、商品接触状況、顧客の動線などの可視化が可能だ。
2つ目は、「AWL Lite」という、店舗や商業施設に設置するサイネージにAIを搭載した製品だ。人物を検知し、広告の頭出し再生、視聴時間の分析、視聴者の年齢、性別などの分析が可能となっている。インタラクティブな広告を表示することで、広告効果の向上が見込める。マスク着用でも、8割ほどの精度で年齢、性別の識別が可能だ。
―― AIの技術で他社との差別化を図るには。
北出 実験環境でAIによる分析の精度を上げるという点では、あまり他と差がつかない。当社は、環境が全く異なる各現場で、いかに実験室と同等の精度を出せるかが肝だと考えている。店舗や施設が違えば、カメラの型番、反射や背景、角度などのカメラ環境がそれぞれ全く異なる。当社ではそういった各環境における最適化も自動化し、多数展開においても強みをもっている。サツドラのような、200店規模のチェーン店でも全店に導入できるような技術開発を心掛けている。
―― エッジAIならではの強みは。
北出 エッジAIの場合、ローカルでデータの分析を行うため、分析のスピードが速く、低遅延で結果を表示することができる。クラウドには分析結果のテキスト情報のみを送信することになり、通信コストが安く、個人情報の漏洩リスクが少ないことがメリットだ。クラウドAIカメラの場合、個人情報漏洩対策の専用回線などでコストがかさむため、1台の導入に4万円ほどかかる。しかし、当社のエッジAIカメラは、1台あたり3000円という低価格で提供可能となっている。
―― 貴社の製品の特徴は。
北出 まず、マルチカメラであることが挙げられる。エッジデバイス1台に20台のカメラを接続することができ、対応可能なカメラの種類は、世界約9000台にのぼる。また、マルチロケーションに対応するための、個別ケースの自動学習技術も強みだ。各環境にAIを最適化し、実証するのには、人手では数カ月の期間を要する。当社は学習の自動化により、実証期間を5日に短縮することに成功した。また、人の転倒など収集が困難なデータは仮想で生成し、学習精度を向上させている。
―― 共同研究などはされていますか。
北出 20年2月に、凸版印刷(株)と共同ラボを設置した。「AWL BOX」による分析を利用して、店頭顧客の属性に合わせて最適なコンテンツを店頭サイネージから配信する「AI販促」を共同開発し、販促効果の向上を目指している。メーカーやリテールを対象に、PoC導入を推進していく予定だ。
―― 今後の展望をお願いします。
北出 近年、DX化の流れが加速しているなか、次世代防犯システムとして積極的に売り込んでいきたい。施設や工場の立ち上げ段階から導入して頂くことで、当社のソリューションを最大限活用できるカメラの配線などを一緒に設計できれば最適だ。また、各ロケーションのニーズを地道にヒアリングし、防犯カメラが設置されている幅広い施設へ適応できる技術を開発していきたい。
(聞き手・有馬明日香記者)
※商業施設新聞2395号(2021年5月18日)(7面)