電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第51回

山形・蔵王から世界ステージに発信する!!


~ミクロン精密は人と技術を大切にして国内モノづくりに注力~

2013/7/19

 「社長に就任した時は、リーマンショックの影響で最悪の状況であった。しかして、こんなにありがたいことはない、と思った。なぜならば、業績がこれ以上悪くなることはないからだ。後は上がるだけ、と思えば、どんなことでも辛抱できた」
 こう語るのは、センタレスグラインダという製品で、トップシェアを持つグローバルニッチカンパニー、ミクロン精密(株)(山形市蔵王上野578-2)の榊原憲二社長である。

ミクロン精密(株)榊原憲二社長
ミクロン精密(株)榊原憲二社長
 この会社の実質的な創業は1961年であり、一度倒産しているが盛り返し、特殊なオンリーワン技術で上りつめ、何とJASDAQ上場を果たしている。榊原社長は7代目に当たるが、5代目の社長が父親であった。早稲田大学商学部を出てDICに2年9カ月にわたり勤務し、その後、父の経営する会社に入社する。
 「父の会社に入ったものの、ほとんど山形本社にはいなかった。東京営業で2年間を過ごし、1987年6月から2005年3月までの18年間はアメリカで勤務し、子会社の設立を担当し、後半は社長をやっていた。山形に帰って、4年前に社長に就任した。海外生活が長かったが、山形はモノづくりに向いたところであることを本当に実感した」(榊原社長)

 さて、同社が製造するセンタレスグラインダは、いわゆる軸物を切削して作られる自動車部品、建設機械部品、ベアリングなどの精密研磨加工機械である。1000分の1mm、1万分の1mmにこだわり、高い安定性で究極の精度を確保するのだ。低燃費の自動車エンジン、省エネで静かな冷蔵庫やエアコン、高性能な建設機械、高速鉄道の先端部品などに同社の研削盤が大活躍している。

 この分野はいわゆるニッチマーケットであり、世界市場が約500億~600億円とみられるが、国内においては同社がトップシェアを握っている。世界マーケットにおいても10%ぐらいのシェアを持っており、前期の売り上げは約55億円。52%が輸出で国内が48%であるが、今後は海外比率が伸びていくとしている。

 ところで榊原氏は、リーマンショックで会社が一気に沈んだときに社長に就任するが、200人の社員を抱えて1人もリストラしなかったという。もちろん自分も含む役員報酬は真っ先にカットし、週2日間の一時帰休を実行したが、全員で痛みを分かち合うという精神が社内の隅々まで行き渡っていた。
 「待遇が非常に悪くなり、仕事もないのに社員は非常に明るかった。これが何よりも嬉しかった。その後、社業は回復してきたが、1人も辞める人はいなかった。モノづくりを命とする会社にあって、社員が一番大切なのだと思った」(榊原社長)

 同社のセンタレスグラインダは、自動車関連、ベアリング関連、機械関連などに多く用いられている。最後の合わせ込みを含めて、かなりの重要な部分は手作りで行う。それだけに、まじめで手抜きをしない人材がどうしても必要なのだ。山形県民は、我慢強く、無口で、従って情報発信も決してうまくはない。しかし、やるべきことをとにかくひたすら正確にやるところがモノづくりに向いている、という。

 ミクロン精密は8年前にJASDAQに上場したが、無借金経営であるところが高く評価された。ちなみにピークでは社員の持株が50%を超えていた。定着率は高く、株を売る人も少ない。

 榊原社長は、あくまでも日本にこだわり、山形にこだわり、蔵王から世界に発信という思想にこだわる。コストと品質が担保できれば海外に持っていく必要はどこにもない、とも言い切る。ちなみに、半導体をはじめとする日本の電機産業は大苦戦し、海外生産が増えています、と話題を振ってみたら、榊原氏はやや強い口調になって、こう答えた。
 「中国、韓国、台湾、東南アジアのコストが安いことは事実だ。しかし品質、製品の精度、歩留まりの何をとっても日本はすべて勝っている。また、人材においても、日本人がモノづくりにおいて優秀であることは世界の誰もが認めている。もし日本の電機産業が急降下しているとすれば、それは従業員の責任ではない。マーケットの変化についていけない経営陣の責任なのだ」

 要するに榊原氏は、固有の技術と優れた人材が日本の宝物であり、これを持っていれば世界と戦える、と言いたいのだ。ただ、こだわるマーケットの選択には慎重であるべき、ともしている。機械を並べれば誰でも作れるという分野で戦うことが日本人のやるべきことだろうかとも示唆する。

 たしかに、戦後ニッポンの高成長を切り開いた多くのモノづくりの先人たちは、常に世界に一歩先行する技術で勝負していった。ところが今は、誰でも作れる世界で泥沼の戦いをしている。榊原社長は、蔵王の本社から月山を毎日眺めながら、こんなに美しい環境で、こんなにすばらしい人たちとともに、差別化した製品を作り上げることに多くの喜びがあるというのだ。

 「ミクロン精密の技術は小さなものかもしれない。しかし、この技術がなければ新幹線のはやてものぞみも動かない。この地でこの人たちでしか作れないものを作り、蔵王から世界に発信していく技術にさらに磨きをかけていきたい」(榊原社長)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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