(株)村田製作所(京都府長岡京市東神足1-10-1、Tel.075-951-9111)は、スマートフォン(スマホ)市場の活況と自動車市場の回復を背景に、2020年度第3四半期(10~12月)に過去最高の受注高を達成した。通期業績は売上高1兆5700億円(前年度比2%増)、営業利益2900億円(同15%増)と増収増益を計画し、営業利益は過去最高を見込む。今後の市況見通しや取り組みについて、代表取締役社長の中島規巨氏に話を聞いた。
―― 20年度のセット需要が上ぶれている。
中島 20年10月時点の想定より、ずれが生じており、部品取り込みベースのセット需要予測を上方修正した。スマホを前年度比7%減から1%増に、自動車を同15%減から7%減に引き上げた。スマホは実需の増加に加えて、米国政府による中国ファーウェイへの制裁強化をきっかけに米中韓の競合メーカーからの部品取り込み需要が強まり、相当数量の引き合いが来ている。過熱感は20年内に落ち着くと予想していたが、21年に入っても継続している。20年11月のピークと比べて21年1~2月は落ち込むが、それでも実需を上回る数量だとみている。3月以降はその反動が出て、4~6月期の業績に影響を受けるだろう。ただ、部品の市中在庫が過剰に蓄積されている状況ではないので、反動減はそう長続きしないと予想している。
―― 自動車は半導体不足が懸念されているが、電子部品への影響は。
中島 半導体は納期が長くなっているため、足元で供給が追い付かずに自動車生産に影響が出ている。ただし、市場回復傾向は続いており、影響は長期化しないと予想している。電子部品需要にも影響は出ておらず、21年度には19年度水準の生産台数に回復するものとみている。
―― 21年の見通しは。
中島 スマホは市場が成熟化し、台数ベースでは踊り場となるだろう。一方、5G市場が拡大し、5G対応スマホは5億台程度になると想定している。20年にリモート需要で成長したPCやタブレットは、21年には落ち着きそうだ。自動車生産台数は19年並みに回復するが、電動化や安全機能の搭載はさらに加速するだろう。これらの市況を踏まえ、当社としてはゼロ~5%の成長を目指したい。
―― 5G市場拡大に向けた対応は。
中島 21年は中国以外でも5Gの普及が本格化し、「5G元年」となるだろう。ミリ波の拡大が想定され、当社は樹脂多層基板「メトロサーク」のアンテナ一体型モジュールを提案している。曲げられるというメトロサークの特徴により、カバーエリアを増やせるため、モジュール個数を削減できるメリットがある。ハイエンドスマホで採用される見込みで、好評が得られれば22年以降も継続的に搭載されていくだろう。ミリ波5Gに必須の部品としての地位を獲得できるか、試金石となる。
―― RFフィルターの戦略は。
中島 5Gの拡大に伴い、スマホ用のフィルターはセットメーカーとともにマッチングを行う、すり合わせが重要なスタイルのビジネスになっている。そのため国内エンジニアによるサポートが不可欠だが、直近ではコロナ禍による渡航規制でコミットが難しく、苦戦している。オンラインによるサポートを強化するなど、対応を図っている。
一方、22年後半からは5GHz近くの高難易度の新周波数帯が使われるようになる見通しだ。この帯域は既存のフィルターではカバーできず、新たな技術が必要になる。当社は独自技術のI・H・P・SAWと米レゾナントと独占契約を結んで導入したXBARを組み合わせ、製品化することで他社と差別化していく。
―― 通信基地局向けの対応を。
中島 先行する中国メーカーに続き、欧州のエリクソンやノキア、日系メーカー製が今後拡大してくると予想される。米中摩擦の影響で、中国勢とそれ以外では二極化が進んでいくと見込まれるため、それぞれの仕様に対応した部品を展開していく。
―― 積層セラミックコンデンサー(MLCC)の戦略は。
中島 スマホ向けは小型大容量化、自動車向けは高信頼化のトレンドが続いており、継続的に対応していく。スマホは21~22年にモジュール用途として0201サイズの数量が増加する見込みで、自動車は電動化進展で高電圧対応ニーズが強まっている。
―― 高水準の需要が続くが、どう対応していくか。
中島 20年度は能力負荷ベースで5~10%の増強を計画し、21年度も同水準を継続する予定だ。MLCCは自動車用では内部電極形成や積層などの前工程、スマホ用ではチップ加工などの後工程の負荷が高く、両方の能力を増やさなければならない。このため、設備増設だけでなくスマートファクトリー化による効率向上に取り組んでいる。具体的には個々の装置の稼働率を最大化するために、従来は人手を介していた工程間搬送をAGVなどで自動化している。また、予防保全システムや稼働率の可視化を進め、トータルでの効率向上を目指している。さらに工場内ネットワークにLPWAを利用し、実績を蓄積している。今後はローカル5Gを導入し、さらなるスマート化を図っていく。
―― 電池事業はパワーツール向けの需要が伸びている。
中島 スマホ向けからのシフトを戦略的に進めてきたが、電動工具やクリーナーなどの市場が拡大して引き合いが増加してきた。ハイパワーを強みとする、当社の電池が評価されている。21年度の黒字化目標を掲げて固定費削減も進めているが、パワーツール向けの需要増加に対応した投資も必要になる。それらのバランスを見据えて黒字化を目指すことになるだろう。
―― 全固体電池の製品化に向けた状況は。
中島 詳細はお話しできないが、ウエアラブルをターゲットに採用に向けた評価が着実に進んでいる。全固体電池は自動車用に硫化物系が先行しているが、毒性などの問題がある。当社の酸化物系は安全性に優れており、小さいものから実績を積むことでこちらを極めていきたいと考えている。用途はモバイル機器のリチウムイオン電池(LiB)の置き換えが期待されるが、自動車用でも緊急時にメーン電池を補助する役割としての利用が期待できる。
―― 設備投資計画は。
中島 20年度は2000億円程度の投資を計画しており、21~22年度も同水準になると想定している。それ以前は3000億円程度の投資を続けてきたが、建物などのインフラも含んでいた。インフラ投資は落ち着いたため、当面は製造設備への投資が主体となる。MLCCを中心に、高周波部品やインダクターなど5G、クルマの電動化で需要が高まる部品を増強する。
―― 中期的な事業戦略を。
中島 21年度までの中期構想目標のうち、営業利益率17%以上はカバーできるとみている。対して、ROIC(投下資本利益率)はやや厳しい。投資は計画どおり進捗している。
また、既存のコンポーネント、システムに加えてソリューションを事業分野に加える「ポートフォリオ経営」を掲げてきたが、その実現がある程度見えてきた。工場の予防保全、作業者モニタリング、オフィスなどにおける「雰囲気の定量化」など、センシング技術を活用したソリューションの実績が積み上がってきている。22~24年度を期間とする次の中期構想では、具体的な枠組みや目標を設定して事業として本格的に拡大させたい。
(聞き手・中村剛記者)
(本紙2021年2月18日号1面 掲載)