英ウェールズと日本の経済交流は今年で50年を迎えた。現在、70を超える日本企業がウェールズに進出しており、ウェールズ政府は2025年を「Year of Wales and Japan」キャンペーン年に設定して、大阪・関西万博への参加をはじめ、経済協力にとどまらず、日本各地で様々な文化活動やスポーツ活動も展開していく計画だ。さらに深い経済交流を進めるため来日したウェールズ政府 経済・エネルギー・計画担当大臣のレベッカ・エヴァンズ氏に話を聞いた。
―― ウェールズが50年以上にわたって日本からの投資を惹きつけている要因は何だとお考えですか。
エヴァンズ ウェールズはビジネスを展開するのに安定した場所です。大学、企業、政府の緊密なコラボレーションによるエコシステムが形成されており、政府が定めた戦略的重点分野にスキルの高い人材が集積しています。加えて、ウェールズ国会は15年に「未来世代のためのウェルビーイング法」を可決し、すべての政策に関して、未来世代を考慮した意思決定の義務を法制化した初の国になりました。このようにサステナブルな地域であることが、日本と素晴らしい関係を継続できている理由だと思います。
―― 産業セクターとして再生可能エネルギー、宇宙開発、化合物半導体などに注力していますね。
エヴァンズ そのとおりです。Beyond Manufacturing、つまり大量生産型ではない高付加価値な次世代のモノづくりの実現に重きを置いており、産業クラスターの形成を進めています。
化合物半導体は、市場規模こそシリコンには及びませんが、スピードや消費電力ではるかに高い特性を有しており、次世代のセンサーやLiDARには欠かせません。ウェールズには、スマートフォンなどの位置情報に関連する半導体の開発企業などがあり、常に最先端の技術開発に取り組んでいます。
先ごろ、EDAツール大手の米ケイデンスデザインシステムズがウェールズのCSAカタパルトと合弁会社を設立し、半導体設計センターを開設することが決まりました。これにウェールズ政府は250万ポンドの資金支援を行い、英国全土の半導体企業に設計サービスを提供し、欧州や米国の半導体プロジェクトと連携する機会の拡大に貢献します。
―― 再生可能エネルギー分野では、丸紅がウェールズでグリーン水素プロジェクトを進めていますね。
エヴァンズ 水素エネルギーや浮体式洋上風力をはじめとするGXは、ウェールズ政府が取り組む重要政策の1つであり、今後も日本企業とコラボレーションする数多くの機会があると期待しています。
加えて、近年成長が著しいのがクリエイティブ分野です。ソニーは1974年にウェールズにトリニトロンカラーテレビの製造拠点を開設し、現在も放送・業務用カメラの製造やRaspberry Piの受託製造を行っていますが、17年には映像制作子会社のBADWOLFがウェールズに新たな映画・テレビスタジオを開設しました。
さらに、NETFLIXは、ウェールズで撮影された映像作品が20年以降、英国経済に2億ポンド以上の貢献をもたらしたと報告しています。こうした映像分野で注目を集めているのは、ウェールズにある素晴らしい自然や風景がもたらしたものであることは言うまでもないでしょう。
―― こうした投資・再投資の場所として選ばれた理由とは。
エヴァンズ 皆様からお聞きする意見として、技術を持つ人材へのアクセスが良いこと、人々が温かく、地域でのリレーションが強いことを高く評価していただいています。これからもウェールズを第2の故郷だと感じていただきたいですね。
―― 11月にはウェールズで国際インベスターサミットを開催する予定ですね。
エヴァンズ 世界中からウェールズへの投資をお考えの企業だけでなく、すでにウェールズで成功している企業にとっても、改めてウェールズが擁する多様なビジネスチャンスを知っていただく良い機会になると思います。日系ウェールズ進出企業にもぜひご参加をいただきたいと思います。長年にわたって築き上げられた信頼関係をもとに、我々の強みや培ってきた経験をこれからも数多くの日本企業と共有していきたいです。ウェールズへの訪問を我々は心から歓迎します。
(聞き手・特別編集委員 津村明宏)
本紙2025年5月8日号1面 掲載