UR柏豊四季台団地内 サービス付き高齢者向け住宅を説明する小早川氏
(株)学研ココファンホールディングスの代表取締役社長 小早川仁氏による、(株)日本計画研究所主催セミナーの講演「『サ付き住宅』事業検討担当者の為の新規参入のポイントと“落とし穴”対策」の2回目のリポートは、学研が提案するココファンシリーズのビジネスモデル、効果的な営業手法、これからの高齢者向け住宅、事業計画などについて伝える。
小早川氏は、サ高住の専業企業のほか、様々な業界から参入が相次いでいるが、いずれサービスの悪い施設は淘汰され、本物の施設が残るとしたうえで、「学研が提案する介護と住まいの新しい形 サービス付き高齢者向け住宅『ココファンシリーズ』」について説明した。自立型タイプの事例にココファン湘南(神奈川県藤沢市)、介護型タイプとしてココファン尾崎台(千葉県野田市)を挙げた。ココファン湘南では内科と歯科のクリニック、介護事業所(デイサービス、訪問介護、居宅介護支援)を併設しており、神奈川県知事認可第1号となった終身建物賃貸借物件である。ココファン尾崎台は、内科の小張尾崎台クリニック、介護事業所(訪問介護、居宅介護支援)を備え、千葉県知事認可第1号の終身建物賃貸借物件。
居室は、自立型1人居室が30~35m²、自立型夫婦用居室が50~55m²、介護型1人居室が18~21m²。
■医療・介護24時間対応や食事提供が人気
ココファンの自立型では、25%が食事サービスを利用、介護型では90%以上が利用する。自立型は満室になるのが早いが、その要因として、何かあった時に医療、介護が24時間対応で受けられる、食事もオーダーできるといった点が魅力になっているのではと分析している。
緊急通報装置は、様々なタイプ、価格のものがあるが、ココファンでは居室内5カ所に設置するオリジナル製品を採用しており、1棟50戸に設置した場合、ココファンのオリジナル製品と、最も安い製品との差額は200万円にもなる。しかし、緊急通報装置の通報のうち95%は誤通報か緊急性の低いものが占めており、会話機能がついていない安い装置の場合では、スタッフが確認に出向く必要があり、結局、人件費のほうが高くつくこととなる。
リズムセンサー、水道センサーなどから10時間にわたり反応がなければ事務所に自動通知され、スタッフが声をかけて返事が無い場合に合鍵で居室内へ入り確認するが、こうしたデジタル機器のほか、郵便受けの郵便物、声掛けなどを組み合わせて、なおかつ、学研ココファンのアンケート調査3位のプライバシーへの配慮と4位の24時間365日の安心(24時間の生活支援体制)という、相反する要求に応えている。
自立型も介護型も、入居者の多くを80~83歳の年齢層が占め、自立型は要介護度0.5~1.5の範囲に収まり、介護型は2.8ぐらいで推移。介護度が上がって特養ホームへ転居したり、あるいは逝去したりで、3.0を超えることはない。また、夫婦の場合、一方が自立ないし低い要支援度、一方が要介護3といったケースも見られるという。
■開設8カ月で損益分岐点の入居率8割クリア
介護型では、開設後8カ月で入居率80%をおおむねクリアし、全居室数の80%にあたる家賃がオーナー収入となり、それを超えた家賃収入部分は学研の収入となる。介護型50室(介護度2.5)の場合、80%にあたる40室×家賃5万の計200万円がオーナーに渡る。40室の80%にあたる32室が介護サービス12万円を受けた場合、介護サービス料は計384万円が見込める。食事は40室の90%が利用すれば36室で、1日3食(計1500円)なら経費は十分まかなえる。併設するクリニックの家賃の80%もオーナーの収入となるが、医療部門は一般の診療所として営業を続けながら入居者に対応し、このほか介護(訪問、居宅)部門まで、それぞれが独立して成立することが安定経営につながると強調した。
■ココファンの市場調査の考え方
学研ココファンでは、高齢者向け住宅および施設導入調査にあたり、「計画地周辺エリア」「計画地沿線エリア」を中心にヒアリング(訪問または電話による聞き取り調査)を実施する。市場調査の目的は、サ高住を実際に開設する前に、競合となる施設、事業所の調査(競合分析)、他の施設、事業所の運営状況を調査して計画の方向性を検討(コンセプト立案)、行政の考え方を事前に確認しておく(行政リスクの回避)ことを挙げた。続いて、ヒアリング対象ごとに「設定価格の予測」「入居の予測」を算出。ヒアリングの詳細は1カ所の調査につき、1枚の報告書式(カルテ形式)とし、訪問先、定量調査(数値に関わる聞き取り)、定性調査(数字以外の聞き取り)の形式を用いる。ヒアリングに基づき、コンセプトおよび収支に落とし込んで調査が完了する。
価格設定の考え方として、市場調査結果から、ケアマネジャー(CM)が「○○万円までであれば、入居する人がいる」と推測した金額の平均を「CM推奨価格」(介護保険の自己負担分を含む)と呼ぶ。CMは職業柄、自己の利用者の中で、最弱者層の人を基準に判断する傾向があるため、その金額よりは上乗せした金額を価格とするが、上乗せの度合いと期待入居者の確保に要する月数(CM推奨価格の120%までなら6カ月、130%なら12カ月、150%程度なら24カ月など)は、スタッフの確保などを鑑みながら設定する。
市場調査と価格設定の一方、開設に向けてのCMや病院その他の紹介、販促・広告活動など、長年の実績と科学的な方法で効率的な入居者募集をかける。介護型ではCMと病院の紹介が各25%、その他紹介と販促・広告がそれぞれ20%、その他の目安で、自立型ではCM20%、病院10%、その他紹介と販促・広告が各30%、その他の構成。また、1人あたりの入居コストは10万円未満。
ココファンでは、半径3kmから80%、同一市区町村の入居者90%確保が目標である。
サ高住の事業化のポイントとして、(1)コンセプト・ターゲット設定、(2)ビジネスモデル設定、(3)マーケティング(価格・併設サービス設定)、(4)設計・施工、(5)人材採用・教育訓練、(6)営業活動が重要となる。例えば建物では、エレベーターから居室までの距離が10m縮むだけで人件費を削減できるなど、仕様をきっちり詰めることがあらゆるコスト削減につながると強調した。
■複合化と低価格タイプを開発中
これからの高齢者向け住宅は、価格競争および付加価値競争が激化すると見ている。横浜市の事業者に選定された物件では、サービス付き高齢者向け住宅、子育て支援賃貸住宅、介護事業所、クリニック、交流スペース、保育園・学童、学習塾、コンビニの複合施設を計画。UR柏豊四季台団地内サービス付き高齢者向け住宅は、従来のおおむね16万円モデルに対して、13万円に設定する。このほか、地方では新たに12万円モデルを投入する予定で、将来に備え、さらに安い、安心価格の物件の開発も進める。
柏豊四季台では、1階に小規模多機能、24時間訪問介護、居宅介護、24時間訪問看護、在宅療養支援診療所、主治医診療所、薬局、地域包括支援センター、地域交流スペース、子育て支援施設などを配置し、その上の複数階にグループホームとサ高住の介護棟、さらにその上の複数階にサ高住の自立棟を配置し、地域包括ケアの拠点となる施設を描いている。また、他業種連携では、ファミリーレストランのデニーズと連携して、デニーズ建て替えと併せてサ高住の併設を進める。
ココファンの高齢者住宅は77拠点(うち30拠点はユーミーケア)、2500戸から3000戸を運営しており、自社物件は5棟ほどであるが、今後、2~3棟をREITに供する。また、常に1割ぐらいの自社物件を保有する考えである。
ココファンでは、首都圏を中心に施設運営を展開してきたが、小早川氏は「大阪で夏、四国で冬の開設を目指し、また九州でも仕込みを進めており、全国展開していく」と方針を説明。「もしサービス付き高齢者向け住宅のオーナーを考えるなら、ココファンを検討し、相談して欲しい」とアピールするとともに、一般財団法人サービス付き高齢者向け住宅協会副会長の立場から、「高齢者住宅、介護ビジネス業界の活性化と、健全なマーケットを実現したい」と抱負を述べた。
(この稿終わり)