(株)日本計画研究所主催の特別研究セミナーで、「『サ付き住宅』事業検討担当者の為の新規参入のポイントと“落とし穴”対策」と題して、(株)学研ココファンホールディングスの代表取締役社長 小早川仁氏の講演が行われた。講演の様子を2回にわたってリポートする。
小早川氏は、冒頭、(株)学研ホールディングスを中核とする学研グループの事業を紹介した。学研グループは1946年創業の学習研究社が発祥で、現在の学研ホールディングスは資本金183億円、年商820億円(単独)、従業員1200人の東証1部上場企業である。小早川氏は、学研ココファンホールディングスのほか傘下の(株)学研ココファン・ナーサリー(幼稚園、保育園、こども園など子育て支援事業の企画・開発・運営)、(株)学研ココファン(高齢者住宅の企画・開発・運営、介護事業所の運営、ココファンキッチン、コンサルティング)、(株)学研ココファンスタッフ(グループ人事機能、幼稚園・保育園および介護事業所への人材派遣事業)と、買収した(株)ユーミーケア(湘南地区における高齢者住宅・介護施設の企画・開発・運営、施設数約30)の代表取締役社長を務める。
小早川氏は、「学研ココファンホールディングスは国内最大の高齢者住宅の運営企業であり、学習教材、教育を中心とする出版社というこれまでの『学研』ブランドのイメージを、今後5年間ほどの期間と投資をかけて、新しいものに変えていく」というグループの方針を示した。
■サービス付き高齢者向け住宅が急増中
小早川氏は、高齢化の急速な進展、高齢者単身・夫婦世帯の急増、諸外国と比べた高齢者住宅の不足を背景に、高齢者住まい法の改正に向け、学研グループも制度創設に尽力し、また、当時の前原国土交通相、長妻厚生労働相による医療介護連携型高齢者住宅の必要性と今後の整備目標(10年で60万戸)の記者会見が学研本社で行われたことや、サービス付き高齢者向け住宅制度の創設に至る経緯を紹介した。
サービス付き高齢者向け住宅(サ付き住宅)は、建設や改修に対して補助金(2012年度予算355億円、13年度概算要求額355億円)、税制面での優遇、住宅金融支援機構からの融資という3点の施策を組み合わせて、供給促進を図っている。サ付き住宅のオーナーに対するコンペでは、学研の住宅運営の考え方は最も評価が高いものの、競合他社と比べ利回りが1~2%ほど低いためコンペに負けることもある。しかし、これはエンドユーザー(入居者)の負担を減らすべく、家賃やサービスの対価を抑えているためであり、新たな優遇措置により、1.8%ほどの利回り向上が見込まれるため、追い風になると期待している。サ付き住宅は、制度発足1年ほどの12年9月末に登録戸数が7万戸、13年2月末に10万戸を超えた。当初は、従来の賃貸住宅を改修してサ付き住宅に衣替えしたものも多かったが、最近は新規物件が急増している。
■サービス付き高齢者向け住宅の課題
国、民間企業、有識者による高齢者住まい法の改正に向けた検討の中で、サ付き住宅で提供するサービスについて、小早川氏は「高齢者の終の住処には、居住のほか医療、介護、上記以外のサービスとして24時間の安否確認や生活相談、食事提供、清掃/洗濯などすべて提供することが必要」と主張したものの、最終的に居住および9時~17時の安否確認/生活相談だけで「サ付き住宅」として登録が可能となってしまったため、このサービスだけでは、オーナーにとっては今後、リスクを伴う可能性があると指摘した。
また、小早川氏は「サ付き住宅供給による高齢者の集住、他市区町村からの移住により、介護保険サービス需要が高まり、保険給付を行うその市区町村には財政負担が増えることを懸念する声があり、また、サ付き住宅を制限する自治体がある。これに対しては、サ付き住宅ができることでスタッフなどの雇用が創出され、また、入居者の住民税などの税収も入る。サ付き住宅は特定施設と比べ介護保険料は65%ほどであり、積極的に整備を促す自治体もある」と、最近の状況を解説した。
■適正戸数50~60戸、サービスをパッケージ化
ココファン、メッセージ、ベネッセ、シルバーライフ、康明会の高齢者向け住宅の開発スキームは、ココファン、メッセージ、ベネッセは適正戸数が50~60戸とある程度のボリュームを持ち、併せて食事やサービスなどをパッケージ化して提供している。5法人ともにサブリースが主体で、ココファン、メッセージ、ベネッセは住宅を自社所有するケースもある。
少子高齢社会のマーケットを見ると、1980年に未就学児童数1042万人を65歳以上高齢者人口の1064万人が初めて上回り、90年代半ばには未就学児童数を75歳以上高齢者人口が超えた。さらに、未就学児童数を要介護者人口が近く上回るか、すでに上回っている可能性がある状況である。高齢者住宅が本当に必要となる75歳以上の人口は、団塊世代の高齢化に伴い、2025年に2166万人に達すると見込まれ、高齢者住宅が不足する現状のまま推移すれば孤独死、独居死が増える可能性がある。
学研では、09年10月に終の住処に関する意識調査を行い、3539人(平均年齢68.3歳)の有効回答を得た。その結果、1位は(自宅以外では)住み慣れた地域に住み続けたい、2位は医療・介護、そして経済面の安心(近くに欲しいものは交番よりもクリニック)、3位はプライバシーへの配慮、4位は24時間365日の安心(24時間の生活支援体制)、5位が食事の提供(必要な時に注文できる)となり、建物構造やエレベータの有無、段差の有無など建物に関する要望は下位を占め、「ハード」よりも「ソフト」、「住まい」よりも「住まい方」を重視する姿勢が鮮明となった。
高齢者向け住宅の現状は、30万円以上の月額生活費を負担できる層には、一時金平均が4000万円の有料老人ホームが存在し、10万円未満の層はシルバーハウジング(公営住宅)や養護老人ホーム、介護度が高まれば特養ホームや老人保健施設が用意されているが、15万~16万円を中心とする10万~30万円の層の受け皿となる住宅が絶対的に不足しており、国は高齢者住まい法改正によりこのゾーンをターゲットに、10年間で60万戸の高齢者向け住宅、サ付き住宅を整備すべく誘導している。
(この稿続く)