大きな商業施設をいくつも回っていると、どれもショップの構成が似通っていて、既視感を覚えることがある。しかし、それもある程度まではやむをえないことだと理解している。世の中には無数のお店があるように思えるけれども、その中でも十分な信用力を持ち、なおかつ話題性のある元気なお店は、実は言うほど多くないのだそうだ。ある開発会社では、他の商業施設との違いを出すため地元の人気店にも多く声をかけたが、「休みが取れない」「人手が足りない」「技術が伝承されていない」といった理由でずいぶん断られたと言っていた。大型の商業ビルは年中無休が一般的である。
ところで、“よく見るお店”とは言っても、それはあくまでショッピングモールでの話。仕事を終えてホームに戻ると、どうも調子が狂う。拙宅の所在は、東京都江戸川区である。この地は、商業施設の不毛地帯と言って差し支えない。
公園立地をうまく活かした
「スターバックス コーヒー 上野恩賜公園店」
一番分かりやすい例で言えば、2012年11月1日現在、全国に約900店、東京都内に約260店を展開するスターバックスコーヒーが、この区にはただの1軒もない。ある時、弊紙の報道を見てたまげた。私も知っている福岡県の大濠公園内に、スタバが出店したという。その後も、太宰府天満宮や東京・上野恩賜公園、佐賀県の図書館(予定)……と、思いもよらない立地に店舗網を広げているスタバだが、あいかわらず江戸川区とは縁がない。
この区もこれで、東京23区では5番目に多い人口約68万人が住み、面積では4番目の広さがある。私も、この地で生まれ育ったわけではないのだが、公園、病院、高速PAなどに次々と先を越されてしまうのを見るといくらか不憫に感じてしまう。
だが、こうした事象は何もスタバに限った話ではない。特に大型商業施設に関しては、周辺エリアとの差が歴然としている。生活的な実感としてわかってはいたが、この期に改めてデータを比べてみるとその違いがよくわかった。SCの数は、江東区が14施設なのに対し、江戸川区は半分の7施設。しかも、江戸川区のSCには前出の小岩ポポ、ダイエーなど、店舗面積1万m²に満たない商業施設を4施設含んでいる。2万m²台は1施設、3万m²以上は1施設もない。
一方の江東区。こちらにはこれでもかと“タレント”が転がっている。もちろん2つの区の立地条件の違いは承知しているが、店舗面積6万2000m²の「ららぽーと豊洲」を筆頭に、3万m²台は「SUNAMO」「アリオ北砂」など4施設、1~2万m²は実に6施設という豪華な顔ぶれだ。業界内でも評価の高い亀戸のサンストリート(1万9829m²)もあれば、1万m²以下であっても「アトレ」の名が見える。
また区北部には、JR駅が平井、新小岩、小岩と3つもあるのに、駅周辺の猥雑さゆえか、駅ビルらしい駅ビルがないのも、この区の特徴だ。小岩ポポはあるものの、隣の江東区・亀戸駅にアトレがあるのに比べると、やはり見劣りする。
西端を荒川、東端を江戸川という2つの一級河川に挟まれたこの江戸川区。ここには、白河の関ならぬ、商業施設の進出を阻む“荒川の関”があるのではないかと思っている。