南東北グループ (医)社団 三成会 新百合ヶ丘総合病院(川崎市麻生区古沢都古255、Tel.044-322-9991)は、6万1394m²の敷地で既存棟(RC造り地下2階地上5階建て延べ3万3162m²、377床)を2012年8月に開院、そこから8年を経た20年4月には新棟(RC造り地下1階地上5階建て延べ1万5399m²、186床)が完成。同年8月から脳卒中ケアユニット(SCU、9床)が稼働したことで、新棟全体としてフル操業を始めた。院長の笹沼仁一氏に、新棟の機能や特徴について聞いた。
―― 新棟が完成した。
笹沼 約2年をかけて整備した新棟が完成し、1階(救急)、2階(外来)、3階は4月から、4~5階および地下1階は5月から使用できる状態へと段階的に開業した。6月には玄関周辺の工事が完成し、8月1日からは脳卒中ケアユニットが稼働を始め、新棟の全面運用が始まった。新棟は一般病棟45床に加え、回復期リハビリテーション病棟100床、救急専用病棟20床、川崎北部医療圏で初となる緩和ケア病棟21床の合計186床で構成されている。病院全体では、既存病棟の一般病床377床と合わせて563床へと大幅増床した。燃料備蓄も増強し、72時間の自家発電を可能にしたことで、災害時にも拠点病院として機能する体制を整備した。当初開業式典を6月下旬に予定していたのだが、新型コロナウイルス感染症の拡大を考慮して、式典開催の取り止めを4月に判断せざるを得なかった。
―― 救急機能を大幅に拡充した。
笹沼 救急センターは、12年の開院当初からあったが、救急病床がなかったため、救急患者さんにはICUや一般病棟へ入院していただいていた。そこで新棟では、救急センターを既存棟から移設して新たに整備し、合わせて救急病棟(20床)を一体的に整えた。MRI、CT、IVR(画像下治療)、内視鏡室も同じ1階に設け、救急検査も同一フロアで連携してできるようにした。これによって、救急処置・検査に加え、入院までの一連の流れが同一のフロアで完結できるようになった。当病院では、年間6000~7000台の救急車を受け入れている。
私の専門は脳外科だが、例えば脳卒中の救急患者が運ばれてきた際に、詰まった血管を再開通させる血栓回収療法が必要になるのだが、その治療はIVR装置を使って同じフロアで行える機能を備えている。
―― 新棟の詳しい階層構成について。
笹沼 1階にER(救急救命室)型救急センターや外傷センターを備え、屋上にはヘリポートを設置して救急にかかわる治療を1フロアで完結できる体制を整えた。地下1階には手術室を増設し、2階では外来診療を行っている。3階は回復期リハビリテーション病棟、4階は緩和ケア病棟および一般病棟とし、5階と3階にはリハビリテーション室を開設した。5階のリハビリテーション室内には、日常生活動作(トイレや入浴動作、調理動作など)の訓練が可能なスペースを設置している。すべては患者さんのために、高度急性期病院として今後も地域の医療に貢献していく。
―― 緩和ケア病棟は、川崎北部医療圏では初の機能だ。
笹沼 川崎北部医療圏には、一般病院が少なく、そのため、川崎市北部医療圏で救急、小児、産科を備えた一般総合病院の公募があり、南東北グループが2012年に当病院を開設した経緯がある。平成時代は病床数過剰によって、日本全体で新しい病院の設立が難しくなったため(医療再編による公立病院の統合新設はあったが)、そのような時期に誕生した当病院は、民間病院として日本全体でみても稀有な施設と言える。また、この地域には今まで緩和ケア病棟がなく、神奈川県下において唯一の空白地域であったため、今回新棟の設立に合わせて緩和ケア病棟を初めて当病院が開設した。
―― 既存棟と新棟の接続で工夫を凝らした。
笹沼 既存棟と新棟はL字型に接続されているのが特徴で、接合部には両棟を密接に繋げる「コネクトホール」を設置した。同ホールは、病院全体の中心に位置し、エントランスホールとして待合機能や売店・カフェを配置し、アメニティ性豊かな空間を醸し出し、患者、見舞客などに既存・新棟への動線を提供する。医療従事者向けには、各階ごとに渡り廊下で新棟と既存棟を接続している。
(聞き手・笹倉聖一記者)
(この稿続く)