商業施設新聞
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第243回

(株)浜倉的商店製作所 代表 浜倉好宣氏


大衆酒場を蘇らせ、次の世代へ
料理人、生産者、流しも後世に

2020/8/18

(株)浜倉的商店製作所 代表 浜倉好宣氏
―― もともとはどういう経緯で酒場の展開を始めたのですか。
 浜倉 2004年に独立する前に勤めていた会社では、デザイナーを起用しておしゃれな店の開発などをしていた。ただ、きれいな店を作っても自分で行くのは大衆的な酒場。そうした酒場もお客さんや店主の高齢化が進み、若い世代が入りづらく衰退していた。しかし昔はもっと若い人も通っていて賑やかだったはず。酒場はお祭りのように老若男女が世代を超えて集まる場で、コミュニティの場でもある。こうした大衆の酒場をなくしてはならない。いいものを蘇らせようと、次の世代につなげていこうと大衆の酒場を作るようになった。

―― 直営の横丁や飲食街としているのは何かこだわりがあるのですか。
 浜倉 集合体を文化にするためには日々、マーケットニーズに対して一体となってブラッシュアップしなければならない。店舗をテナントとして誘致すると、テナントがいつの間にかM&Aされたりして統制が取れない。それなら我々が一括で借りて、独立意欲がある人や、信頼できる人に店の運営を委託し、チャンスや舞台を与えていきたい。

―― 有楽町近くの銀座コリドー街には洋風の店もありますね。
 浜倉 有楽町の店がすごく賑わうようになったので、近くに同じコンセプト、食材を使いつつ、店舗デザインを洋風にした「RIB HOUSE&OCEAN HOUSE」を出店した。24時間営業で年中無休だが、出店した当時、銀座コリドー街周辺の店は閉店が早く、仕事の帰りや飲み帰りの方が、我々の店に足を運んでいただけて非常に賑わった。他の店も我々の店が賑わうのを見て、深夜まで営業するようになり、その結果、街が明るくなっていった。
 銀座コリドー街は面白い場所。若い人は銀座の高級店はなかなか行けないが、銀座コリドー街は安心して楽しめるエリア。銀座の入り口みたいな場所かもしれない。銀座に行った人は新橋駅か有楽町駅を使って帰る人も多く、銀座コリドー街はこうした駅に向かう途中にあるので立ち寄れる。周辺には丸の内、新橋や汐留といったオフィス街があって、大企業も多い。こうした街から流れてくる人も多く、色々な街や人をつないでいる。銀座に次世代をつなげる場のきっかけになればと思っている。

―― 今後も恵比寿や有楽町のような再生案件は増えそうでしょうか。
 浜倉 ありがたいことにお話しはいただく。すべてを請け負うことはできないが、いい場所があればやっていきたい。色々な場所でお話をいただくが、それぞれの街は時代によって姿が変わっていく。今度出店する渋谷もそう。一昔前ならMIYASHITA PARKがあるエリアは我々のような居酒屋が出店しようとしても、若い人が多くて難しかったのではないか。だが再開発が進んで、渋谷も大人に変わりつつある。渋谷横丁は若い人にも来てほしい一方で、渋谷には大人が行く場所が少なく、渋谷からはみ出されるようになっているかもしれない。渋谷横丁はこうした大人を含めて色々な人が集まる溜まり場にしたい。

―― 若い人にとっては渋谷横丁が酒場へ行くステップになりそうです。
大衆酒場としての場所や文化を次の世代につないでいく
 浜倉 渋谷はいい個店が多く、のんべえ横丁もあっていい酒場文化がある。のんべえ横丁でも若い人が訪れるようになり、世代交代が進んでいる。やっぱり世代交代を進めないといけない。恵比寿横丁では若い世代も入りやすい空気感を創っている。それは放っておくと酒場文化が衰退してしまうから。何か手を打って後世に残したい。

―― 後世に残すことを重視しているのですね。
 浜倉 酒場という場所を残すだけでなく、料理人や生産者も次の世代に残さないといけない。最近はチェーン店化が進んで料理の修業がなくなりつつあり、本当の意味での料理人は減っている。しかも海外の方が料理人の地位も給料も高いのでどんどん流出している。日本の食が評価されている今、若い人に日本の食の良さを知ってもらい、育てていかないと。産地の生産者さんもそうで、後継者不足に悩んでいる。産地の食を楽しめる有楽町産直横丁などは自分たちが作ったものを、お客さんが笑顔で食べるところを見てモチベーションが上がると言われる。こういう場を生かして次の世代に残したい。
 流しも同じ。次の世代に残さないとなくなってしまう。恵比寿横丁に来てもらっていた流しの方が成功し、組合を作るまでになった。それによって若い流しの方が増え、我々の他の店にも来てもらえるようになった。我々の店を若手の舞台としてどんどん使ってほしい。
 我々のやりたいことは、当たり前だけど、なくなったら困るものを残すこと。例えば旅行に行っておいしいもの食べるのも良いが、毎日は旅行できない。やっぱり肩肘張らずにありのままの自分でいられる。そういう場が大衆酒場。こういう場所や文化を次の世代につないでいきたい。


(聞き手・編集長 松本顕介/副編集長 高橋直也)
※商業施設新聞2355号(2020年7月28日)(8面)
 浜倉的商店製作所と大衆文化 No.4

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