商業施設新聞
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No.380

“ファミレス化”する居酒屋


永松 茂和

2012/9/18

街には低価格居酒屋の看板が目立つ
街には低価格居酒屋の看板が目立つ
 外食業界ほど、変化の激しい業界はない。1年前に華々しくオープンしたが、すでになくなっている店も数多い。市場の右肩下がりが続く業界の中では、仕方のないことなのかもしれない。
 先日、外食業界の統計資料を整理してみると、市場は最盛期には30兆円に迫る勢いであったが、年々縮小し続け、今では20兆円を少し上回る水準にまで落ち込んでいる。中でも、居酒屋市場の落ち込みはひどく、2兆円近くあったものが1兆円を下回る水準にまで半減している。居酒屋ほど世相を反映する業界はないのかもしれない。

 店内に入るとタバコの煙が充満していた従来の居酒屋によくあった光景は、今では少なくなっている。景気が良くなれば、それに見合うように少し高級な居酒屋が流行り、個室感覚を謳い文句に1人あたりの支払額も平気で4000~5000円になる時代もあった。当然、BGMも演歌ではなく、ジャズやイージーリスニングといったシャレた音楽が店内を流れる。
 ところが、景気が悪くなり出すと居酒屋各社は安売りを前面に押し出す傾向が強くなり、一品または一皿200円、300円の低価格を売りにした“ワンプライスショップ”が隆盛を迎えた。様々なコストを削り、絞り出した価格ではあるが、これにより競争は一層激しくなり、個人経営の居酒屋は淘汰される店が増えて、自らの首を絞める状況となったのは周知の事実だろう。

新業態を展開する企業も増えてきた
新業態を展開する企業も増えてきた
 昨年の東日本大震災は、これに追い打ちをかける状況となった。計画停電により、営業ができなかったことや今後どうなるか分からない先行き不安から、一杯飲んで帰るのを控えるという状況が訪れたからだ。賑わいが薄れた繁華街の夜が暗いのは、酒を飲みたいと思わせない雰囲気をより醸し出してしまうのかもしれない。
 現在は東日本大震災から1年半が経過したが、居酒屋の低迷は依然として続いているものの、一時期よりは落ち着いた感がある。

 よく行く居酒屋があるが、少し前から子供や赤ちゃんを連れた家族連れが目立つようになってきた。中には、学生服を着た中・高校生の姿もある。これは、家族連れが行きやすいようにデザートメニューや飲食メニューの充実を図り、売り上げに結び付けようという企業努力が垣間見られる。
 一方、訪れる客も数多くのメニューを食べられるため、居酒屋の意識はあまりなく、ファミリーレストランの感覚になっているのかもしれない。居酒屋というカテゴリーでの拡大が見込めないとすれば、“ファミレス化”するのは当然の成り行きであり、今後もこの傾向が強くなることだろう。いずれ、未成年者同士で訪れる「居酒屋」が誕生するのかもしれない。
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