関西文化学術研究都市センター(株)は、奈良県と京都府の境にある近鉄京都線高の原駅を最寄り駅とする「平城・相楽ニュータウン」を中心に、商業施設など13施設の運営や開発を行っている。昨年は「高の原テラス」をオープンし、ニュータウンのさらなる魅力度向上を図る一方で、まもなく50周年を迎えるニュータウンの将来像を示すことも求められている。同社代表取締役社長の稲垣満宏氏に話を聞いた。
―― ここ数年の主な施設の動向から。
稲垣 当社は平城・相楽ニュータウンの各団地に囲まれるように商業施設などを構えている。その中心にあるのがスーパーマーケットを核に40店余りのテナントを展開している「サンタウンプラザ すずらん館」だ。団地に住むシニア層やファミリー層を中心とした地域密着型の施設となっており、19年12月に実施したアンケートでも施設から10分以内の場所から来られるお客様が6割を占め、足元商圏をしっかりと取り込めている。最近の傾向としては、平城・相楽ニュータウンの人口減少や高齢化の影響なのか、わずかだが売り上げが減少傾向にある。
一方で最寄りの高の原駅前にある「サンタウンプラザ こすもす館」は、イオンモールに一棟貸しし、テナント数120~130店の「イオンモール高の原」が出店している。こちらは鉄道や自動車で来られるファミリー層を中心に広域から集客しており、売り上げにおいても、「すずらん館」とのすみ分けがしっかりできている。
―― 16年に「サンタウンプラザ すずらん南館」もオープンしました。
稲垣 1~2階にメディカルモール、3~4階に学習塾など教育系のテナントを設けた4階建ての施設で、16年にオープンした。すずらん館にも医療モールはあるが、南館には当社の他の施設にはない皮膚科などが開業し、また、教育系でも特色のある塾や教室が開講した。いろいろな分野でニーズが多様化・細分化しているため、数が多いということが必ずしも競合になるわけではなく、むしろ集積効果を生むことになる。医療、学習という視点では、この沿線でも有数の集積エリアだと自負している。
―― 19年にオープンした「高の原テラス」について。
稲垣 高の原駅から当社の施設が集積するエリアに、テラス席を設けたエリアのシンボルとなるような高感度な飲食店を導入したいと思い、(株)カームデザインが展開する飲食店「Goodspoon」に出店してもらった。客層としてはターゲットに想定した女性のお客様を取り込めているとともに、結婚式の二次会や学生たちによるパーティーなども行われており、このエリアでは今まで対応できなかった若者層のニーズも満たせるようになってきている。
売り上げ面などで当社の他施設との相乗効果は見られないが、街の景観としても駐車場しかなかった場所にこういった施設が新たにできたことで、街の印象が変わりつつあると感じている。
―― 平城・相楽ニュータウンは街びらきから約50年ですね。
稲垣 2年後の22年に50年を迎える。やはりここまでくるとニュータウンの人口も減り始めており、今後も持続発展していくための将来像を示す必要がある。そのため、当社では20年度から行政やUR都市機構とともに、将来像を話し合う検討会を始めていく。
―― アイデアはありますか。
稲垣 高の原駅周辺の公共施設の新たな活用方法を検討している。例えば、公共施設に収益施設を組み合わせ、付加価値を高められないかと思っている。
加えて、こすもす館北側の隣接地でイオンモールが進めている増築計画にも期待している。14年に土地が取得され、商業機能をはじめとした集客施設を建設する予定とのことで、事業化に向けては少し遅れているようだが、当社としても広域的な集客力の強化につながるため、積極的に協力していきたい。
―― 開業から約40年を迎える「すずらん館」の建て替えについてはどうですか。
稲垣 老朽化してきている部分もあるが、地域に親しまれた建物であり、少なくとも現時点で建て替えの計画はない。むしろ、ライフスタイルの変化に応じたテナントリーシングを進め、奈良市・木津川市・精華町という行政の垣根を超えた情報やサービスを受けられるなど、地域に密着した利便性の高い施設づくりを進めていく。
―― 高の原エリア以外での開発はどうでしょうか。
稲垣 当社の賃料売り上げの95%は高の原エリアの施設で占めている一方、他の学研都市エリアでは様々な商業施設の立地が進んできており、当社の役割も小さくなってきている。当社としては、まずは平城・相楽ニュータウンに集積して施設を持っているという強みを活かして効率的に経営資源を集中し、どうすればこのエリアで賑わいを創出できるのかということをベースに今後も事業展開を図っていきたい。
(聞き手・北田啓貴記者)
※商業施設新聞2344号(2020年5月12日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.333