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第351回

ソリッド・パワー CEO ダグラス・キャンベル氏


LiBを超える全固体電池開発
工場完成し年産10MWh体制へ

2019/11/29

ソリッド・パワー CEO ダグラス・キャンベル氏
 既存のリチウムイオン電池(LiB)を代替する次世代蓄電池の実用化がスタートしている。その急先鋒がコロラド大学ボルダー校発ベンチャーのソリッド・パワー(米コロラド州ルイスビル、日本代表事務所=東京都港区西新橋)だ。BMW、フォード、ヒュンダイ、サムスン電子といったメーカーらが出資し、性能やコストに見合った次世代電動自動車用の全固体電池の開発を進めている。8月には最初の工場が完成し、一部製造を開始した。CEOのダグラス・キャンベル(Douglas Campbell)氏に話を聞いた。

―― 貴社の背景から。
 キャンベル 2012年に私とコロラド大学ボルダー校の教授2人らで共同設立した。私はCNT(カーボンナノチューブ)やイオン液体といった先端材料を使った蓄電池技術を開発しており、Materials Research Society(材料研究協会)を通じて2人を紹介されたのがきっかけだった。出資企業はBMWやフォードといった自動車メーカーをはじめ、ボルタ・エナジー・テクノロジーズ、現代クレードル、サムスンベンチャー投資、三桜工業、A123システムズなどで、資本金は約2500万ドルだ。

―― 全固体電池技術について。
 キャンベル 正極材にNMC622(ニッケル6割:マンガン2割:コバルト2割)、負極材にリチウム金属、固体電解質に硫化物系材料をそれぞれ採用している。集電体には正極側にアルミ、負極側にリチウム金属を使っている。これらを2層組み合わせて1セルとし、4セルで2Ah品を構成している。タイプとしてはパウチ型が中心だ。
 現プロトタイプのエネルギー密度は重量で320Wh/kg、体積で660Wh/Lで、高性能LiBを上回る。一方で、性能のさらなる向上は製造の最適化を通じて追求している。具体的には重量・体積の順に、20年に360Wh/kg、700Wh/L、21年に400Wh/kg、900Wh/L、22年に435Wh/kg、950Wh/Lを目指している。また、この目標に向けてNMC811(ニッケル8割:マンガン1割:コバルト1割)正極材や、硫黄含有正極材といった新規材料も検討中だ。

―― 生産体制について。
生産ラインの様子
生産ラインの様子
 キャンベル 19年8月に米コロラド州デンバーに試作ラインを完成させた。ロール・ツー・ロールによる高効率、低コスト生産が特徴で、量産ラインにも容易にスケールアップできる。生産能力を最終的に年産10MWhとする計画で、現状1MWhが稼働中だ。今後、材料の生産量を高めて生産能力を増強していく。

―― セル製造プロセスは。
 キャンベル 固体電解質を製造・供給する部分を除いてLiBとほぼ同様となる。具体的には、正極材は正極活物質、溶液、バインダー(接着剤)などを混合してスラリー化し、正極側集電体上に塗布・乾燥させる。固体電解質も同様に粉体電解質、溶液、バインダーを混合・乾燥させる。そして、負極側集電体上にフィルム化したリチウム金属と、正極材および固体電解質を当社が開発した独自プロセスで積層させる。また、セルを複数枚積層することでモジュール化する。

―― 低コスト化と安全性について。
 キャンベル いずれも負極材のリチウム金属がカギとなる。リチウム金属はレアメタルであるため、低コスト化の足かせとなる。現在、35μm厚の自立型リチウム箔を使用しているが、非常に少量で生産されるため比較的高価だ。これを解消するため、開発パートナーと協力して生産規模を拡大する計画を策定中だ。自動車パートナーと市場の需要を確立し、コストを大幅に削減していく。
 安全性においてはリチウム金属による発火事故が懸念されるが、それを解決する研究を進めており、すでに十分な成果も得ている。例えば、10Vの過電圧をかける過電圧試験を実施したところ、熱暴走や、大幅に曲がるといった形状変化はほとんど見られなかった。注目すべき点は、温度が9℃上昇し、わずかにガスの発生が観察されただけである。これはLiBでは間違いなく熱暴走し、発火に至るものだ。
 我々の研究ではNMC正極材が限界を迎える90~100℃まで安定性を保つことが分かっており、当社の全固体電池は急速充電などの高温環境の車載で最適といえる。当社とパートナーはパック冷却を排除する可能性があると考えている。これに対し、LiBは50℃を超えると電解液の発火リスクが高まり電池の寿命も低下するため、車載では冷却機構が必須となる。

―― 用途は。
 キャンベル 電気自動車(EV)をはじめとした車載が中心だ。先述のように生産能力は年産10MWhだが、将来的には車載向けに要求される1GWhクラスにスケールアップすることも視野に入っている。車載以外では軍事、医療、それに衛星システムを含む航空関連などを検討している。

(聞き手・東哲也記者)
(本紙2019年11月28日号8面 掲載)

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