野村不動産ホテルズ(株)は2018年11月、東京・上野に「NOHGA HOTEL UENO(ノーガホテル上野)」を開業した。居心地の良い空間に加え、地域の事業者と積極的にイベントやワークショップを提供するハイグレードライフスタイル型ホテルだ。目指す姿はノーガホテルそのものが旅の目的になること。代表取締役社長の青木秀友氏に運営動向や今後の方針を聞いた。
―― ノーガホテルについて。
青木 野村不動産グループが自ら開発し、直営で運営するホテルブランドだ。日本のホテルは基本的に夜、寝るための施設で、多くの時間は外で過ごす。我々が目指すのはホテル自体が旅の目的になること。そのため居心地の良い客室に加え、ロビーラウンジには開放的な吹き抜けを作った。2階には屋外に面したテラスや屋内ラウンジを設けており、過ごしたくなるホテルとした。
―― 周辺はコンテンツや魅力が多い地域です。
青木 上野は本当に面白いエリアで、この地域の魅力を活用し、独自の体験を提供することに注力している。スタッフが日ごろからガイドブックにはないディープな情報を収集、提供するほか、周辺の事業者とコラボレーションして利き酒など様々なイベント・ワークショップを行っている。
利用動向を見ると、ホテル内のイベントに参加したり、半日ラウンジで過ごす方もいる。7連泊以上するなど長期滞在する方も多く、居心地の良さ、滞在する楽しさを創出できていると感じる。
―― 野村不動産は住宅ブランド「プラウド」を展開しています。ホテルにつながるノウハウは。
青木 上質な空間づくりにはプラウドのノウハウが活かされている。ただ一番のプラウドらしさは、その地でできることを徹底的に追求したこと。野村不動産全体にも通ずるが、我々は「過去の周辺マーケットがこうだからこういう施設にしよう」にとどまらず、「応えられていないニーズは何か?」「それに応えるにはどうするか?」と考える。上野はもともと1万円前後のビジネスホテルが大半だったが、我々はもっと良い施設やサービスを求める層もいると考えた。結果、ノーガホテルの客室単価は2万円超、エリアナンバー1の数値で推移している。
―― 1階のレストランでは地元住民の利用も目立ちます。
青木 これもマーケットの状況に左右されず、何を提供できるか考え抜いた結果。周辺は上質な食事を提供する店が多いとはいえない。しかし多少高い料金を払ってでも上質な食事、空間を楽しみたいというニーズに応えるために本格的な食事やデザートを提供する直営レストランを導入した。お陰様で平日、休日ともに多くのお客様にご利用いただいている。ヘビーユーズする方もおり、非常に良い雰囲気の店になってきている。
―― 全般的に運営状況は良さそうですね。
青木 稼働率は80%程度が、サービスとのバランスとして良い数字だと感じる。ビジネスホテルは、90%超えの施設も珍しくはないが、稼働率だけを追い求めるのでなく、2万円払ってでも泊まりたいと思えるサービス、体験が提供できるホテルでありたい。インバウンド率は85%と高いが、ノーガホテル独自の体験やコンテンツを求めて泊まっていただいている。このような独自の価値を提供することにこだわり続けるのが野村不動産グループのホテルの特徴の1つで、そのためには直営である必要を感じる。
―― 1月にM&AによりUHMがグループ入りしました。
青木 「庭のホテル 東京」などを運営する(株)UHMがグループに加わった。庭のホテル東京では都心ながら広い庭とお客様が憩えるスペースを随所に備えた大変居心地の良い施設を運営する。不動産効率だけ考えれば庭は造らず、建屋を作ることもできたが、庭のホテル東京ではお客様に上質な空間と時間を提供することを追求している。ノーガホテルの哲学と親和性が高かった。そのこだわりがお客様からも高く評価され、独自のポジションを築いている。ホテル事業を始めたばかりの我々としてはパーフェクトな先駆者をグループに迎えることができ、今後の相乗効果が期待できる。
―― ノーガホテルは出店計画が複数あります。
青木 20年7月に東京・秋葉原、22年3月に京都市でオープンする予定だ。秋葉原でも地域の魅力やコンテンツをホテルで発信する予定。来年の開業に向けて地域を歩き回り、お客様に感動を提供するコンテンツを開発していく。
秋葉原は上野とは違った雰囲気の施設になるが、その地で提供できることを徹底的に追求する姿勢は変わらない。我々はホテルにクラスを設けていない。1件1件できることは徹底的にやるのでクラスを分ける必要はない。秋葉原や京都でも「さすがはノーガホテル」と言われるサービス、施設を提供したい。
(聞き手・副編集長 高橋直也)
※商業施設新聞2303号(2019年7月16日)(7面)
インバウンド4000万人時代 ホテル最前線 キーパーソンに聞く No.49