訪日観光客(インバウンド)は2011年以降毎年増加を続け、18年に3000万人を超えた。さらに20年には東京五輪の開催が控えるなど、ホテル業界を取り巻く環境は目まぐるしく変化している。そして堅調な国内需要の下支えもあり、依然、稼働は高い水準で推移していくことが予想される。一方、17年以降新規供給が増加しており、19年から20年にかけてはその最終段階に入り、マーケットの動向も変わってくる。また、そのような中、ホテルとしての商品差別化を図るという意味において、徐々に交流・体験といったキーワードを持つホテルの割合も増えてくる。こうしたホテル業界について、不動産総合サービス業のシービーアールイー(株) CBRE Hotels ディレクター土屋潔氏に聞いた。
―― 18年のマーケットを稼働の面から振り返って。
土屋 稼働という意味では、どの主要都市も稼働率は高かった。マーケットによってADR(平均客室単価)で調整が入ったところ、逆に、堅調に伸ばしているところもあり、都市によって差が出てきているのが18年だった。
―― 特に好調だったエリアは。
土屋 東京と沖縄が好調だった。個人的に東京が良かったのは意外で、新規供給も多い中、よく伸びているという印象だ。沖縄は国内レジャーが堅調なことに加え、インバウンドの伸長も寄与した。なお、沖縄は那覇に限らずリゾートエリアが好調だった。このほか、都市別に見ると、札幌と京都が横ばい、名古屋と大阪が横ばいからややマイナス、福岡が微増となった。大阪は台風の影響が大きかったと思う。
大阪で言えば、クラスごとにも違う。ラグジュアリーは好調だったが、新規供給の多い宿泊主体型では価格調整が入った。インバウンドを中心に、大阪の宿泊需要は依然として伸びている一方、新規供給も増えている状況で、決して悪くなっているわけではない。京都も新規供給が多いが、それでも横ばいを維持しており、この2都市に関しては、横ばいでもポジティブに捉えて良いだろう。
―― 民泊新法が18年6月に施行された影響は。
土屋 Airbnbが厳格に規制したこともあって、(Airbnbの)登録件数は激減し、大阪は登録件数が約半分になった。ただその後、少し増える動きがあり、これから徐々に増えていくだろう。減り方は東京のほうが大きく、約3分の1になった。トータルで見ると、民泊新法の施行前後で登録件数は半分以下になってしまった。180日という制限のある中で、登録数がどう推移していくか、今後注目すべきところだ。
―― 19年の稼働、開発についての展望は。
土屋 稼働は引き続き堅調だと思う。エリアに限らず、どの都市も高い稼働率をキープしていくだろう。それは、大部分を占めるのが宿泊主体型ホテルだということを考えると、その運営は多くが国内のオペレーターであり、彼らは稼働を非常に重要視するからだ。また、マーケットの需給の動向、強さによって単価はある程度伸びたり、調整されたりといったことはあり得る。開発も引き続き、東京、京都、大阪で計画が多い。加えて、福岡も計画数が増えている。
―― 宿泊主体型中心の開発から変化は。
土屋 前提として、絶対量ではやはり宿泊主体型が数は多い。ただし今後、フルサービスホテルの割合が少し多くなる可能性がある。これは、当社への問い合わせや相談の件数から感じるところだ。また、相談としては大型ホテルやアッパーグレードの開発の話が多くなっている。これまでは、こじんまりしたビジネスホテルタイプが圧倒的だったが、例えビジネスホテルだったとしても、多少大型のものの相談が増加していると感じる。
―― フルサービス開発のエリアは。
土屋 東京、大阪がメーンとなり、あとは各主要都市の好立地なところ。そして、これまではデベロッパーが比較的小規模な土地を取得し、ビジネスホテルを建てて売るというケースが多かったが、最近は土地を購入ということもあるが、元々土地を所有しているデベロッパーや事業会社が大きな開発を計画している。
また、それは必ずしもホテル単体とは限らず、商業やオフィスなどを含む複合開発の話が割合として増えている気がする。
―― 注目しているホテル業界のトピックスは。
土屋 「ライフスタイル」というのはすでに言われているが、要は単純に泊まるだけでなく、交流・体験といったタイプのホテルが増えてくるだろう。元々、ライフスタイル型ホテルの源流となったブティックホテルなどはそういう機能があった。
そして、この交流・体験などの機能がよりフォーカスされる。例えば、インバウンドが多く入ってきたことによって、都市自体が観光地になった。東京、京都、大阪、福岡、札幌などは国内の人たちにとって観光スポットであるが、多くの人が観光目的であるインバウンドが増えたことで、こうした都市はより観光性が高くなり、(ホテルは)観光する人たちにアピールするような商品にどんどんシフトしている。宿泊するだけでなく、そこに来て、人々と交流したり、体験したりとか、そういう場になっていくことがさらに加速していくと思う。
―― 今後のホテル業界の懸念材料は。
土屋 社会全体に言えることだが、やはり「人手不足」が一番大きい。一方、言語対応などは翻訳のシステムや外国人スタッフの配置などで対応が進んでいる。先日、9割以上がインバウンドだというホテルを見学に行ったのだが、フロントには欧米人や中国人などの外国人を配置している。そういう意味でも言語対応は進歩している。
―― 20年以降について。
土屋 カジノなどの統合型リゾート(IR)や、25年の大阪万博はポジティブな影響はある。だが、万博はワンショットなので、終了してしまえば需要の大きなものは少なくなる。逆にIRはワンショットではないので、こちらのほうが大きなニーズが見込めると想定される。
(聞き手・若山智令記者)
※商業施設新聞2293号(2019年5月7日)(7面)
インバウンド4000万人時代 ホテル最前線 キーパーソンに聞く No.41