小田急電鉄(株)の子会社、小田急箱根ホールディングス(株)は、小田急グループの主要事業エリアである箱根において、箱根登山鉄道、箱根登山バス、箱根観光船、箱根ロープウェイなど、グループが一体となった事業運営を進める。今後も新型海賊船やロープウェイ、ホテルの新設など大型投資を実施し、エリアの魅力を高め集客を図る。取締役で営業統括部長の室橋正和氏に聞いた。
―― 箱根を訪れる観光客数は。
室橋 1991年がピークで2247万人に達した。以降、バブル崩壊などで落ち、2000年前後に1900万人を下回った。もう一度魅力を高めるべく、交通機関への設備投資などを実施した。ロマンスカーはバブル時代は輸送人員を増やす狙いで展望車のない車両を導入したが、やはり展望車のイメージが強く、白いロマンスカーVSEで展望車を復活させた。昨年春からは新型の赤いロマンスカーGSEを走らせるなどの施策で回復し、17年が2152万人で、近年では最も多かった。同年の宿泊者が459万3000人。「訪問2000万人・宿泊500万人」が箱根のパターンだ。
―― 小田急グループの取り組みは。
室橋 基本は交通事業を主に展開する。18年3月のダイヤ改正で、新宿~箱根湯本駅間を最速73分で結んだ。また域内に8つの乗り物を展開しており、これらを乗り継いで回遊する「箱根ゴールデンコース」をPRしている。車で来るお客様には、海賊船スタイルの観光船とロープウェイを組み合わせた観光をおすすめしている。ゴールデンコースの乗り物が乗り放題になる箱根フリーパスは、01年の発売枚数が50万枚だったが、大湧谷噴火直前の14年で87万枚まで伸びた。17年度は過去最高の95万枚、18年度も前年並みの見通しだ。
―― 課題は。
室橋 箱根は美術館や温泉など目的性が強い一方で、食のイメージが弱かったので、エリアのホテルやレストランが共同でテーマに沿ったスイーツをつくりプロモーションする「箱根スイーツコレクション」を08年から開始し、開催数は23回を数える。
また草津や熱海は夜の街が賑やかだが、箱根は夜の楽しみが少ない。日帰りできるし、宿泊客はホテル内で楽しんでしまう。滞在時の楽しみやお帰りの時間の分散化を含めて、ナイトエコノミーを強化していく考えで、2月から箱根強羅公園で夜間ライトアップイベントを開催している。今後も夜の観光コンテンツを強化していきたい。
―― 訪日客の対応は。
室橋 その取り組みは早く、新宿に外国人専用の窓口を設けたのが99年で、鉄道事業者の中ではかなり早い。営業面では、国際旅行博出展や海外ブランチの設置による販路強化、受け入れ施策では、従業員教育や箱根を周遊するバスの記号化も早い段階から行っている。箱根を訪れる外国人は、訪日客数の伸びを上回る伸長率だ。
―― 小田急箱根HDでは18~20年度で100億円を投じます。
室橋 これまでも投資してきたが、もう一段加速する。4月に水戸岡鋭治氏デザインによる新型海賊船や箱根ロープウェイの新型ゴンドラを導入する。サービス面でも多言語化やバスロケの導入などに取り組む。
また、箱根を訪れて、周辺の御殿場アウトレットに足を延ばす人も多い。小田急グループは新宿~御殿場間に特急ロマンスカー「ふじさん」を運行しているが、19年冬にホテルと温浴施設を新設する。御殿場と箱根は広域のリゾートエリアとして一体的に捉え、ホテルや温浴で魅力を高め、箱根と御殿場の回遊客を増やしていく。
―― 周辺エリアとの回遊もカギですね。
室橋 そのとおりだ。三島エリアでも15年に大吊橋「スカイウォーク」が開業し、昨年はジップラインを有するアウトドアパークもできて、魅力が高まった。今後はそこを目的に訪れる人が増えてくることから、御殿場口、三島口も活用していくことで、箱根は混雑する時期があることから、来街者の流動を分散させる。入出口を増やし、回遊ルートを増やしたり、夜のイベントを通じて、夜遅くまで滞在できる仕掛けをつくると、夕食を召し上がるお客様も増える。地域経済の活性化にもつながる。
―― 将来の箱根のイメージは。
室橋 地域としては箱根町と箱根町観光協会が箱根DMOを設立し、将来の箱根の観光ビジョンをつくっている。大きく数字を伸ばすというよりは、現状維持プラスアルファ。その分、域内消費を増やす意味での夜の観光や宿泊誘導が重要となるので、連携していく。
時代としてデジタル化が進む中で、観光や温泉は圧倒的なリアル感がある。それを訪れた方に体験していただく。自然に触れたり、自然に戻るなど、かけがえのない経験が得られる。そのために箱根エリアのハード・ソフトを磨き、箱根の魅力を高めたい。
(聞き手・編集長 松本顕介)
※商業施設新聞2291号(2019年4月16日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.294