旧富士銀行の銀行店舗の管理運営からスタートしたヒューリック(株)(東京都中央区日本橋大伝馬町7-3、Tel.03-5623-8100)は、東京23区を中心とした駅至近の好立地にオフィスビル、商業施設を展開し、拡大を続けている。今後は少子高齢化などに対応し、ホテル事業などの観光ビジネス、高齢者・健康ビジネス、環境ビジネスを軸とする3K事業に注力し、事業領域の拡大を進めていく方針だ。事業拡大を図るホテル事業の展開について常務執行役員の高橋則孝氏に伺った。
―― ホテル事業参入の経緯と特徴などは。
昨年12月にオープンしたザ・ゲートホテル東京 by HULIC
高橋 2012年に、浅草で自社ブランドの「ザ・ゲートホテル雷門by HULIC」を開業したのがきっかけだ。当時はホテル事業を大がかりに始める考えはなく、その土地が雷門直近でホテル用途が最適との理由でスタートした。その後、14年に専門の観光ビジネス開発部を立ち上げ、本格的に事業を開始した。全社的な事業戦略として成長が見込める高齢者・健康、観光、環境の3K分野に取り組んでおり、ホテル投資は観光部門の中で重要な位置づけにある。ポートフォリオ戦略として、やらないこととやることを明確に決めており、東京・駅近、中規模オフィス、建て替え・中小規模開発、高齢者向け施設、観光ホテル・旅館に注力する反面、地方オフィス、Sクラスオフィス、大規模開発、マンション分譲、海外投資は基本的に行わないなど、事業の選択と集中が他社との大きな差別化とも言える。
―― ホテル事業の取り組みについて。
高橋 自社運営のゲートホテル、高級温泉旅館のふふシリーズ、グランドニッコー東京台場(884室)、東京ベイ舞浜ホテル(428室)など11ホテルへの投資、浅草ビューホテルなどを展開する日本ビューホテルへの出資の4つの事業戦略を推進している。これを顧客タイプで高級志向、個人旅行客、団体、ビジネス客、ホテルタイプでラグジュアリーからバジェットまで、顧客セグメントを明確に分けてターゲットを絞った展開を行っている。
―― 自社運営のゲートホテルの展開は。
高橋 ゲートホテルは、雷門に続き、昨年12月、銀座・有楽町エリアにゲートホテル東京を客室数164室でオープンした。インティメイト(親しみやすい)なホテルをコンセプトに、街の魅力と一体化し、外気が感じられる個人のためのホテルにこだわった。平均客室面積は32m²とゆったりとしており、好スタートを切ることができた。ゲートホテルは、アップスケールからラグジュアリーの間で、土地や文化に特徴がある立地に出店し、顧客セグメントとして団体客ではなく個人客をターゲットにしている。顧客満足度を追求するため、朝食にはこだわっており、雷門の朝食は、楽天の朝食フェスティバルで17年にエッグベネディクト、昨年にはフレンチトーストなど3年連続で東京で1位を獲得している。
ゲートホテルは、開発、運営を自社で行い、100%連結経営で収益に直結するため注力するのは当然であり、今後も150~200室前後の規模で積極展開を進める考えだ。現時点で(仮称)ゲートホテル立誠京都(京都市、187室)、(仮称)ゲートホテル両国(東京都墨田区、126室)をそれぞれ20年春から夏にかけて開業する。その後、札幌駅前のヒューリック札幌ビルの再開発、福岡市の天神のヒューリック福岡ビルの再開発、大阪、横浜、広島など観光都市への出店を進め、23~24年には10ホテル体制とする方針だ。
―― 高級旅館の「ふふシリーズ」を積極展開されますね。
高橋 18年7月に高級旅館の運営を行うカトープレジャーグループとの合弁会社であるKHリゾートマネジメントを連結子会社化し、新会社のヒューリックふふ(株)を設立したことで、これまで以上にふふシリーズの積極展開を進める方針だ。ふふシリーズは、東京から2時間以内で行ける観光地に、最高級のこだわりとサービスを追求した日本でトップレベルの高級旅館を目指している。現在、箱根・翠松園、熱海ふふ、ATAMI海峰楼、ふふ河口湖の4件を運営しているが、ふふ日光(24室、20年春開業)、ふふ奈良(30室、20年春開業)、ふふ京都(41室、20年秋開業)、ふふ強羅(40室、21年秋開業)などの開発計画を進めており、早期に東京近辺での10件体制を目指す。
―― 今後のホテル市場をどう見ていますか。
高橋 東京オリンピック後に若干落ち込むかもしれないが、減速することはないと見ている。訪日外国人観光客数は20年には目標の4000万人をクリアし、その後も着実に増え、需要を下支えするのではないか。ホテルタイプもアッパースケール、ラグジュアリーの中小型ホテルについては根強い需要があると見ている。実際、高級旅館のふふはリーマンショックの時にも稼働率は下がらなかった。
―― 今後の展開は。
高橋 ゲートホテルは観光都市中心に23~24年にかけて10件、高級旅館のふふシリーズは早期に10件、ホテル投資は現在の11件からインバウンド集客が見込め、観光需要が期待できるエリアを対象に20件体制まで持っていきたい。また、出資を行っている日本ビューホテルについては、我々の不動産ビジネスのノウハウとビューホテルのノウハウをミックスさせ、今後は共同開発を検討中だ。いずれにしても顧客セグメントに沿ったホテル開発は重要であり、お客様の声が届く施設規模で、ホテル開発を着実に進めていく方針だ。
(聞き手・副編集長 永松茂和)
※商業施設新聞2283号(2019年2月19日)(7面)
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