静鉄プロパティマネジメント(株)(静岡市葵区鷹匠1-14-5、Tel.054-266-7014)は、静鉄グループの不動産管理運営会社で、新静岡駅にある商業施設「新静岡セノバ」を運営している。3期にわたって実施した開業以来初となる大型リニューアルを3月に果たし、再スタートした新生セノバの事業戦略を、代表取締役社長の川井敏行氏に聞いた。
―― 第3期リニューアルを3月21日に果たした。
川井 新規出店19店、移転・改装(増床含む)1店が新たに加わった。2017年11月の第1期から始まったリニューアル全体を通じては、新規出店34店、移転・改装(増床含)23店となった。
“静岡発ショップの発掘・育成”を目指すインキュベーション事業「起業のつばさプロジェクト」の3店も開業した。ナチュラ ピック&ミックス(オーガニック食品・コスメ)、チーズピゲ(スイーツ)、ラーメン専門店にしかわがこのプロジェクトを活用し、今後静岡の魅力となり、全国へ、世界へと羽ばたくことが目標である。
―― リニューアル後の集客や効果はどうか。
川井 3月のグランドオープンから2カ月が経過した5月末の段階で、館全体の売り上げは、前年対比で108.9%、既存店売上は104.9%、新店は、同区画対比で161.4%、客数は104%、客単価は111.6%となった。数値の伸びは想定通りで、今後はこの成長を持続させるために、緊張感を持って取り組む。毎日3万3000人の来館があり、土日は1万人上乗せの4万3000人のお客様が訪れている。
―― 好調な数値を維持するための方策は。
川井 1万5000人いるウエブ会員「マイセノバ」とのつながりを強く継続することが重要と考えている。ダイレクトメールやSNSで常に最新の買い物情報をお届けし、何度も店舗に来ていただく。セノバとしても努力するが、セノバで従事する店長をはじめスタッフの人達にも重要なお客様とのつながりを大事にしてもらい、繰り返して来店していただく関係を強化する。
そのために、今年度は、各店に向けた販売や売り上げなどの報告書類などの作成時間は極力省いてもらい、その分の時間を接客に優先的に使うことで、お客様第一主義を徹底してもらえるような仕組みづくりを当社としては考えている。
―― 3月のリニューアルでは、店舗の入れ替えに加えて、フロア構成も変更した。
川井 1階と2階は、高感度ファッションを中心に客単価アップを図り、3~4階は、カジュアルファッションを中心に、幅広い客層に支持される企業様にご出店いただいた。特に1階と2階の間で、顧客の買い回り(回遊性)の動線強化を狙った。このフロア構成を形成するために、既存店で移転していただいた企業様もあり、ご理解いただき感謝している。
―― 狙いは的中したか。
川井 静鉄グループ全体で利用できるルルカカードでの分析によると、1階と2階の客単価が上がったのに加えて、3階から4階の客単価も上がり、相乗効果として館全体が活性化した。全体の70%以上が女性客だが、今回のリニューアルでメンズファッションを扱うお店にも入っていただいたので男性客も増えている。
―― 館全体の業態区分はどんな状況か。
川井 衣料品・身の回り品が49%、文化用品・雑貨が15%、残りが、飲食店・サービスといった構成だ。ただし衣類と雑貨の両方を販売する店など、従来の区分けでは業態を正確に表現できない店も現れ、業態の表現方法が難しくなっている。将来は、衣類を販売しながら飲食を供する店も現れるのではないかと考える。
―― 今後の課題は。
川井 働く人材の採用力(雇用力)が大事と考える。全国の流通・小売り産業と同様に、セノバも人手不足感が否めないことから、多くの人から働きたい場所として選ばれるようにしたい。そのために、顧客だけでなく、従業員の働く満足度も高めなければならない。職場としての魅力を高め、買い物の場としてのセノバのブランドと同様に、働く場としてのセノバブランドも高めたい。
―― 女性が安心して働けるように、4月にセノバ保育園を開園した。
川井 すでに22人に入園してもらっている。お母さん世代の女性にとっては、子供を職場の間近で預けられると安心して働くことができる。それこそ当社が標榜する幸せの場所「セノバ」で、職場の魅力度向上につながる。保育園は40人の定員のところ、30人が従業員向け、10人が地域向けになっている。
今後は、さらに園児が増えるだろう。セノバでは約1900人が勤務し、女性の割合が高いので、女性が働きやすい職場環境を作りたい。
―― 中期経営方針について。
川井 セノバの18年3月決算期の売上高は180億円(テナント売上含む)で、20年3月期には200億円を目指している。セノバは単館としての利点を活かし、約140テナントと向き合うことによるコンテンツ作りと、持続的成長を第一に運営している。
静岡県の人口が減少傾向にあるので、売り場面積などで規模だけを追う時代ではなくなっている。むしろ県内の消費者で、東京や大阪へ買い物に向かう人を、いかにセノバへ来ていただくかに腐心して館全体を充実させたい。
(聞き手・笹倉聖一記者)
※商業施設新聞2251号(2018年7月3日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.267