神奈川県内に都市型ショッピングセンター「MORE'S(モアーズ)」を4カ所運営する(株)横浜岡田屋。これまでも地域に根差したライフスタイルを提案し、消費や周辺環境の変化に対して柔軟に対応してきた。昨今のオーバーストアやECの隆盛に、どう事業を展開していくのか。代表取締役社長の岡田伸浩氏に聞いた。
―― 横浜駅では大型開発が進んでいます。
岡田 2020年完成に向けて駅ビルの開発が進む。並行して駅コンコースの段差である通称“馬の背”の解消が進められている。また西口駅前広場の各種整備が進められるほか、モアーズから鶴屋町にかけて抜ける脇道が歩行者専用道路になり、回遊性が高まる。現在、近隣商業施設、関係団体と調整している。
―― 横浜モアーズの状況は。
岡田 8、9階のレストラン街が好調で、ファンをしっかり掴んでいる。また、楽器やカメラなど趣味雑貨、携帯電話サービスなどの集積は利便性が高く、堅調に推移している。今期(18年5月期)売上高は前年並みの95億円強の見込みだ。
―― 1階はメンズのシップスとビームスが出店しています。ファッションは。
岡田 ファッションは持ち直してきている。特にメンズが戻ってきた。1階はメンズのみで、化粧品などには及ばないが、他と違う顔とする狙いもあり、一定の役割を果たしている。
―― 今後の取り組みは。
岡田 08年度の全館改装から今年で10年目を迎えることや、横浜駅の将来も見据え、レストラン街の充実や商業ビルとして独自のポジションを明確にする。内装、空間に手を加え、当社のテーマ「変わらないのは変わること」を表現する。
―― 川崎モアーズは。
岡田 かつてはインポートブランドも手がけていたが、川崎駅西口のラゾーナ川崎プラザ開業を機に方向転換し、「駅前立体商店街」をコンセプトに、1、2階をアミューズメント、2階以上を価格訴求型のテナントで構成している。
1980年竣工で老朽化が目立つため16年秋に、地下2階の食料品フロアを全面改装し、「かわさき市場」を開業した。テナントを一部入れ替えたほか、レジの位置を見直し、回遊性が高まった。2年目も好調で、今期は107%の約62億円を見込む。
―― 今後の取り組みは。
岡田 川崎区は人口増加が顕著だ。また、川崎駅東口の駅前本町は居住者も多いし、新しいマンションも増えている。だが西口のラゾーナなど、駅へ向かうには国道などで分断されて意外と駅までが“遠い”。当社はそこを狙う考えで、地下食品フロアの改装効果をさらに活かしながら、他とは一線を画すデスティネーションを持った専門店の集積という全館の特徴を生かしたい。
―― 横須賀モアーズシティは。
岡田 昨年秋に神奈川県逗子市のスーパー「エスパティオ」を「スズキヤ」にブランドアップした。ワインも少しグレードを上げて幅を持たせた。スズキヤは小学生を案内するバックヤードツアーの開催や、翌日の運動会用のメニューをつくるなど、地域密着に貢献していただいている。スープストックのコーナーなど、少しずつグレードアップして総合化させている。
今期はユニクロや無印良品などの基幹店や、前述の地下食品フロアは好調だが、昨年秋のニトリデコホーム導入に伴う工事期間中の売り上げ減や、アミューズがスマホゲームなどに押され、156億円と若干前年割れとなりそうだ。
―― 今後の展開は。
岡田 横須賀モアーズシティは横須賀市民の約8割が当社のポイントカード会員となっている究極の“会員制地域密着ショッピングセンター”であることが最大の特徴で、会員の年齢分布は10代から70代とバランスがとれている。
だが横浜駅の乗降客数200万人に対して、横須賀中央駅は7万人。なおかつ横須賀市人口は40万人だが減少している。従って地域密着一番店をより強固にする。カード会員の8割が女性で、さらに20、30代の女性の6割がモアーズカードを定期的に使ってくださる現状を踏まえ、毎日来ていただくため、地域に不足しているMDを補完し、来店動機の穴を埋める。
―― 具体例を挙げると。
岡田 地下食品フロアの改装を予定しており、生鮮の強化を進めている。ネットの時代に来店動機を高めるテナントを揃える。ただターゲットやアイテムは絞らない。お客様は抱えるが、年齢層は絞り込まない。当社はこういうものはやらないというコンセプト型でなく、横須賀モアーズシティに来店され、時間を過ごしたいと思うものを集めていく。買いやすさとサービス向上に取り組んでいきたい。
(聞き手・編集長 松本顕介/若山智令記者)
※商業施設新聞2240号(2018年4月17日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.258