大手調査会社のIHSマークイットは、7月27~28日に国内最多の受講者数を誇るFPD市場総合セミナー「第33回 IHSディスプレイ産業フォーラム」を東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)にて開催する。本稿では、その注目の講演内容を登壇アナリストに6回にわたって聞く。第4回は「モニター&デジタルサイネージ市場」を担当する上席アナリストの氷室英利氏に主要テーマを伺った。
―― 17年市場の注目ポイントは。
氷室 インタラクティブホワイトボード(IWB=電子黒板)市場に変化が起きている。従来は汎用の大型液晶パネルに赤外線タッチ機能を備えた製品が主流だったが、グーグルの「ジャムボード」、マイクロソフトの「Surface Hub」、シスコの「スパークボード」など4Kパネルに静電容量タッチを搭載した高級機種が相次いで登場し、市場が2極化してきた。こうしたスマートIWBは18年にかけての目玉商品になるとみている。
その理由は、ディスプレーメーカーではなく、システムメーカーがビジネス用途に向けて本格的な事業化に着手したことにある。ノキアの「ワンダーボード」のようなコンテンツマネジメントソフトも登場しており、従来のように単純な入力だけでなく、IoTを介してクラウドでデータを管理できる基幹業務システムのようなかたちが出来上がってきた。
―― 中国のIWB市場も活況だそうですね。
氷室 まだ発展途上だが、50~60インチのパネルと赤外線タッチを組み合わせた安価な製品を大量生産している。初等教育向けをメーンに公立の学校へ納入しており、ニーズが全土に広がりつつある。
中国市場がユニークなのは、公立校への導入に補助金が出るため、IWBの調達・整備を省単位で発注している点だ。こうしたニーズに対応する企業も成長しつつあり、CVTE、HikVision、DahuaといったIWBメーカーが知られるようになってきた。IWBは、まだパブリックディスプレー市場の2割を占めるにすぎないが、こうした中国企業の参入によってポーションが上がっていくかもしれない。
―― デジタルサイネージ市場については。
氷室 従来は耐久性の高い専用品が多かったが、ここにきてテレビに機能を付加しただけの製品が増えている。制御基板にサイネージ機能を付加した法人用をソニーが「Pro BRAVIA」として日本と欧米で展開しているほか、シャープも米国法人がサイネージテレビを販売しており、米国とカナダではサムスンやLGよりも売れている。大手企業がこうしたセットからサービスまで手がけるビジネスを展開し始めたため、中小業者には淘汰の波が押し寄せている。
―― テレビベースだと4K化が進みそうですね。
氷室 そのとおりだ。コンテンツが4K対応かどうかは別として、パネルの4K比率向上によってIWBもサイネージも4K品が主流になる。以前は20年の4K比率を2割とみていたが、IWBとサイネージテレビはすべて4Kになる。さらに言うと、中国IWB市場やサイネージテレビの拡大を含めれば、業務用ディスプレー全体で1000万台以上の市場を形成していると考えてもよい状況になってきた。
―― 大型ビデオウォール市場については。
氷室 液晶とLEDの競合が激しくなる。現在は、狭ベゼルの液晶パネルをタイリングするソリューションと大型LEDディスプレーがすみ分けているが、LEDが低価格化と狭ピッチ化によって、特に屋内用途で液晶が持つ市場に入り込んできそうだ。
現在のLEDディスプレーは1~2mmピッチが主流で、価格もまだ液晶より高いが、ここでも中国企業が安価な中国製LEDを用いて価格競争力の高い製品を作り始めた。米プラナーを買収したレアードをはじめ、ユニルーミン、ナノルーメンス、アブセン、アオトといった企業が知られるようになり、LEDチップの価格が年率2桁台で下がっている現状を鑑みれば、こうした企業が今後、台風の目になる可能性がある。
―― こうした用途に有機ELは採用されますか。
氷室 ソニーが医療用ディスプレーにJOLEDの印刷方式有機ELを採用することを発表済みだが、サイネージ市場ではまだ先だろう。すでにLGが大型有機ELサイネージを展開しているが、薄く軽く、曲面への対応で壁貼りが可能といった利点はあるものの、連続運転が求められる用途で画面焼き付きをどうクリアするのか未知数だ。
(聞き手・編集長 津村明宏)
「第33回 IHSディスプレイ産業フォーラム」の詳細情報はセミナー事務局(E-mail :
technology.events@ihs.com、Tel.03-6262-1824)まで。